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スナッパーロックスって人工波?

シリーズ「サーフィン新世紀」33

奇跡のスーパーバンク物語―「反対」から「提起」、そして「再生と希望」


先日、ゴールドコーストで開催されたCT戦。ライブ映像を観戦していたサーファーの中には、スナッパーロックスの不思議なコンデションに気づいた人もいただろう。 「オンショアの風が吹いているのに、なぜあんなにブレイクがいいんだ?」

ふつうならば、オンショアの風が吹けばフェイスは乱れ、ライディング距離は極端に短くなる。しかし、試合中のスナッパーは違っていた。一見するとジャンクなコンディション。しかし、トッププロたちが波を選ぶと、そこにはグリーンマントまで続くパーフェクトなブレイクが出現した。

その秘密は、海底に続く「理想的な地形」にある。スナッパーロックスからグリーンマント、レインボーベイそしてキラへと連なるこのエリアは、通称「スーパーバンク」と呼ばれ、すごいバレルが炸裂することで知られている。ネットの映像でその波を見たことのある人も多いはず。ここはいつも地形が良いから、たとえオンショアの風が吹いても、ある程度のクオリティは維持するのだ。

そのパーフェクトな海底の砂を、行政が人工的にコントロールしているのを、あなたは知っているだろうか?じつはスーパーバンクの波は、人間が自然の力を巧みに利用することで生まれた言わば「人工の波」と言っても過言ではない。

Photo credit:tweedsandbypass.nsw.gov.au スーパーバンクは、自然のサイクルを損なうことなく、科学と土木の技術を融合して成功した稀有なプロジェクト

1. 砂が消えた「絶望の時代」に灯った「希望の光」

世界中のサーファーが注目するゴールドコーストの波。じつはここも消滅の危機に瀕していた時代がかつてあった。その発端は1960年代にまでさかのぼる。ツイード川の河口に、船舶の航行を助けるための突堤(ジェティ)が建設され、巨大なその堤防が砂の流れをせき止めてしまったからだ。

砂が供給されなくなったスナッパーロックス側は、波に侵食されて年を追うごとに砂が消えていった。やがて海岸沿いの建物はサイクロンによる被害を被るようになり、行政は対策を求められる。

かつての面影を失った海を前に、クイーンズランド州とゴールドコースト市は、さらなる護岸工事とヨットハーバーの建設という、サーフポイントの消滅にトドメを刺すような再開発計画を立ち上げようとした。

その危機に対して立ち上がったのが、地元サーファーと市民たちだった。しかし彼らは、単に「建設反対」を訴えただけではなかった。地方政府に対して、前代未聞の代替案を突きつけたのだ。 それが、海の下に巨大な「砂の動脈」を構築する「ツイード・リバー・エントランス・サンド・バイパス・プロジェクト」である。(このプロジェクトはツイードリバーの対岸のニューサウスウェールズ州も協力している)

その運動の先頭に立っていたのが、元世界チャンピオンでもあるウェイン・“ラビット”・バーソロミューだった。

Photo credit:tweedsandbypass.nsw.gov.au グリーンマントのビーチに供給される砂、プロジェクト前と後のビーチ


2. 「抗議」ではなく「提案」を。世界チャンプ・ラビットの戦略

ラビットは当時を振り返り、こう語っている。 「わたしたちは、ただ抗議をしに行ったのではなく。最高の提案を携えて乗り込んだんだ。政府や土木エンジニアたちにこう問いかけた。『どうせ莫大な予算を投じるなら、世界一の波を創り出すようなやり方を試してみないか?』とね」

ラビットたちは、サーファーにしか理解し得ない「波の価値」を、行政や経済の専門家が納得できるように論理的に説明した。「ここに理想的な砂が溜まればワールドクラスの波がブレイクし、世界中からサーファーが押し寄せる。それは市にとって、年間数千万ドル規模の価値を生む、かけがえのない観光資源になるはずだ」と。行政の計画を変えさせるのは容易ではなかったことは想像に難くない、しかし彼らはついにやり遂げ、画期的なプロジェクトが始まることになった。

そして、その計画が受け入れられてからも、ラビットは行政に対して、砂を供給すべき正確なポイントをアドバイスし続けた。「最高のバレルが巻くぞ。だから頼む、信じてやってみてくれ」。 それはサーファーの純粋な情熱が、波に無知な技術者たちの心を動かした瞬間だった。

Photo credit:tweedsandbypass.nsw.gov.au 砂を浚渫するために建設された桟橋。砂はここからパイプを通って川の対岸へと運ばれる

3. 世界一の「波を創るマシン」の構造

具体的にどのようなシステムが構築されたのだろうか。それは、最新の土木技術とサーフィンの知見が融合した、インフラの芸術とも言えるプロジェクトとして結実した。

まず、河口の南側に長さ450メートルの桟橋を建設。その海底に10台の巨大な「ジェットポンプ」を設置した。このポンプが、海流に乗って流れてくる砂を「待ち伏せ」して吸い上げる。 回収された砂は海水と混合され、スラリー状(泥水状)となって地下パイプラインへと送られる。その距離、なんと4キロメートル。川の底をくぐり、市の地下を縦断し、スナッパーロックスの裏側へと供給される仕組みだ。

2001年にこのシステムが稼働を開始すると、間もなく信じられない光景が広がった。放出された膨大な砂が、スナッパーロックスからグリーンマウント、レインボーベイ、そしてキラへと一直線に繋がり、全長2キロにも及ぶ巨大なサンドバンクを形成したのだ。伝説の「スーパーバンク」が誕生したのである。

もしこのシステムが存在しなければ、先日のCT戦も単なる「オンショアのプアなビーチブレイク」としてサーファーの失望をかっていたはず。海底に揺るぎない地形があるからこそ、オンショアの風でも、波のクオリティはなんとか維持される。これこそが、計算され、デザインされた地形の底力だと言えるだろう。

Photo credit:tweedsandbypass.nsw.gov.au ウェイン・バーソロミュー氏の尽力で現在のスーパーバンクが存在することを忘れてはならない

4. 次世代を担うサーファーたちへ

この物語は、決して遠いオーストラリアの出来事だけではない。 日本の多くの海岸線も、さまざまな危機にさらされている。地形は崩れ、消波ブロックが並び、砂浜は痩せ細っている。ゴールドコーストの復活は、わたしたちに重要なヒントを与えてくれた。やり方次第では「新たな波を創造できる」ということだ。

ラビットはこう結んでいる。 「エンジニアは数字で海を見る。だがわたしたちサーファーは、足の裏で砂を感じ、水の躍動を肌で知っている。その二つが調和したとき、奇跡は起きるんだ。ホームポイントを守りたいなら、賢くなってほしい。海を愛する情熱を、社会に伝わる言葉で語りかけるんだ」

ゴールドコーストの黄金色に輝く砂は、今日も地下のパイプラインを流れ、サーファーたちに未来を切り拓く勇気を送り続けている。

参考資料:tweedsandbypass.nsw.gov.au


(李リョウ)

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