ツアーで最もリスクがある波、パイプラインで開幕戦を終えたツアー一行はツアーで最も管理された波、サーフアブダビで第2戦を戦う。
会場となるサーフアブダビは、アラブ首長国連邦の首都・アブダビの砂漠と海に囲まれた人工島のフダイリヤット島にあり、ケリー・スレーターのウェーブプール「サーフランチ」のテクノロジーを利用した初の商業施設。
サーフランチとの大きな違いは、改良されたシステムと一般公開向けの施設。
オイルマネーが溢れる中東らしく、全体にラグジュアリーな空間になっている。
そして、海水と風。

真水のサーフランチではEPSのボードが主流だったが、海水で浮力を増すサーフアブダビはPUに切り替えた選手が多い。
サーフアブダビのサーフ体験のシニアディレクターを務める元CT選手のミッチ・クルーズ曰く、「海水による小さな不規則が加わり、面白いマニューバーを生み出すこともある」そうだ。
また、サーフランチがあるカリフォルニア内陸部レモーに対して人工島のフダイリヤット島は海岸に近いため、風の影響が加わりやすい。
この時期の季節風はサーフアブダビに対してサイドオフとなる北西風で、2月は一般的に最も風が強い月となる。
ポジティブに考えれば、自然の波に近くなり、それが賛否両論あったサーフランチのイベントよりも面白味を増す可能性がある。
フォーマット

ウェーブプールでのイベントは毎回改良されており、今回の『Surf Abu Dhabi Pro』でもフォーマットが変更されている。
まず、通常のOpening RoundはQualifying Round(予選ラウンド)と呼ばれ、メンズは3人ヒートで1名のみRound of 16進出。
残り24名はNight Sessionと呼ばれる敗者復活戦をリーダーボード方式で争い、トップ4がRound of 16へ。
ウィメンズも基本的には同様で、Qualifying Roundは3人ヒートで1名のみQF進出。
残り12名によるNight Sessionのトップ2がQFへ。
Night Sessionは文字通り、夜に行われ、ウェーブプール特有のナイター設備を利用して行われる。
各ラウンドはライト、レフト共に2本づつ波に乗り、それぞれのベストスコアがカウントされるが、Night Sessionのみ例外で、ライト、レフト共に1本のみのライドで、ベストスコアがカウントされ、より緊張感が高まるラウンドになる。
その先は通常のCTと同じでマンオンマンのヒートがファイナルまで続く。
カノアがレオを倒す

PHOTO: © WSL/Thiago Diz

日本人では、まずオープニングヒートでコナー・オレアリーがジェイク・マーシャル(USA)とルーキーのエドガー・グロッジア(BRA)を相手にトータル10.84でトップ通過。
五十嵐カノアは12ヒート中、11ヒート目に登場。親友のレオナルド・フィオラヴァンティ(ITA)とルーキーのアラン・クリーランド(MEX)と対戦した。
パイプラインではバレルのスキルを見せつけたアランだったが、ウェーブプールは慣れていないようで、このヒートはカノアとパイプラインで2位になったレオの一騎打ちのような形となり、2本目のライトで7.57を出したカノアが僅差でレオを倒した。

PHOTO: © WSL/Thiago Diz
「かなり緊張したよ。本当に大事なスコアで、レオと見つめ合ったよ。どっちが勝ってもおかしくないほど凄い接戦だったし、正直、本当に難しいヒートだった。自分がしたいことは分かっていた。ラインも決まっていたけど、2ターン目の後に全く違う展開になってしまい、即興でライドしたのさ。たまにそれが上手く行く時もあれば、完全に外れることもある。本当に難しい試合だったね」
次の対戦相手は今回参加している選手でウェーブプール最強と言えるフィリッペ・トレド(BRA)
フィリッペはビッグエアーを封印してバレルとマニューバーで7.83のハイエストスコアを出していた。











PHOTO: © WSL/Manel Geada


和井田理央の挑戦

PHOTO: © WSL/Max Physick
ツアー3年目、インドネシアの和井田理央は、開幕戦のパイプラインで憧れのケリー・スレーターという夢を実現させ、アブダビでは次のステージに上がろうとしている。
初日のハイスコアのラインは7ポイント台で、まだ8ポイント以上は出されていないが、理央は7.47と上限をクリア。
ライアン・カリナン(AUS)と久々にツアーに戻ってきたアレホ・ムニーツ(BRA)を大差で倒した。

「こういう瞬間が大好きなんだ。みんなに同じチャンスがあって、ほぼ平等。海では難しいこともある。ツアーに10年も出ている選手たちに対して自分は経験が浅い。彼らはその経験を活かして勝つことができるよね。でも、このフォーマットでは自分自身に集中してベストを尽くすことができるのが凄い良いし、楽しんでいるよ。ただサーフィンして、自分に集中して、自分がやることをやるだけ。それが戦略さ」
次のラウンドは日本のコナーとのカードになる。
ルーキーがカレントリーダーに勝利

Qualifying Roundではウェーブプールイベントでの経験が豊富なトップシードの選手が強かったが、ハワイのジャクソン・バンチがルーキーで唯一トップ通過を果たした。
パイプラインで感動的な2連覇を達成した同じハワイのバロン・マミヤ、ベテランブラジリアンのミゲル・プーポとの対戦は、この日最初のアーリーウープを決めたバロンがリードしていたが、すぐにジャクソンが逆転。最後のランではフロントサイドとなるレフトでバレル、アーリーウープとフィニッシュにエアーをメイク。7.33を出してRound of 16進出を果たした。
「これまでレフトの波では同じことをやっていたんだ。自分には努力してきたという自信がある。もちろん、波に上手く合ったこともあるけど、タイミングを合わせて、適切なタイミングでセクションに当たることが大事だね」
マウイ島出身の21歳のジャクソンはグーフィーフッターで、カラニ・ロブ、ロブ・マチャドのスタイルに似ている。
Round of 16進出の時点で、開幕戦の17位を上回る結果が約束された。
ウェーブプールでの2連覇を狙うグリフィン

PHOTO: © WSL/Thiago Diz
サーフランチで最後にCTが開催された2023年にイタロ・フェレイラ(BRA)を抑えて優勝したグリフィン・コラピント(USA)はサーフアブダビの波も完璧にコントロールしている。
シングルスコアではフィリッペが上回ったが、トータルスコアでは14.57とこの日のハイエストを揃え、イーマイカラニ・デヴォルト(HAW)とワイルドカードのカウリ・ヴァースト(FRA)を抑えた。

「全員に平等なチャンスが与えられる。そして、ライト、レフト共にパフォーマンスをしなければいけない。小さい頃から、できるだけ多才でいることに重点を置いてきたので、サーフィンのあらゆる側面で評価されるのが大好きだよ。それが自分の長所だと思う。最初から自分の最高の技を見せるわけにはいかない。できればファイナルに向けて温存したい。それが戦略さ」
初日のハイスコアのラインは7ポイント台で、まだ8ポイント以上は出されていない。
これはグリフィンを始め、ウェーブプールを得意とする選手が重要なラウンドまで大技を隠しているからだろう。
特に後半のラウンドはとてつもない勝負になる可能性がある。
3名のオージーがQualifying Roundをクリア

PHOTO: © WSL/Manel Geada
現在のCTでオージーのトップ2となっているロボことジャック・ロビンソンとイーサン・ユーイングは安定したライディングでQualifying Roundをクリアした。
イーサンは2023年のサーフランチイベントでSF進出を果たした時のように美しいレールワークで7.50をスコアしていた。
「海ではポジショニングやチャンスがどれだけあるのかを常に気にしなきゃいけない。この大会の良い点は、確実に波が来ることがわかっていることだね。しかし、プレッシャーは間違いなくあるよ」

PHOTO: © WSL/Max Physick
一方、開幕戦でパーフェクト10を出しながらもヒートでは敗退してしまったロボは、最初の2本でスコアを固めてルーキーのジョージ・ピッター(AUS)とリプレイスメントのイアン・ジャンティ(HAW)を倒した。
過去2大会で最下位に終わっているロボにとって、このラウンドをクリアしただけでも大きな意味がある。
「プールではかなり練習した。何度かここに来ているしね。だから、自信を持って臨めるし、気分も良い。やるべきことをやって、いくつかの良いスコアを出して次のラウンドへ進めたのは良かったね。コンディションは風の影響で変わることもある。ウェーブプールだから毎回同じと思われがちだけど、必ずしもそうじゃないんだ。時に風が強くなったりするからね」
その他、Qualifying Roundではリアム・オブライエンがラムジ・ブキアム(MAR)、ジョアオ・チアンカ(BRA)との最終ヒートを勝ち上がっている。
ブラジリアンが強かったNight Session

PHOTO: © WSL/Manel Geada
ナイター設備を利用したNight Sessionは各選手共にライト、レフトの1本勝負。
24名の選手が争うリーダーボード方式で、次に進めるのは僅か4名のみと独特の緊張感があった。
ハイエストスコアはグラブレール・エアリバースをメイクしたミゲル・プーポの7.77で、その他デイヴィッド・シルヴァ、マテウス・ハーディとブラジリアンが強く、唯一オージーのジョエル・ヴォーンが滑り込んだ。
一方、開幕戦で優勝したバロン、2位のレオを始め、注目されていたワイルドカードのブロンソン・メイディ(IDN)などが敗退している。

PHOTO: © WSL/Manel Geada
大会2日目は現地時間2月15日の朝7時(日本時間同日のお昼12時)にスタート予定。
ウィメンズのQualifying Roundの後、メンズRound of 16と続き、最後にウィメンズのNight Sessionが進行する。
Surf Abu Dhabi Pro Men’s Round of 16 Matchups:
HEAT 1: Ethan Ewing (AUS) vs. Deivid Silva (BRA)
HEAT 2: Jordy Smith (RSA) vs. Miguel Pupo (BRA)
HEAT 3: Griffin Colapinto (USA) vs. Jackson Bunch (HAW)
HEAT 4: Rio Waida (INA) vs. Connor O’Leary (JPN)
HEAT 5: Italo Ferreira (BRA) vs. Mateus Herdy (BRA)
HEAT 6: Filipe Toledo (BRA) vs. Kanoa Igarashi (JPN)
HEAT 7: Jack Robinson (AUS) vs. Liam O’Brien (AUS)
Surf Abu Dhabi Pro Women’s Qualifying Round Matchups:
HEAT 1: Brisa Hennessy (CRC) vs. Lakey Peterson (USA) vs. Bella Kenworthy (USA)
HEAT 2: Caroline Marks (USA) vs. Isabella Nichols (AUS) vs. Luana Silva (BRA)
HEAT 3: Caitlin Simmers (USA) vs. Bettylou Sakura Johnson (HAW) vs. Macy Callaghan (AUS)
HEAT 4: Molly Picklum (AUS) vs. Johanne Defay (FRA) vs. Vahine Fierro (FRA)
HEAT 5: Tatiana Weston-Webb (BRA) vs. Gabriela Bryan (HAW) vs. Sally Fitzgibbons (AUS)
HEAT 6: Tyler Wright (AUS) vs. Sawyer Lindblad (USA) vs. Erin Brooks (CAN)
WSL公式サイト
http://www.worldsurfleague.com/
(黒本人志)