(ペティボーンが好きだというタナーがアートワークを手がけた)

タナー・グダスカスの6年間取り組んだプロジェクト「Digital Surf, Digital World」とは?

今やサーフィンとデジタルの関係は切っても切れない関係。
デジタルな手法で波情報を得て一般サーファーでもデジタルカメラで動画や写真を撮影するのが当たり前の世界だ。

しかし、波に乗る行為自体は今も昔もアナログであることに異論はないだろうし、サーファーの中にはアナログな生活にこだわっている人も多い。

思えば、ほんの数十年前(ケリーがデビューした頃)まではサーフィンメディアもアナログだった。
当時はフィルムカメラだったし、スマートフォンもなく、波情報もアナログ。
サーフィン雑誌もウェブサイトはほとんどなく、紙媒体で読むのが当たり前の世界。

サーフトリップで知らない土地に行った時もナビゲーションは紙の地図。
「Google マップ」も「Uber」も「Airbnb」もなく、行き当たりばったりで宿を選んだり、評価を見ずにレストランに入っていた時代だった。

21世紀、デジタルな時代でもあえてアナログな手法でクリエイティブを追求するアーティストは多い。

今回紹介するグダスカス兄弟の末っ子、タナー・グダスカスはサウスカリフォルニアのパンクバンド「ブラックフラッグ」のロゴデザインなどを手がけた西海岸を代表するアーティスト、レイモンド・ペティボーンの作風が好きで、自らが撮影側になった場合、あえてフィルムを使用するそうだ。
そんなターナーがアレックス・キラウアーノと共に取り組んだ15分の作品「Digital Surf, Digital World」も、ほんとどがフィルムで撮影されている。

では、アナログのこの作品が何故真逆のデジタルという言葉を使っているのか?
その話の経緯は世界中がロックダウンしていた今春まで遡る。

ターナーは自身のYouTubeチャンネル、Paradise Awareness OutreachでFaceTimeを利用してケリー・スレーター、トム・キャロル、テイラー・スティール、アルビー・ファルゾン、カラニ・ロブ、ミック・ファニング、ジャック・マッコイ、リサ・アンダーソン、ボビー・マルティネス、シェーンドリアン、ダミアン・ホブグッド、ネイザン・フレッチャー、デーン・レイノルズ、クリス・マロイ、ネイザン・ヘッジなどの大物にインタビューをしていた。

会話はロックダウンのことから始まり、トム・キャロルとはパイプマスターの勝利について話し合った。

その後、地元のカリフォルニアの海が解放され、ターナーは地元のトラッセルズ、オーシャンサイドなどでサーフィンを再開させたが、コロナ禍の前に撮影した旅のクリップを沢山持っていた彼はエンドレスサマーやファイブサマーストーリーのような純粋な興奮と経験を感じたサーフムービーに影響され、創作活動をしてみんなを楽しませたいという衝動に駆られたそうだ。

「この作品は約6年間取り組んだフルプロジェクトなんだ。元々、タイトルとテーマは違うもので、全く逆になる予定だった。それに当初はオンラインで公開せず、もしかしたら全く世に出ない可能性もあったのさ。地元と直接繋がるようなことをしたかったんだ。しかし、新型コロナウイルスの影響で計画が一転した。私達にとってこの作品を公開する道はデジタルしかなくなってしまったんだよ。作品のほとんどはフィルムで撮影してアナログペイントの技術で編集したんだ。’Paradise Awareness Outreach’での大物との会話も使用している。あれは本当に特別な時間だったし、どの部分を使用して良いか本当に迷ってしまったほど意味がある会話が多かったんだ。アルビー・ファルゾンとネイザン・フレッチャーのパートを選んだのは、彼らの言葉が作品のテーマと私がこのプロジェクトを通して伝えたかったことに合っていたからさ。どんなにデジタル化が進んでも、サーフィンの感覚が失われないことを願っている。今は友人と繋がるためのプラットフォームが沢山あるけど、友人とサーフィンするという繋がりがなくなることは決してないよね」
タナー・グダスカス

15分の作品「Digital Surf, Digital World」はケリーの名作「Kolor」のVHSテープをビデオデッキに入れる場面から始まる。

地元カリフォルニアでのターナー自身のクリップや、パトリック、デーンとの子供時代、ハワイでのビッグウェーブのシーン。
世界中の変な波をサーチする「Weird Waves」で一躍時の人になったディラン・グレイヴスも出演している。

この作品のクライマックスであるポルトガルでは、まずエリセイラに向かい、旧友のマーロン・リプケに再会する。
彼のナビゲートでゴニー・スビサレッタも交えてヨーロッパで最も美しい海岸線の一つ、最南西端のサグレスへ。そこでは期待を裏切らないパーフェクトなバレルを手に入れた。
コショスではエネルギー溢れるトム・ロウと一緒に素晴らしい波を満喫。
まるでマジックのような出来事が起こり続けた旅だった。

コンテストの世界から離れようと考えていたターナーはこのポルトガルの旅で友人との関係が正しい方向に向かっていることを受け止め、自分の知っている波を友人とシェアすることほど素晴らしい感覚はないと気付いた。
そのアナログな感覚をデジタルの世界で表現したのが、この「Digital Surf, Digital World」という作品なのだ。

(空海)

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