Ben Aipa at Haleiwa by RR

追悼、ベン・アイパとスティンガー

シリーズ「サーフィン伝説

サーフボードデザイン界に大きな足跡を残した巨星


ベン・アイパのプロファイル

ベン・アイパはハワイ出身のサーファーで60年代から70年代初期にはコンペティターとしても活躍した。彼はまた革新的なサーフボードシェイパー/デザイナーとして知られ、スワローテイルやスティンガーと呼ばれたデザインを世に送り出した。

1942年にホノルルでベン・アイパは生まれた。父親はサトウキビ工場で働く労働者だった。アイパは、20代前半までフットボールのセミプロとしてキャリアを積んでいたが、足首の怪我が原因でその世界から退くことになる。アイパはそれまでサーフィンとは無縁だった。

Ben Aipa. seandavey.com

しかしサーフィンと出会ってからというもの、アイパはかつてラインバッカーとして活躍したときのようにサーフィンに没頭。1965年は1日も欠かさずにパドルアウトし、翌年にハワイ州のチャンピオンシップで優勝という快挙を成し遂げ、さらにサンセットで開催されたデューク・カハナモク・クラッシックではファイナリストに残った。

さらに1967年のマカハインターナショナルと1975年ライトニングプロで4位、1968年と70年の世界選手権でもハワイの代表として戦っている。約110キロもの体重のあったアイパは当時の同世代のサーファーよりもターンにパワーが必要だと思われていたが、機敏さとバランスそして技巧でそのハンデを克服した。彼はまた強面(こわもて)で、周囲から恐れられたサーファーとしても知られていて、ハワイの混雑したポイントでも好きな波を乗ることができたという。

「彼からは強烈なオーラが発している」と1972年に米サーファー誌はベン・アイパを表現した。パイプラインのキング、ジェリー・ロペスでさえ「ベンが近づいてきたら、理由はともかく彼には逆らうな」とコメントしている。

アイパはサーフィンを始めた頃からすでにシェープを始めていた。フレッド・ヘミングスが1968年に世界チャンピオンになったときのボードは、アイパがシェープしている。

1970年にはアイパ・サーフボードが立ち上げられ、アイパはたちまちデザイナーとしての才能を発揮する。1972年にはスワローテールを発明し、翌年にはスティング(スティンガー)を開発。その二つのデザインを融合させたサーフボードはアイパのテストパイロットたち(ラリー・バートルマン、マイケル・ホー、バテンス・カルヒオカラニそしてマーク・リデル)によって乗られて電撃的な波及効果を上げた。

さらにアイパは、彼のチームが初期のプロツアーに参加していたためにトレイナー/コーチとしての役割も務め、その後の10年間もさまざまな選手を育てた。その中にはサニー・ガルシア、ブラッド・ガーラック、カラニ・ロブ、そしてアンディとブルースのアイアンズ兄弟がいる。

seandavey.com

アイパ自身も全盛期を過ぎてもコンテストへの出場を続け、1989年には全米選手権のグランドマスタークラス、2000年にはレジェンドデビジョンで優勝している。

また彼は80年代初期に、すでに時代遅れとなっていたロングボードを現代風にアップデートして蘇らせた。「結婚してサーフィンする時間が無くなった男たちをターゲットにしたんだ。彼らは体力もベストではないからね」とアイパは1999年の米ロングボードマガジン誌に語った。「彼らには波を捕まえられるサーフボードが必要なのさ」当時のアイパは7’6”のハイブリッドに乗っていて米サーファー誌は「世界で一番ホットな56才」と呼んだ。

1991年にはインターナショナル・サーフィン・ホール・オブ・フェームにノミネート。2004年には米サーフィン誌が「究極のトップ10シェーパー」の1人にアイパを選び、2018年にはハンティントンビーチでのシェーピング・ホール・オブ・フェームとサーフィン・ウォーク・オブ・フェームに選ばれている。

彼の長男、アキラ・アイパは1989年の全米選手権で2位に入賞し、人気のあるサーフボードシェイパーとして活躍している。そして2021年、ベン・アイパは糖尿病や認知症などの闘病の末にこの世を去った。享年78才。

スティンガー(スティング)

再燃の可能性をも秘める70年代のデザイン

スティンガーは70年代にベン・アイパによって発明されたデザインで世界中に普及した。ベンはスティングという名を付けたが、いつのまにかスティンガーという呼び名で世界に広まった。

バンプとスワローテイルそしてステップデッキがスティンガーの特徴だ。シングルフィンで回転性が良いサーフボードデザインと言ったらこれ
https://markrichardssurfboards.com

このデザインには三つの大きな特徴がある。一つはサーフボードのレールにあるバンプだ。これはワイドなアウトラインのサーフボードと、ナローなサーフボードのアウトラインを重ねて一つにしために生じたもので、スティンガーの最大の特徴でもある。

そのバンプのボトム側にはステップボトムと呼ばれる二つ目の特徴となる『段』がある。ステップボトムは加速したときに水の抵抗を減じる効果があり、スピード性能と回転性を向上させる。三つ目の特徴はテールで、スワローテールというフィッシュテールに似たスプリットになっている。これはレールターンを切り返したときにテールの反応を早くするのが目的で、瞬発性が向上するという。ちなみにステップボトムやスワローテールでないスティンガーも存在する。

ベンのデザインはオリジナリティが高く、かつワイキキの華やかさを彷彿させる派手な色使いやロゴが人目を引いた。写真はベン・アイパと天才サーファー、バテンス・カルヒオカラニ
http://www.surfline.com/templates/article.cfm?id=108705&sef=true

スティンガーの目指したものは、浮力を維持しつつもサーフボードの長さを抑えコントロール性能を向上させるというものだ。ワイドな前方は浮力があってパドルを助け、ナローな後部はシャープなターンやクリティカルなポジションでの安定性を得られるようにした。これらのコンセプトはベン・アイパ自身が重量級のサーファーで、それをサーフボードデザインで補おうとしたのが理由だと筆者は推測する。このデザインの有効性は世界チャンピオンとなるマーク・リチャーズが試合で使用していたことからも証明済みだ。ちなみにマーク・リチャーズも大柄なサーファーで、スモールウェーブをサーフするために苦心していた。

フラットなボトム(上)にくらべてステップボトムは水流の抵抗を減らす効果があるが、同時に速度が増すと不安定さももたらすという弱点もある
http://www.lesliefield.com

このデザインが70年代に起こした爆発的な流行は、その性能だけではなくラリー・バートルマンなどのハワイアンのチームライダーがメディアに数多く登場したことも大きな要因で、アイパ自身もそれを認めている。70年代は世界中のシェーパーがスティンガーをコピーした。スティンガーは、その後もアップデートを繰り返し、極端に長いフィンボックスのバージョンやピンテール、さらにステップデッキの無いバージョンなどに変化していった。

1976年のノースナラビーンで開催されたコカコーラ-25Mサーフアバウトにアイパのスティンガーで出場したマークリチャーズ Instagram: @markrichardssurfboards

しかしその後にマーク・リチャーズが自ら改良したツインフィンが世界を席巻し、マルチフィンの時代の到来もあってか、スティンガーの人気は急速にフェイドダウンしてしまった。トレンドから取り残されたような感のあるスティンガーだが、今でもこのデザインの有効性は変わらず、近年もアイパはロングボードにこのスティンガーを取り入れたモデルを発表していた。シングルフィンが見直される昨今、レトロチックなセブンティーズとしてスティンガーが再び脚光を浴びる時代がやってくるかもしれない。ビジュアル的には申し分のない「かわいいデザイン」でもあるからだ。

李リョウ

参考文献
https://markrichardssurfboards.com
http://www.surfline.com
http://www.lesliefield.com
https://eos.surf/

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