オリンピックはサーフィンをサーファーから奪ってしまう?! ~未来のサーフィンを考えよう~

シリーズ「サーフィン新世紀」①

サーフィンが史上初めて正式種目となる東京オリンピック。「世界中の人々にサーフィンを広め、この喜びを共に分かちあいたい」とは近代サーフィンの父デューク・カハナモクの夢。その実現がこのオリンピックで明らかとなる。すなわち2020年はサーフィンがメジャースポーツとして新たなスタートを切る元年だ。このオリンピックにより世界的にサーフィンの普及に拍車が掛かるのはまちがいないだろう。人々はサーフボードを抱えて海へ向かい。お茶の間では家族がTVモニターの前に集まり、まるでワールドサッカーを観戦するように、波に挑むサーファーに熱い声援をおくる。視聴率はうなぎ登り、大手スポンサーによって賞金額はゴルフやテニスに追いつく勢いで、プロサーファーはバイトを止め、サーフィン業界も活況に溢れる。そんなサーフィンへの期待の高まりを感じているのはもはや日本国内だけではない。


スノーボーダーの手から離れてしまったスノーボード

しかし未来へのポジティブな期待とおりに物事が安直に進むわけではない。たとえばすでにオリンピック種目となって20年が経過するスノーボードが良い例だ。「スノーボードがスノーボーダーの手から離れてしまった」とでも表現できるような事件が起こっていたことを知るサーファーは少ない。「サーフィンがサーファーの手から離れてしまった」と、言いかえたならばあなたはどう感じるだろうか。その事件は1998年の長野オリンピックを前にしてIOC(国際オリンピック委員会)、)FIS(国際スキー連盟)そしてIFS(国際スノーボード連盟)らの立場の違いから起こってしまった。

当時スノーボードは新しいウインタースポーツとして世界的な大ブレイクを起こしていた。じつはそのスノーボードをオリンピックの新しい種目に加えようという動きがIOCにあった。それは将来を見据えたIOCの大胆な改革でもあった。だが強い反対を申し立てた組織があった。スキーのFISだ。ゲレンデを滑るスポーツとして君臨してきたスキーにとってスノーボードという新興勢力は邪魔者以外の何者でもなかった。そんなときにIOCがスノーボードをオリンピックへ参加させるという動きに出たわけである。FISとしては黙っているわけにはいかない。言うまでもなく冬季オリンピックはスキーのためのオリンピックであったわけで、そこにあの忌々しいスノーボードが参加してくるなんて、FISにとっては聖域を侵されるような気分であっただろう。冬季オリンピックはFISの協力があってこそ成立している。だからIOCにとってもFISの反対は無視できない。

そこでIOCが大胆な秘策をFISに持ちかけた。スノーボードの競技の運営をFISに委ねると提案したのである。その提案を聞いて、それまで猛反対していたFISは態度を一変しスノーボードの種目を認めることになる。寝耳に水だったのがスノーボードの組織IFSだ。スノーボード界の発展を支えてきただけでなくハーフパイプ等の競技はIFSのスノーボーダーたちのアイデアと言ってもいい。オリンピックに参加してその運営をIFSが行うのは当然の成り行きだったはずである。

だがIOCはスノーボードのIFSを非情にも排除した。つまりスノーボードをスノーボーダーから取り上げてスキーのFISに委ねた。スノーボード競技の運営を任されたFISは、オリンピック出場資格を得るための試合を開催し選手を囲いはじめた。そのやり方にトップクラスのスノーボーダーたちが怒りを爆発させオリンピックをボイコットし、実力の伴わない選手が金メダルを獲得するという事態まで引き起こした。現在ではショーン・ホワイトのような有力な選手もオリンピックに参加し金メダルの価値は高まったが、IOC,FISとIFS(現TTR)との確執は未だ続いているという。

▼2018年平昌オリンピック新種目の「ビッグエア」も同じくFISが主導


WSL(プロ)とISA(アマ)の協力体制は万全?

さて、サーフィンに目を向けてみよう。現在、聞き及ぶところによればIOCとWSL(ワールドサーフリーグ)そしてISA(国際サーフィン連盟)が2020年に向けて努力を傾注しているという。さらに運営はISAが行うということで大筋の合意はとれている。オリンピック参加へのロビー活動は何年にも渡ってISAのフェルナンド・アギーレ会長が行ってきたからWSLはそれに不服はないし、WSLとISAの間の不協和音はこれまで聞いたことはない。プロとアマの組織ということで住み分けができていたからだろう。

だがお互いの立場を尊重しながらクリアーしなければならない問題が目の前に迫っている。まずは選手選抜の基準だ。実力だけならば40名の枠にWSLの選手名がずらりと並んでしまうだろう。WSLの枠はそのうち18名という公式発表がされている。しかしオリンピックはいろいろな国の代表が参加するスポーツの祭典という観点から考えると、すでに決定事項とはいえWSLが約半分の選手枠を取ってしまうことに批判が噴出する可能性もある。ISAが運営を任されるとジャッジングのクライテリアはISA基準となるのか。いずれにせよスノーボードのような組織間の対立は存在しないから、ネガティブに考えすぎるのは老婆心かもしれない。

WSL選手以外の枠は、2019、2020年の「World Surfing Games」の結果等より選考。2018年の開催地は日本・伊良湖


金メダリストが真の世界チャンピオンか、それとも・・・

さらに話題からは少し外れるが、将来世界チャンピオンの定義がオリンピックによって揺らぐ可能性もある。ケリー・スレーターが「サーフィンのオリンピック参加は大変喜ばしいことだとは思うけれど、WSLは一年をかけて世界チャンピオンを決めている。たった一回の試合で金メダル(世界一)というのはいかがなものか」とコメントしている。ISAで勝てばオリンピックに出場できるという流れができてしまうと、WSLがこれまで世界一を決めてきたという一般サーファーの認識に変化が起きるかもしれない。他のスポーツでは世界選手権よりも金メダルの価値の方がずっと重いと考える選手が圧倒的に多い。

確かな情報筋によるとサーフィンに関する案件はまだ白紙のものが多く平昌オリンピックの会議で決定されるという。これまではサーファーの組織がサーファーの基準で準備を進めてきた。しかしIOCがいつまでISAに運営を任せるかという不安もある。東京大会はISA主導で乗り切ったとしてもパリやロサンジェルス大会ではIOCが自ら運営をする可能性も出てくる。「サーフィンがサーファーの手から離れてしまう」そんな寂しいことだけは起きてしまわないようにと願うばかりだ。

李リョウ

Photo:ISA

 

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