2017年のUSオープンでフィリペ・トレドにインタフェアを「させた」五十嵐カノア PHOTO:© WSL/Morris

「五十嵐カノアの頭の良さはCT選手の中でも突出している」- F+

F+(エフプラス)

●質問
ガブリエル・メディーナは、技術、メンタル、タクティクスと三拍子揃っている選手。特に近年では頭の良さがコンペに必要と、試合を見ていて感じます。
ユキさんが今まで見てきた中で一番頭が良い(ずる賢い、も含めて)と感じたサーファーって誰ですか? また、その逆(柔らかく言うと…頭の良し悪しは抜きにしてもサーフィンがうまい人?)も知りたいです笑

コンペティターとしての頭の良しあしは、いかに相手の心理を読み、いかに早く20点までのコンマ1刻みの加減計算をこなし、いかにルールブックの隅々までを理解し、それを自分の利益につながるように瞬時に応用、行動するか、ということだと思う。

人間としてのインテリジェンスとなると、それはインタビューでの受け答えとか、発言とかで見えたりはするけど、まぁ、プロサーファーの個々のインテリジェンスを論じるのはやめておこうと思う。職業プロサーファーとなれば、試合に勝って賞金を取る、あるいは勝たなくても高い人気を得る、影響力を持つ、というようなことが成果になるわけだけど、今の世の中、SNSは炎上させてナンボのような面もあるので、人気、影響力のようなものはインテリジェンスとは無関係だろうし、本当の意味での支持率が計りにくくなっているように思う。

30年近く試合を見てきて、頭の良さ、というキーワードで検索をかけて、やはり一番驚いたのはガブのプライオリティがないけど相手を押さえるために犯したインターフェア。2019年パイプ、相手はカイオ・イベリ。
あれほど見事にルールブックを活用した例を他に知らない。父でありコーチでもあるチャーリーの指示だったのか、本人の判断だったのか、どちらにせよ、見事な采配だと思う。勝ちを確定するためにインターフェア、という常識をひっくり返した目からウロコのルール活用だった。
ベストワンでも勝っている状況でヒート終了間際。プライオリティはカイオ。そこに逆転されそうな波ではないけど、間違いがあれば逆転という波。なにしろパイプなので、バレル1発大逆転はどんな波にも可能性がある。
もちろんカイオはその波に最後のチャンスをかけてパドル、そしてガブはドロップインして逆転のチャンスをつぶした。当然プライオリティインターフェアでガブはベストワンカウントになるのだが、それでも勝っている計算の上でだ。インターフェアを犯すことを武器に使ったのを見た初めての例だった。舌を巻くとはこのことだ、というぐらい巻いて巻いて巻き込んだ(笑)。

それ以前なら、ケリー、というところだろうか。乗らなくてもいい波に手を出させられてプライオリティを渡して負けてしまう、というケリー相手の失敗は、どんなルーキーも一度は通る道といえる。もちろんケリーはわかってて誘いのアプローチをするわけで、ついつい引っかかってやられたヒートを何度見たことか。ヒート前からの心理戦の話とか、ケリーに関してはいろんな話を耳にするけど、どれにしても、頭いいなぁ、という感じではある。賢い、ずるがしこい、両方併せ持つ選手といえる。

近年ではガブ、そして五十嵐カノアも非常に頭のいい選手だと思う。ノープライオリティでのブロッキングの新ルールができるぐらい攻撃的にルールを使うし、各シチュエーションで瞬時に、ルールブックにのっとって自分に有利な最善のアクションができるのはすごいと思う。例えばテイクオフで絡んだ時にプルアウトなのか、乗るのか、クロスするのか、よけるのか、みたいな時に、相手がインターフェアを取られるような動きを瞬時の判断で正確にする、みたいなことは本当に見事だ。それはCTレベルの選手の中で比較しても突出していると思う。

まぁ、頭良くないとCT選手にはなれないというか、そのぐらいすべてを使えないと勝てない世界なので、ルールブックを使う、という点ではみんな頭がいい。カノアを除く日本人にはそこが欠けている。何しろ日本語のWSLルールブックすらないわけだから。母国語のルールブックがないって、すごいハンデだと思う。ルールを自分に有利に使うことのほうが、正々堂々と馬鹿みたいにおとなしく戦うよりずっと大事。そのためにはどうしたって母国語の正確なルールブックは必要だと思うよ。

F+編集長つのだゆき

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