世界戦を戦っていた頃のジョエル・チューダー 当時彼が乗っていたドナルド・タカヤマのサーフボードは、世界で最も売れたロングボードと言われた ©RiRyo

ジョエル・チューダーを『レトロ』と考えるのは誤りか?

フィッシュデザインの生みの親ステイーブ・リズ

フィッシュは現在から30年以上も昔にサンディエゴのニーボーダー、スティーブ・リズによって開発された。ホローな波ではストレートなラインになってしまうが、パワーの無い小波で威力を発揮した。リバイバルしたフィッシュは、トライフィン登場以後に最もヒットしたボードとなった。スタイル・レジェンドのトム・カレンがポエチックにJ-ベイでフィッシュをサーフしたのが口火となり、70年代のサーフファッションとしてもフィッシュは脚光を浴び、新しいサーフィンとして流行したからだ。サーフボード業界やメディアもこの流行に反応しフィッシュのアップデート版を発表する。アウトラインを変えたり、ロッカーを増やしたりツインフィンをスリーフィンに変更したが、それでも彼らは『フィッシュ』と呼ばせた。『レトロ』はフィッシュだけでなくその他のレトロチックなサーフボードの機能にも有効性があることを証明したが、それでもグラススリッパー(※)の系統に属するハイパフォーマンス・トライフィンは、ショートボーダーのディフォルトなエクイップメントとして存在し続けている。しかし2000年の初頭からプロサーファーの乗る最先端のボードだけが正しいとされていた風潮は消えた。サーファーは波のコンデションが整わないときにはフィッシュやクワッド、アンティークなシングルフィン、ハルそしてロングボードなどでサーフするのが一般的になった。

※グラススリッパー:80年代、ケリー・スレーターを中心にしてニュースクーラーと呼ばれた世代が好んで使用した極端に薄く幅の狭いサーフボードを指す。語源は物語シンデレラのガラスの靴を皮肉って付けられたと推察される。

Tom Curen Ref:shredsledz.net
90年代には時代遅れと考えられていたツインフィンでJベイをサーフするだけでセンセーショナルな出来事だった。トム・カレン

ロングの第一人者として支持されたジョエルだったが・・・

『レトロ』は本来ロングボーディングの復興がきっかけとなったのだが、ロングボードはしだいにその流れから外れていった。その理由はショートボーダーとロングボーダーは海の中で相入れない関係だからだ。しかしその対立の壁は、長い時間を経て低くなってきている。しかも、新しい世代に際立つロングボーダーたちが登場してきた。
サンディエゴのジョエル・チューダーはその中心的存在だ。正しい見方かどうかはともかくとしても、ジョエルは『レトロ』全体を象徴する広告塔となった。チューダーは90年初期にはロングボードの神童と称された。そばかす顔で痩せていて、甲高い声、15才にしてスムースなロングボーディングを極めデビッド・ヌヒワの域に達していた。彼はロングボードの世界タイトルを2度制した。(1998年、2004年)しかし彼はカテゴライズされるのを嫌がり、90年代後期になると海での時間の半分を、精巧にレプリカされた60年代や70年代のショートボードのために費やした。彼はいわゆるレトロの第一人者で、しかも最もイカした支持者となった。

彼はすでに過去となったさまざまなグッズで身の回りを飾った。64年のシェビーベルエアーに乗り、屋根には往年の時代のサーフラックをボルトで止め、チャーリー・パーカーを聴いた。ベルボトムを履き、インセンスを焚き、髪は「エボリューション」のウェイン・リンチのように伸ばした。また彼はサーフィン業界について批評もし、サーフィンの精神性についても言及する発信源となった。「僕は過去からのメッセージを未来に届けたいだけ」とサーフィン誌のインタビューで答えた。「視野を広くするんだ」。『レトロ』には冷笑的な連中でさえそのチューダーという象徴には心を許し、その視野を広げた結果、ジョエル・チューダー・サーフボード『ダイヤモンドT』モデルノーズライダー(手書きのディケール付き)でバックヤードスタイルなアブストラクト・フィニッシュは$1050で売れた。チューダーにとってプロサーファーになることは大きな壁ではなかった。

https://vimeo.com/314870175?fbclid=IwAR2nBVyA0A9fjAFeF7YDMRL5F5OgqY11njdVZmGcw5gg4wz_UiL5mqyEevY
ジョエルのサーフィン哲学はすでに次世代に受け継がれている。

彼はまるでマリブのファーストポイントで波に乗るように時代のトレンドにはまった。そのビジネスはさておき、チューダーがサーフィンの実践から積み上げたその実力は誰よりも高い。彼はさまざまなデザインのサーフボードを完璧に乗りこなした。つまり彼はジャズのLPレコードアルバムや古着のビンテージを収集するだけでなく、今の時代には忘れ去られようとしているスピリッツ、つまりサーファーで在るということはどういう意義があるか、という命題を深く掘り下げようとしている。例えばレーベルやステッカーをサーフボードにたくさん貼ることがカッコいいことではないと、教えてくれたのはチューダーだ。彼のほとんどのボードは、ロングだろうとショートだろうと小さなロゴがデッキにあるだけだ。チューダーはハイパフォーマンス・サーフィンという枠組みを超えて同世代のどのサーファーよりも活躍している。「波の上でこんなことができるかとか、クレイジーになれるかとかは意味が無い」と彼は1999年に答えている。「つまり、どのくらいクリーンに波をメイクできるか?どのくらい美しくスタイリッシュにサーフできるか?だよ」

多岐にわたるサーフボード・エクイップメントとライディングスタイルに対する示唆に富んだ彼の発言、その源泉は『レトロ』という言葉だけではとうてい片付けることはできない深みがある。しかし何れにせよチューダーはサーファーから支持され『レトロ』という流行の一役を担い、ペイズリー模様のサーフボードとビーバーテールウェットスーツ等と共に新しい世紀へとこれからもグライドして行くのだが。

(李リョウ)

この記事はマット・ワルショー氏のコラム『A Dance with the Past』から構成されています。
https://eos.surf/history/section/retro/

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