シリーズ「サーファー達が町を支える」全国ローカリズム事情③
サーフポイントという自然豊かなローカルな場所だからこそ抱える、過疎化や津波などの災害対策、観光復興などの様々な課題に対して、地元のサーファー達が地域と連携し、海岸周辺の課題解決に一役買っているケースも少なくない。
しかし地元サーファーの活躍や功績は、これまで大きく取り上げられることはなくあまり認知されていない現状がある。
この企画は、それら地元サーファーの活動を訪れるサーファーにも改めて伝えたい、そんな思いから始まった。
シリーズ第3回は静岡県「牧之原市」。各地のサーファー達の活動を紹介したい。
2011年「東日本大震災」を境に沿岸部がさみしくなった。
そのような話しが、地元のサーファーのみならず、行政からも聞かれる。
静岡県を代表する海水浴場のひとつ「静波海水浴場」の年間利用客は当時100万人、昭和の時代は200万人ともいわれたが、近年は年間30万人ほどに減少。
もともとマリンレジャーが盛んな静波海岸の周辺には、飲食店や宿泊施設が多く存在するが、当然ながらその利用客も減少傾向。2019年の夏季シーズンは天候の問題や台風被害などもありその影響は顕著だったという。
しかし一方で、「静波海水浴場」や最寄りの「御前崎海岸」なども含めると、年間で60万人のサーファーが海に訪れている。静波海水浴場を有する牧之原市は、兼ねてよりサーファーを対象とした海のPRに取り組んでいた。
サーファーの悪いイメージを払拭。30年続けるビーチクリーン
牧之原市(当時の榛原町)は兼ねてより、夏季のみの海水浴客とは異なり、季節を問わず海に訪れるサーファーに注目していた。静波海水浴場では、これまでJPSAプロコンテストの開催実績もあり、2000年からは全国のアマチュアサーファーが集う日本サーフィン連盟(NSA)の公認大会を毎年のように開催。
本大会は現在も継続しているが、当初の自治体は地元サーファーとあまり良い形でコミュニケーションを取れていなかったという。
そこにはサーフィン=遊びのイメージと、一部の心無いサーファーが起こすマナー違反などがあり、当時はサーファーに対するネガティブな意見も多かった。
しかしこの関係を少しずつ変えていったのは、地元サーファーの地道な努力であり、平成元年より30年以上続けているビーチクリーンもその活動のひとつ。海岸清掃は行政の管轄ともいえるが、実行するには人手と予算が必要。地元のサーファーが自主的に行っているボランティア活動は、行政や地域住民が持っていたネガティブなイメージを少しずつ変化させた。
オリンピック招致に続くホストタウン事業。来日選手の強化合宿を地元サーファーがサポート
「サーフィンには、ファッションや音楽、食文化も巻き込む “町づくり” のパワーがある。」
2016年、サーフィンが東京オリンピックの追加種目に決定した際、牧之原市は同県内の下田市、磐田市とともに、開催招致を行っていた。
また、静岡県内のサーフィン競技開催は叶わなかったものの、その後に中国とアメリカのナショナル・サーフィンチームとホストタウン契約を締結。
2018年には中国チームの第1回強化合宿が行政主導で行われたが、来日した選手らは地元サーファーとのコミュニケーションが取れず、あまり良い成果を得られなかったという。
しかし2019年に開催された第2回強化合宿では、自治体からの正式な依頼を受け、NSA静岡2区支部が全面協力。前年の課題を皆で話し合い、来日選手がサーフィン中は地元サーファーも一緒に海に入るなどして、各選手のトレーニングをサポート。
これまであまり近い関係とはいえなかった行政と地元サーファーが連携。参加した中国チームからは「前年よりもやりやすい」と高評価を受け、38日間の強化合宿が終了した。
届きやすくなったサーファーの声。海岸環境の移り変わり
オリンピックイヤーとなる2020年、静波の海岸周辺整備に当てられる予算は8000万円。海岸には新たに温水シャワーも完備するトイレ施設が完成する予定で、これは兼ねてより地元サーファーらが要望を出していたもの。
また、昨年は台風19号による被害が大きく、海沿いの駐車場や公道にも沢山の砂とゴミが溜まってしまったが、撤去作業の相談に対して行政はすぐに対応。
近年は自治体の活動に地元サーファーが協力し、行政もまたサーファーの声を受け入れる、良い関係が構築されている。
今後の取り組みと将来の可能性
今、牧之原市で最も注目を集めるのは、2020年秋に開業予定のウェーブプール。
本プールは民間企業である “Surf Stadium Japan株式会社” が建設・運営となるが、牧之原市としても人工プール建設はオリンピック招致の段階から計画・検討していたもの。市としては、沿岸部の活性化を図る意味でも全面的に協力をする予定で、今後は海サーフィンに加えてウェーブプールも含めた様々な取り組みが期待されている。
また、海岸よりすぐの人工施設ながら、訪れるサーファーにとっては季節風のオフショアが吹き続く冬場など波が無い日の利用価値は十分にあり、今後は地元サーファーらも積極的に関わっていく予定。
近年は、地元のサーファー達が地域と連携し、海岸周辺の課題解決に取り組んでいるほか、行政側にもサーファー職員が存在し、その橋渡し役を担っているケースも少なくない。
また全国的には、サーファーの市議会議員なども活躍し、大きな変革を遂げている地域も存在する。
来るオリンピック・パラリンピックをきっかけとし、サーフィンを核とするマリンスポーツを活用したまちづくりを推進する牧之原市。
ホストタウンであるアメリカ、中国との交流はオリンピック終了後も継続する予定。今後も地元サーファーと連携を取ることで、より良い環境への変化も期待できる。
今後も様々なエリアで行われている地元サーファーの活動、行政や地域住民との関わり合いを紹介していきたいと思う。
取材協力:NSA(日本サーフィン連盟)静岡2区支部
(THE SURF NEWS編集部)