ケリー・スレーターのウェーブプール「サーフランチ」のテクノロジーを利用した初の商業施設サーフアブダビで開催中のCT第2戦『Surf Abu Dhabi Pro』は現地時間2月15日に2日目を迎え、ウィメンズのQualifying Round、メンズのRound of 16、ウィメンズのNight Sessionの順で進行してQFを戦うベスト8が揃った。
サーフアブダビのライディング距離は公式500m。
この時期は北西の季節風の影響を受けやすいが、この日はクリーンなコンディションを維持していた。
サイズは公式3ft。日本のサイズ感だと頭〜頭オーバーはあるようなパーフェクトな波で世界トップの争いが繰り広げられていた。
フィリッペを倒した五十嵐カノア

ウィメンズのQualifying Roundの後に8ヒート行われたメンズのRound of 16。
ウェーブプールのイベントは波が出るのを待つ時間が一番のネックだが、ここからはマンオンマンに変わるため、少しテンポが上がり、僅差のゲームが多かったために緊張感がある面白いラウンドになった。
このラウンドではフィリッペ・トレド(BRA)、グリフィン・コラピント(USA)と過去にサーフランチイベントを制した選手が敗退した。
まず、フィリッペを倒したのは、日本の五十嵐カノア。
ここまでのCT対戦記録は8戦中フィリッペが6勝と上回り、カノアの苦手な相手だった。


PHOTO: © WSL/Manel Geada


先攻のカノアは最初のランから非常に集中力とコミットメントがあるように感じ、ターン、バレルセクション共に完璧にこなし、ライトではアーリーウープ系のクリエイティブなグラブレールエアーもメイク。
イベント最高のライディングで8.17と7.60をまとめてフィリッペにプレッシャーをかけた。
一方、フィリッペの最初のランはライト、レフト共にワイプアウトでスコアが伸びず、ここで流れはカノアのものになった。
2本目のランで余裕が出たカノアはライトでワイプアウトするが、レフトでは長いバレルを含む素晴らしいライディングで7.53のハイスコアを出す。

PHOTO: © WSL/Thiago Diz
最初のランのスコアを更新しなければ勝ちがないフィリッペはライトでビッグターン、バレル、エアーと繋げてカノアと同じようなアーリーウープを決めるが、最後のセクションで目の前の水中カメラマンが邪魔となり、ターンの最後にワイプアウト。
サーフボードのフィンが折れていたので、完全に接触したものと思われるが、やり直しはなかった。
ヒート後にはヘッドジャッジの判断で「最後のターンが成功すれば加算されるだろうポイントは0.2〜0.5で、勝敗に関係なかっただろう」と公表された。
ここで集中力が切れたフィリッペはレフトのエアーセクションでミスしてしまった。
フィリッペにとっては不運でヒート後は怒りと絶望に包まれるような表情だったが、カノアはすぐに彼の元に向かい、言葉をかけてフィリッペもスポーツマンらしくそれに応えていた。
「正直、フィリペとの対戦は、一番シンプルな戦略で挑める。とにかく全力を出し切るだけさ。スコアのことも、自分が何ができるかも考えない。ただ、波の上で持てる全てを出し切るだけなんだ」
次のQFの相手はRound of 16でカノアのスコアを上回る8.50を出していたイタロ・フェレイラ(BRA)
トータルスコアではカノアの15.77がこの日のハイエストだが、非常にタイトな試合になることは間違いない。
ラスボスの後にまたラスボスが現れるような展開だ。
ハイエストは21歳のルーキー

PHOTO: © WSL/Thiago Diz
サーフランチで最後にCTイベントが開催された2023年に優勝したグリフィンはルーキーのジャクソン・バンチ(HAW)と対戦。
先行となったジャクソンが最初のランで6.50とイベント初の9ポイント、9.23を出してカノアの次に高い15.73を揃えた。
ライト、レフト共に2本づつしか乗れないフォーマットでは、最初のランが非常に重要。
特に先攻の選手は成功すれば相手にプレッシャーをかけられる。
このカードの場合も後攻のグリフィンは最初のライトのなんでもないようなセクションでワイプアウト。レフトは7.00と成功するが、2本目のライトで大きなプレッシャーがあるのは変わりなく、ミスしてしまった。

「グリフィンとの勝負は世界最高レベルのサーファーと対戦するのと同じさ。だからこそ、自分のベストを出して、持っているトリックを全て繰り出すしかなかった。去年の11月末にセス・モニーツやバロンと一緒に練習しに来たんだけど、その時は波がもっと速くて難しかった。でも、今回は少しスローになっていたから、落ち着いて波を選び、ターンのタイミングを調整できた。あの波を完璧にメイクできてて本当に興奮してるよ」
ジャクソンの9.23はフルレールターン、バレルの距離、エアーの成功度と数共にこの波で可能な全てが入っていた。
特に中盤のアーリーウープは完璧だった。
次のQFは和井田理央(IND)との対戦となる。
その他にQF進出を決めたのは、イーサン・ユーイング(AUS)、ミゲル・プーポ(BRA)、ジャック・ロビンソン(AUS)、ヤゴ・ドラ(BRA)
ハイエストはモリー

PHOTO: © WSL/Thiago Diz
ウィメンズサイドのOpening Roundでは、モリー・ピックラム(AUS)、ガブリエラ・ブライアン(HAW)の2名が7ポイント台をスコア。
ハイエストはモリーの7.23で、トータルでも13.83とこの日最も高い数字を揃えてルーキーのヴァヒネ・フィエロ(FRA)、2021年にサーフランチイベントを制したジョアン・ディファイ(FRA)を抑えた。
「真剣に取り組むこともできるけど、楽しいことが大切よ。本当に楽しかったし、リラックスして歌ったりして過ごせた。ナイトセッションを避けられたのは嬉しい。でも、ライトアップされた夜のセッションもやってみたかった。明日に進めて嬉しいわ」
ルーキー2名がファイナルデイへ

PHOTO: © WSL/Thiago Diz
その他、ケイトリン・シマーズ(USA)、キャロライン・マークス(USA)の若手トップ2とルーキーのベラ・ケンワーズィ(USA)、エリン・ブルックス(CAN)がQF進出を決めた。
開幕戦でベラは17位、エリンは9位に終わっており、共にQF進出は初となる。
開幕戦で優勝したタイラー・ライト(AUS)、2024年のルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得したソーヤ・リンドブラッド(USA)と強豪を相手にパワフルなターンの連続とバレルでスコアを重ねたエリンは、「ウェーブプールでは良くサーフィンしているので、凄くリラックスできる。ここで大会を開催できることが本当に嬉しいし、完璧な波が待っていると思うと、凄く上がるわ」と勝利者インタビューで話していた。

PHOTO: © WSL/Thiago Diz



PHOTO: © WSL/Thiago Diz

PHOTO: © WSL/Manel Geada

PHOTO: © WSL/Manel Geada

ちなみにエリンとソーヤは揃ってスネークことジェイク・パターソンのコーチで戦うチームメイトでもある。
このラウンドはエリンが勝ったが、敗者復活戦となるNight SessionではソーヤがトップでQF進出を決めた。
カノア、イーサンのコーチも務めるスネークは大忙しのファイナルデイになりそうだ。
12名中、2名のみ進めるNight Sessionは他にヴァヒネが勝ち上がっている。
大会最終日は現地時間2月16日の10時(日本時間同日の15時)にスタート予定。
Surf Abu Dhabi Pro Women’s Quarterfinal Matchups:
HEAT 1: Molly Picklum (AUS) vs. Erin Brooks (CAN)
HEAT 2: Caroline Marks (USA) vs. Vahine Fierro (FRA)
HEAT 3: Caitlin Simmers (USA) vs. Bella Kenworthy (USA)
HEAT 4: Sawyer Lindblad (USA) vs. Gabriela Bryan (HAW)
Surf Abu Dhabi Pro Men’s Quarterfinal Matchups:
HEAT 1: Ethan Ewing (AUS) vs. Miguel Pupo (BRA)
HEAT 2: Jackson Bunch (HAW) vs. Rio Waida (INA)
HEAT 3: Italo Ferreira (BRA) vs. Kanoa Igarashi (JPN)
HEAT 4: Jack Robinson (AUS) vs. Yago Dora (BRA)
WSL公式サイト
http://www.worldsurfleague.com/
(黒本人志)