Ref:TSJJ9-1 Kenta Hayashi

変わらぬ原風景とパーフェクトウェーブ。18年前の記憶が蘇る四国の旅(TSJJ読みどころ③)

5月15日より販売されている『ザ・サーファーズ・ジャーナル日本版』の最新刊9.1号

米『THE SURFER’S JOURNAL』誌は、60年代に創刊された世界初のサーフィン専門誌『SURFER』誌の編集長をはじめ、米サーフィン出版界の重鎮として長年活躍してきたスティーブ・ペズマン氏によって1991 年に創刊。以来29年間、最も信頼されるサーフィン誌として世界中のサーファーから愛されています。

その日本版となる本誌は、オリジナルのクオリティを踏襲しながらも、日本独自のコンテンツも掲載。本物のサーフカルチャーを伝えるライフスタイル・マガジンとして、高い評価を受けています。

ここでは、サーフィンジャーナリストであり、本誌の執筆・写真・翻訳などを務める李リョウが、冊子の読みどころと編集秘話をシリーズで解説。


長逗留・四国の旅/BOUNTY

ここではパーフェクトウェーブに誰も驚かない。そして18年前の河口で、林健太との出会い。

四国の太平洋に面する海岸線は、日本のノースショアーと言っても差し支えないと思う。初めて僕がこの地を訪れたのはある雑誌の取材で、たしか18年くらい前のことだった。そのとき高知市にある川の河口をチェックするとパーフェクトな波がブレイクしていて、ロコ達が普通にサーフィンを楽しんでいた。ザデイというような張り詰めた雰囲気でなく「けっこう良かったよ。チューブも入れた。」そのていどの会話で収まってしまうような彼らの様子に僕は驚いた。湘南だったら酒盛りになるようなクオリティーの波だったのに。四国とはそういうところか、という印象が僕の脳のどこかに焼きついた。『ここではパーフェクトウェーブに誰も驚かない』

その旅の途中で猿飛佐助のようなサーフキッズに出会った。たしかまだ中学生だった林健太である。毎日、父親らしき男性と現れては軽業師のごとくサーフィンを披露するが、シャイだったのだろう、僕と目を合わせようとしない。話しかけようとすると察して遠くにパドルしていってしまう。しかしディープなポジションからチューブに入り、ハウジングを持って泳ぐ僕の横をなんども通り過ぎて行く。だから僕は知らんぷりのフリをして、健太が通過する寸前に振り向いてシャッターを切った。それがそのトリップのベストショットとなり、記事とはまったく関係のない林健太の写真がその最初のページを飾ることになった。彼にとっても全国誌のデビューとなりサーファー林健太がそのキャリアを積み上げるスタートラインになったのだと僕は今でも思っている。

Yuji Nishi photo :RyoRi

その後の、彼の大活躍はここで説明しなくともジャーナルの読者ならばすでにご存知と思うが、健太と今回の旅で再会し、その成長した姿を見ることができたのは率直にうれしい。

さて、今回の記事は紆余曲折を経てこの9-1に掲載されることとなった。編集後記で森下編集長が述べているとおり、これは取材を依頼されたのではなく個人的な旅行であった。鎌倉で原チャリのように乗り回しているホンダライフに、サーフボードとコンパクトカメラを積み、一週間ほどで戻るはずの旅であった。田中宗豊の銀杏のサーフボードの話は森下に告げてはあったが「写真撮ったら見せてよ」くらいの社交辞令を交わしただけだった。

Photo : RiRyo

空振りと思われた四国の旅。ついに訪れた「ザデイ」と銀杏のサーフボード

記事の本文のとおり、2017年は空梅雨で、つまり河口にサンドバーは無く、とうぜん低気圧の通過も無いから波も小さかった。日照りに困り果て、しかも大阪へ他の仕事で向かわなければならない宗豊は、シェープどころではなかった。今回の旅は空振りだなと思っていたところ、森下から「まだ四国?」と電話があった。青山氏の記事を編集したいのだけど写真はあるが文章がないという。そこで挨拶がてらに青山氏のロッジを訪ねると、人手が足らずになんと宿泊客が掃除や洗濯をしていた。朝の掃除とベットメイクだけしてくれたら空いている部屋に好きなだけ泊まっていいと青山がいう。「食事も冷蔵庫の中の材料を使って食べてください。せっかく四国に来たなら良い波に乗って帰ってください。もうじき雨が降って河口のサンドバーも決まりますよ。」と耳元で青山がやさしく囁き、原稿の仕事はパワーブックで書けば良いかとついその気になってしまった。

そして青山のロッジに引っ越すやいなや大雨注意報が発令され、徳島から高知まで続く海岸線の河口は砂を吐き出してどこも準備万端となり、ナウファスをチェックしながら国道55号を行ったり来たりするようになった。

この旅の2年後、日本のウッドボードをテーマにしようと編集ミーティングで話し合われたときに、森下が銀杏のボードのことを思い出して僕に電話を掛けてきた。「李君たしか銀杏のボードの話を以前していたよね。」

「ああ、あれですか」とハードディスクに眠っていた四国の写真を閲覧しているうちに、2017年の旅が蘇り、思い出したことをどんどん書き取っていった。最初は脈絡のない文章だったが、何度も推敲を重ねる度になんとか読める紀行文になり、森下や井澤統括編集長にも助けられながらめでたく掲載となった。

ちなみに記事のほとんどは小型のデジタルカメラで撮った写真。p1のラインナップは夜明け前でまだ暗かったが、ザデイの荘厳な雰囲気をどうしても残したくて、撮れなくてもいいやという気持ちでシャッターを押した。光量不足で、写真的に言う「眠い一枚」だがザデイのフィーリングは伝わってくると思う。この記事を読んで『BOUNTY:恵み』と英題をつけたのがディレクターのジョージ・カックル。さらに長逗留に「ながどまり」とルビを振ったのが森下編集長だった。ちなみに誤字脱字を発見したが、もう手遅れ。この場を借りてお詫び申し上げます。

(李リョウ)


THE SURFER’S JOURNAL(ザ・サーファーズ・ジャーナル)日本版9.1号

発売日:2019年5月15日
定価:2,052円

●世界でも選りすぐりのフォトグラファーによって捉えられた、サーフィンの美しく迫力に満ちた瞬間。
●新旧様々なライターたちに綴られる、本質的でバラエティに富んだストーリー。
最も信頼されるサーフィン誌として世界中のサーファーたちから愛されており、書店では買うことができない希少なライフスタイル・マガジン。

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