世界戦を戦っていた頃のジョエル・チューダー 当時彼が乗っていたドナルド・タカヤマのサーフボードは、世界で最も売れたロングボードと言われた ©RiRyo

ジョエル・チューダーを『レトロ』と考えるのは誤りか?

シリーズ「サーフィン新世紀」18

独自の解釈でサーフィンフィロソフィーを貫く孤高のサーファーJTをマット・ワルショーが考察する


21世紀になり『レトロ』と呼ばれるトレンドが定着して久しい。さて、ジョエル・チューダーはレトロのカリスマのような存在としてもてはやされているが、それはどうだろうかとサーフジャーナリストのマット・ワルショーがコラム「ザダンスウィズザパスト」のなかで書いているので紹介したい。ファッション化してしまったレトロムーブメントに酔うサーファーをワルショーは冷ややかに見つめ、ジョエル・チューダーが追求している本質とそのレトロには大きなギャップが存在していることを示唆しているように感じるのは、私だけではないと思う。

「ダンスウィズザパスト」

文:マット・ワルショー 構成:李リョウ

1980年代初期に起こった熱狂的なロングボードの復興は、サーフィンの歴史に新しい光を当てることになり、ビッグウェーブサーフィンにまで影響を及ぼすことになった。この、サーフィンの過去を振り返るというこれまでにない出来事によってサーフカルチャーは裾野を広げ、より趣の深いスポーツとなった。

90年代に『レトロ』として流行したのが(やや冷笑的な感は否めないものの)60年代から70年代のソウルサーフィンだ。『レトロ』はその時点では大流行こそしなかったものの、21世紀の初頭になると世界中のサーフタウンで、80〜90年世代の若いサーファーたちが、こぞってあごひげを蓄え、クローゼットをビンテージ物の衣類で一杯にし、ビーバーテールのウェットスーツを着て、ガレージセールで手に入れたぼろぼろのシングルフィンサーフボードを、リビングルームにこれ見よがしに飾った。彼らは普通のビーチファッションとは異なったスタイルを志向した。

この『レトロ』を志向するサーファーたちの特徴は、オルタナティブで、サーフコンテストやその順位に関わろうとせず、過剰なサーフロゴを嫌い、海の中では攻撃性を控えたサーフスタイルを志向した。サーフビデオは『モーニングオフジアース』の影響を受けた『スプラウト』や『リトマス』、『ブロークダウンメモリー』などを彼らは観て楽しむが、ハードコアなソウルサーファーを目指さずにファッション性だけに注目した。

サーフボードデザインにも影響を及ぼした『レトロ・ムーブメント』

だが『レトロ』というムーブメントはサーフボード・エクイップメントにも影響を及ぼした。なぜならば1990年初期の一般的なサーフボードは極端に薄く狭くそのために揚力にも限界があったからだ。当時ニュースクーラーと呼ばれた若い世代が好んで乗ったサーフボードは「グラススリッパー:ガラスの靴」と呼ばれ、世界クラスのベストサーファーが操れば急旋回を可能にさせた。しかし彼らのようなエキスパートでなく、身体能力の劣るサーファーにとっては悪夢のサーフボードとなった。それはまるでレストランのトレーでサーフィンをしているようなもので、パドルは遅く反応も繊細すぎて波のフラットなところではすぐにスタックした。「アベレージサーファーが操れないサーフボードにプロが乗るというのは、このスポーツの歴史上初めての出来事」とカリフォルニアのサーファー、シェーパーのデーブ・パーメンターが1993年の記事に書いた。

90年代にこのデザインを見たとき(筆者)は、まるでロングボードのようなノーズという印象を受けたが、21世紀になった現在ではスタンダードなデザインとなった。デイブ・パーメンターとスタブ・ベクター  Ref: nowtro.com/vector

パーメンターはその答えとして「スタブ・ベクター」というデザインのサーフボードを発表する。それは当時のサーフボードよりもワイドでフラットなデザインだった。「スタブ・ベクター」は、オフザリップのスナップや急旋回は「グラススリッパー」には劣ったが、波にテイクオフするときは夢のように簡単でプレーニングも良くターンもスムース、そしてもちろんのことユーザーフレンドリーであった。しかしニードルノーズが一世を風靡していた時代に、そのワイドノーズのデザインは受け入れられず。ワールドツアーのプロやサーフィン誌の編集者にもそのボードは無視されて普及するまでには至らなかった。
しかし『レトロ』の本質はパーメンターのボードに近いもので、つまり浮力の重要性がそこにあった。『レトロ』の支持者たちが好んだサーフボードのデザインは、ずんぐりしたスプリットテールの『フィッシュ』だった。

トライフィンの登場以後もっともヒットしたサーフボード「フィッシュ」の登場

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