ケリー・スレーター Photo by Tony Heff/WSL

「ケリーにとってのパイプという会場」- F+

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星新一のショートショートに、「おのぞみの結末」というのがあったなぁ、とすぐに思った。ケリーのインタビューの一言一句よりなにより、そんなことを瞬時に思うほど私の意識はサーフシーンから離れているんだろう。
2022シーズン初戦、ビラボンプロパイプライン、優勝ケリー・スレーター。ほとんどの人の「おのぞみの結末」。特にWSLにとってはまたとないニュースかなと思う。なんだかんだ言って、まだまだケリー人気というのはアメリカだけでなく、世界中で高いから。
来週の金曜日には50歳になるケリーの49歳最後の試合での優勝、8度目のパイプのタイトル。初優勝の92年から30年目の快挙……ってまぁ、数字的なことを掘り下げてあげればいくらでも驚きの記録は探せるのだけど、このケリー優勝という結末を予想するのは、そう難しいことでなかったと思う。

あのコンディションのパイプでエクセレントライドのできるサーファーというのはCT選手とはいえ非常に限定的だ。そしてその少数精鋭の中での最高峰ともいえるガブリエル・メディーナを欠くとなれば、クオーターの8人の中から出てくるのは上はケリー、下はセスとジョンジョンの勝ったほう、というのがガチガチの本命。すんなりジョンジョンといかなかったのは、そこまでのセス・モニーツの今回のパイプでの好調ぶりがある。そのハードヒートでジョンジョンがセスに敗れた時点で、こりゃケリーだな、と思った人は多いと思う。まぁ、その前にラウンドオブ16のバロン・マミヤを終了間際で逆転したあたりから、これは……と思った人も多かったかもしれない。

セス・モニーツ Photo by Tony Heff/WSL

パイプという会場は、ケリーにとって波だけなんだと思う。10点満点のスケールはその時のコンディションによって変わるけど、いいときの10点満点、つまりパイプが本来のパイプらしさを発揮したとき、その波に見合うテクニックを持ち、ミスをしないもののひとりということだ。ラウンドオブ16の逆転劇はまさにそれ。あの波は誰もがスルーするようなクローズ的な波で、それをテクニックで抜ける、テイクオフからバレル、ができる人だけにメイクが許される波だ。その波さえくれば、ケリーは簡単にポケットから9点をひき出せる。

波次第、なわけだけど、この波次第にはふたつの別の方向の波次第があって、ひとつは俗にいういい波を選んでハイポイントを出す、ウエイブマグネットのようなこと。反対側の波次第というのは、誰もが避ける強烈な波だけど、それを手なづけて自分のコントロール下に置く技術の高さの上での波次第。
サラブレッドに乗るか、気難しい暴れ馬に乗るか、的な。わかるかなぁ、わかりにくいかもしれないけど、いい波でいいパフォーマンスはCT選手なら誰でもできるわけだ。でもパイプが突きつける限界の波での挑戦状を受けて立てるのはケリー、ジョンジョン、ガブあたりって話。波に少しでもスキがあれば、バレルをメイクする技術があるので、勝敗はそういう波が来るか来ないかだ。

Photo by Brady Lawrence/WSL

前にケリーのタイトルの可能性という話を書いたけど、トップ5に入って、今回のこの条件のパイプでファイナルズになれば、問題なくとれると思う。
この先ケリーがどうするのかはまだわからない。この優勝を花道とするのか、50歳という年齢にこだわって現役続投なのか、次のサンセットでは50歳になるわけだけど、サンセットのケリーはいつも今ひとつなので、どうなんだろう。
どのみちこの優勝でミッドシーズンカットは免れるだろうから、後半のGランド、Jベイ、チョープーあたりを出ればリクオリファイ確定だしな。ワールドタイトルを狙わないなら、サンセット、オーストラリアを出ない選択は十分にあると思う。まぁ、後半頑張ってトップ5ならいいわけだから、カットされなきゃ後半だけでもいいだろうし、タイトルを狙うなら、ガブの居ぬ間に……がいいだろうし(笑)。

まぁ、これで世界中のメディアとWSLはこぞって12度目のタイトルの話になるだろうし、全力でケリープッシュするだろうし、50歳で1ダース目のタイトルって記録、数字は本人絶対に大好きなところだ。ケリーの「おのぞみの結末」。

Photo by tom servais

写真はケリーの前回の優勝、今から6年前、2016年のタヒチでジョンジョンを破った。

F+編集長つのだゆき

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