ワックス2個を失いながらも、無事に宮崎・日向にたどり着いたケイト君

あわや乗り遅れ! サーフワックス機内持ち込み拒否トラブル いったいなぜ?

先日、宮崎へサーフトリップに出かけた。現地で関西地方に住む4人組と合流。私が到着するなり、ケイト君(29)が「僕だけ乗り遅れるとこだったんですよー」と言い出した。

聞けば、ボードケースに入れていたサーフワックスが検査に引っ掛かり、搭乗間際、出発カウンターに呼び戻されたという。そんな話は聞いたことがない。興味をそそられ、調べてみると、サーファー、メーカー、航空会社ともに、ちょっとした意識改革の必要性が見えてきた。

「帰りに返します」

10月上旬、伊丹空港で宮崎行きの便にチェックインし、保安検査を無事に抜けたケイト君一行。搭乗口付近にいると、空港内のアナウンスでケイト君の名が呼ばれた。焦りつつ保安検査場の職員に事情を説明し、特別通路から、もと来たルートを逆走。出発カウンターに駆け戻ると、数十分前に預けたはずのボードケースがそこにあり、横に職員2人が立っていた。

「中にサーフワックス入ってると思うんで、開けてもらっていいですか」「この辺にあると思うんですけど」

ケイト君がワックスを取り出すと、職員はタブレット端末を操作し、「これちょっと載ってないんで、いけませんね。お預かりしてもいいですか。帰りに返します」と告げた。そして、「これがOKなやつなんですけど」と、一覧を見せてくれた。

国産と手作りがアウト

ケイト君は「いけるサーフワックスはメジャーなやつばっかで、ざっくり10種類くらいあったかな。フーワックスやセックスワックス、スティッキーバンプスとかは大丈夫だった。職員には『これに載ってないんでダメなんです』と言われた」と振り返る。

機内に持ち込めなかったワックスは2種類。「純国産」で知られるSRSのワックス(写真)と、地元のショップが手作りしたワックスだった。手作りワックスは外箱もなく、裸のままワックスケースに入れていた。

職員に預けたワックスとの引換券を受け取ると、搭乗口の仲間のもとへ走り、宮崎行きの便に飛び乗ったケイト君。帰りの便の到着は受け取り可能時間の午後9時を回っており、残念ながら職員に預けたワックス2個を取り戻すことはできなかった。

職員に預けた2個のワックスとの引換券

「飛行機の時間ぎりぎりだったから、理由は詳しく聞かなかったけど、世間に出してほしい、この話。危うく乗り遅れたかもしれないし。ワックスも値上がりしてて1個600円とかで、取られたのけっこうムカついてる。京都では大麻成分が入ったヘンプワックスが流行ってるけど、あれもダメなのかな。なんで持ち込めなかったのか、謎を解明してほしいっす」

判断基準は「安全データシート」

さっそく、ケイト君たちが利用したJAL(日本航空)のお客様サポート室に尋ねると、以下のような返答が来た。

サーフボード用のワックスの取り扱いにつきましては、ワックスの成分により、航空輸送上の危険物に該当するか否かの確認が必要であるとのことでございます。そのため、空港におきましては、お客さまがお持ちになられた製品〔ワックス〕の製造業者様や販売会社様より発行されている製品に対する安全データシート(Safety Data Sheet)をもとに、空港係員が成分をお調べし、その内容から非危険物と判断できた場合は、機内持ち込み、ならびに受託手荷物としてのお引き受けが可能となる旨の報告がございました。

JALお客様サポート室

安全データシートを基に持ち込み可否を判断することは分かったが、ワックスの何が航空機の運航に危険を及ぼすのか、分からない。JAL広報部に改めて問い合わせてみると、なんとなく概略がつかめてきた。

航空会社は機内持ち込み、受託手荷物としての危険物について、国土交通省が作成した「機内持込み・お預け手荷物における危険物の代表例」という資料を参考にしているという。

「機内持込み・お預け手荷物における危険物の代表例」
https://www.mlit.go.jp/common/001425421.pdf

国土交通省が作成した「機内持込み・お預け手荷物における危険物の代表例」

液体・ペーストは機内持ち込み、受託も「×」

JALの担当者はこう説明する。

「国土交通省のリストを参照いただきサーフボード用のワックスもリストにある スキー・スノーボード用ワックス・ワックスリムーバーと同様の扱いですので、固形であれば機内持込、お預けともに可能でございます。

液体、ペーストであれば不可となりますが、製品製造業者様や販売会社様より発行された製品に対する安全データシートをもとに空港係員が成分をお調べし、その内容から非危険物と判断できた場合は機内持込、お預けともに可能となります。

安全データシート(SDS)がない=成分を把握できていない、となりますので機内持込、お預け手荷物ともに不可となります」

国交省の資料では、たしかに固形は「〇」で、液体・ペーストは、機内持ち込み、受託手荷物とも「×」。ただ、「備考」として、液体・ペーストでも「引火点が摂氏60℃を超える液体状のものは輸送可」とあった。

今後、トリップの荷造りの際、ワックスには注意が必要だ

ワックスは可燃性の危険物

ワックスにはパラフィンという石油に由来する白いろう状の個体が使われていることが多い。ろうそくやマッチの原料にもなるため、高温になると、引火の危険がある。このため、航空会社は、それぞれのワックスメーカーの安全データシート(SDS)を見て、安全性が確認されたものだけ、機内持ち込みや受託を許可しているようだ。

参考までに、Made in JAPANをうたう「波WAX」がオンライン上で公開している安全データシート(SDS)の概略は以下の通り。

・「製品および含有量」…パラフィンと天然鉱石、接着剤の混合品及び香料
・「危険性」…可燃性である。(消防法の可燃性固体類に指定)
・「溶解時の場合」…固形での取り扱いの場合には問題発生が少ないと思われるが、溶解時の取り扱いには火傷などの障害を招く可能性があるので注意を要する。
・「融点」…72℃(±1℃)
・「引火点」…208℃以上
・「発火点」…データなし

ワックスは消防法上は可燃性固体類にあてはまり、火災で着火しやすく、低温で引火しやすいという。ただ、上記のワックスは引火点が208℃以上なので、たとえ、検査で液体・ペーストと判定されても、JALが安全データシート(SDS)を確認していれば、持ち込めるはずだ。

検査の詳細はノーコメント

では、JALはどうやって、ケイト君のボードケースに入っていたワックスが持ち込めないものだと分かったのか。他の仲間たちも、同じくボードケースにワックスを入れていたが、呼び出されたのはケイト君だけだった。

JALの回答は「保安検査の詳細については回答を控えさせていただきます」。ここからは推測するしかない。

職員がボードケースを一つ一つ開けて、ワックスのメーカーを確認しているのでなければ、何らかの検査機器を通して、ワックスが固形ではなく液体・ペーストと判定された可能性がある。その上で、本人同席のもと、ボードケースから取り出してメーカーを確認したところ、JALが安全データシート(SDS)を持っていないメーカーだったため、持ち込みを拒否されたのかもしれない。

JALに改めて、持ち込めるワックス一覧を見せてほしいと頼んだが、「ご依頼いただいている一覧は持ち合わせておりません」と言われてしまった。

全日空(ANA)にも、サーフワックスの持ち込み制限について質問したが、「危険物・機内持込制限品に関しましては、国土交通省航空局の指針に則り、保安検査係員が都度、確認のうえ、判断しています」との回答にとどまった。

第2のケイト君を生まないために

トリップ中、ケイト君はずっと誰かのワックスを借りていた(笑)

今後、空路でサーフトリップに出かける場合、特に手作りやマイナーブランドのワックスを持ち込みたいなら、事前に航空会社に確認することがサーファーには求められる。

本来、機内持ち込み制限の対象となる、引火点が60℃以下の液体・ペーストのサーフワックスなど、ほぼ存在しないだろう。そんな危険なワックスは、真夏の車内に置けたもんじゃない。各メーカーが安全データシート(SDS)を作成し、それを航空会社がきちんと把握してさえいれば、大半のワックスは持ち込み制限されることはないはず。

そして、一番求めたいのは、航空会社による周知徹底だ。今回、サーフワックスのせいで、航空機の遅延を招きかねなかった。円滑な運航のためにも、サーフワックスの機内持ち込み、預け入れ制限は広く知ってもらう必要がある。

JALにお願いすると、広報部の担当者は「ご指摘いただきありがとうございます。弊社HPにも機内持込、お預けいただけるお手荷物について掲載させていただいていますが、さらに分かりやすくなるよう検討させていただきます」と答えてくれた。ぜひ期待したい。

(沢田千秋)

Photo:Chiaki Sawada and her friends

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