1985年から2008年の間、波の力の増減を表した図。日本近海も波の力が1%以上増えていることがわかる。 (Source: Nature Communications)

海水温上昇で波のパワーもアップ!その仕組みと私たちへの影響を考察

真冬でも海に入るサーファーとして、水温や波のコンディションは常に気になるところ。夏なら迷わず入るような波でも、冬場になると「もうちょっと波があったら入るのに」、「もうちょっと水温が暖かければ入るのに」なんて思うことはないだろうか。

今年1月、そんなサーファーにとって興味深いタイトルの論文を発見した:
A recent increase in global wave power as a consequence of oceanic warming
(海水温上昇により近年波の力が世界規模で増加している)

論文を読んでいると、確かに波のサイズとパワーが増えているらしい。 最新の研究結果を読み解きながら、私たちへの影響を考察する。


気候変動の影響

気候変動の仕組みや人類への影響は数多くの研究によって明らかになりつつある。二酸化炭素に代表される温室効果ガスの増加によって地球にたまっている熱が海に蓄積され、海水温の上昇につながっていることも最近明らかになった。

暖かくなった海水が膨張するのに加え、極氷冠が解けて海に流れ込み、海面上昇に拍車をかけていることももはや疑う余地はない。島国である日本を含め、世界中の海抜が低い沿岸地域にとって海面上昇が大きな脅威として認識されている中、今年1月に学術誌Nature Communicationsで発表されたカリフォルニア大学の研究では「波力」、つまり波の持つエネルギーが地球規模で長期的に増加していることがわかり、更なる危険が浮上してきたのだ。

風と波

風が海面上を通ると、風の一部のエネルギーが海面に伝わり、波を引き起こすメカニズムとなっている。長時間、広い海域で強い風が吹くと、その分大きな波が形成されるのだ。発生源(風が吹いている海域)に近い場所では波長の短い「風波」が立ち、強い風が長時間かつ広範囲で吹くと波長の長い「うねり」が形成される。

今までの波の研究は波高を指数にしていたが、同じ波高でも風波とうねりでは、波が持つエネルギーが違う。今回カリフォルニア大学を中心に行った研究は波が持つエネルギーに着目した。このエネルギーを「波力」としてとらえ、波高より正確に波のパワーを測ることができる。

最新の研究でわかったこと

今回のカリフォルニア大学の研究では、海面水温の上昇によって海面を通る風が強くなるため、長期間、また世界規模で波の力が増していることがわかった。つまり、波が大きくなっているだけでなく、波が持つ力も強くなっているのだ。また、海面水温との因果関係がはっきりしているため、「波力」は地球温暖化を計測する上で大切な指数になりうることも言える。

「この研究によって地球温暖化が波の力に及ぼしている影響が初めて明らかになった。実際のところ、1948年以来世界規模で波の力が毎年0.4%増加していてる」と研究筆頭者であるカリフォルニア大学海洋学研究所のレグエルド教授が話す。波力の上昇は温暖な海域だけでなく、むしろ水温が低い南極海での影響が大きいようだ。

海域ごとの年間平均波力(縦軸が波の力)。南極海(赤)の増加が特に顕著であることが明らか (Source: Nature Communications)

私たちへの影響

海面上昇と同様に、波が持つ力は沿岸部や海抜の低い地域の存続にとって非常に重要な要因になる。従来のデータを基に設計されている現在の港や防波堤などのインフラは、果たして今後増していく波のパワーに耐えうるのか?浸食が進めば、沿岸の道路や住宅などに影響がでるのは明らかではないか?

サーファーにとって「波のパワーが増す」という表現は、一見してポジティブに聞こえてしまう面もあるが、現実はそう甘くは無い。ビーチブレイクが多い日本では浸食によって砂浜が削られてしまうと波が割れづらくなったり、今まで比較的安定した地形を保てていた玉石や河口のサーフポイントも波の力が増えることで変わる可能性がある。こういった海底地形の変化で今現在愛されている多くのサーフポイントの行方が心配だ。

一つはっきりしていることは、今まで通りの状況はいつまでも続かない。できるうちにサーフィンをいっぱい楽しむのと同時に、この楽しさをできるだけ長く続けられるためにどうすればよいか考え、すぐに動き始めたい。

(ケン・ロウズ)

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