PHOTO:© WSL/Antonio

WSLのビッグウェーブアワード「RIDE OF THE YEAR」全ノミネートと最有力候補

今シーズンの最も危険で驚愕なライディング、限界を超えたアスリートを称え、35万ドル(日本円で約3700万円)の賞金が用意された名誉あるWSL主催のビッグウェーブアワード。

WIPEOUT、PADDLE、PERFORMANCE、XXL BIGGEST WAVEはすでに優勝が決まり、WIPEOUTではウィメンズのカーラ・ケネリー。PADDLEはペイジ・アーム、イーライ・オルソン。
PERFORMANCEはジャスティン・デュポン、カイ・レニー。
XXL BIGGEST WAVEはカイ・レニーが受賞した。

最後に残った「RIDE OF THE YEAR」のノミネート映像は以下の通り。
優勝したサーファーには賞金5万5千ドル(日本円で約580万円)が贈られる。

「RIDE OF THE YEAR」全ノミネート

ウィメンズ


メンズ

ウィメンズの最有力候補 ジャスティン・デュポン

(ジャスティン・デュポン)
PHOTO:© WSL/Poullenot

ウィメンズの3本のノミネートの中でもポルトガル・ナザレの山のような波に乗った映像を残したジャスティン・デュポンは「RIDE OF THE YEAR」の最有力候補と言えるだろう。

このライディングは2020年2月11日に開催された『Nazare Tow Surfing Challenge』の間に撮影された映像で、ジャスティンはこのイベントで優勝しているのだ。

ナザレ滞在時のジャスティンの朝は早く、5時には駐車場に一番乗り。一緒にサーフィンする仲間、チャンボことルーカス・チアンカはまだ彼女より先に着いたことがないと言う。ジャスティンは誰よりも先にボードを入念にチェックしてジェットスキーの準備をすることで知られている。

フランス出身、現在28歳の彼女はメンズも含めて世界最高のビッグウェーブサーファーの一人。

ショートボード、ロングボード、SUP、ハイドロフォイルサーフィンと全てをこなすスーパーウィメンズサーファーで、東京オリンピック開催に向けて設立されたISA選手委員会の委員長でもある。

幼い頃からアスリートだった彼女は父親からサーフィンを学んだ。
ボルドーで育ち、家族揃って定期的にラカナウのビーチに通い、一日中海に入っていた彼女にとってサーフィンは自由そのもの。
水泳、セーリングのコンテストには出場していたものの、サーフィンのコンテスト出場は拒んでいた。

しかし、14歳の時にラカナウで開催されたローカルコンテストで優勝。
翌年にはフランスのロングボードタイトルを獲得。
2007年、ビアリッツで開催されたワールドロングボード選手権では2位に入るなど自由だったフリーサーフィンの世界からコンテストの世界にシフトしていった。

(ロングボードも世界トップクラス)
PHOTO:© WSL/Poullenot

ジャスティン・デュポン ビッグウェーブへのステップ

今の彼女からは想像も出来ないが、最初に出場したコンテストは子供には大きな3-5ftの波で恐怖を感じたと言う。

「海に入りたくなくて泣きそうになったわ。でも、私が何故恐怖を感じるのかを理解したかった。それからコンテストで多くのことを学べることに気付き、この境界線をどのように乗り越えていくのかに凄い興味がわいたの。突然だったけど、自分の限界に挑戦して海で遊ぶため、自然にその欲求が抑えきれなくなったのよ」

(ナザレの巨大な波に乗る時、恍惚とした表情を浮かべる)
PHOTO:© WSL

CTの舞台にもなっているホセゴーでは更に大きな波へのチャレンジが待ち受け、ロングとショートボードの両方のイベントに参加し続けている内に国内、国外問わず優勝を重ねていった。
類い稀なる才能を開花させたのだ。

ジャスティンのビッグウェーブの情熱の源はアイルランドのアイリーズンへの旅だと言う。
ここで大きなバレルを手に入れた彼女は’これこそが私のやりたいことだ’と思ったのを今でも覚えているそうだ。

2013年にはノーザン・バスク地方のベルハラでサーフィンした初の女性サーファーとなり、2016年にはJAWSで開催されたウィメンズ初のBWTイベントで2位に入り、ビッグウェーブの世界に更にのめり込んでいった…。

ビッグウェーブにチャレンジする気持ちを彼女は「本当に最高の気分よ。素晴らしいわ。海には限界がないし、境界線もないように感じるのよ」と話す。

ジャスティン・デュポン ナザレへの挑戦

(2018年11月12日 ナザレ)
PHOTO:© WSL/Rafael G. Riancho

勇敢なジャスティンでもナザレは大きな存在だった。

ナザレに入る前、「名前を聞くだけで考えすぎてしまい、恐怖を感じたわ」と話す彼女は映像を見ながら想像を膨らましていた。
そびえ立つ断崖絶壁、灯台、山のような巨大な波…。

映像を見ながら恐怖を感じながらも、逆に惹かれていくのを感じたそうだ。

2016年、ジャスティンはボーイフレンドでボディーサーフィンのワールドチャンピオンでもあるフレッド・ディヴィッドと一緒に初めてのナザレへの旅に出た。
最初のパドルセッションは15-20ftでショアブレイクがきつく、苦戦したそうだ。
そのサイズ以上の波での経験があったものの、ナザレの神秘性が邪魔をしたのだ。

ナザレには当初2週間の滞在だったが、その波の魅力に取り憑かれたジャスティンは2ヶ月も滞在を延長。
滅多に波が上がらない他のビッグウェーブスポットと違い、ナザレはコンスタントにブレイクする特徴があり、波が下がった日も勉強のために毎日サーフィンを続けていたそうだ。

強烈なインパクトをもたらした最初の訪問から二人は毎冬をナザレで過ごすようになった。
波が小さな日も特別な日に備えてフィンを付けて泳いだり、ボディーサーフィンをしたり、崖の階段を走るなどハード過ぎてボーイフレンドのフレッドにはついていけないほどのトレーニングを続けていた。

更に普段から週2回プールに通い、2年かけて息を止める訓練をして今では4分以上も水中で耐えられるようになった。

(2020年2月11日 ナザレ)
PHOTO:© WSL/Rafael G. Riancho

ナザレの特別な日に入る時、多少の恐怖は本当に瞬間を意識していることを意味するために良いことである。
経験から時にミスを引き起こす前の合図にもなる。
コンディションの変化、自らの疲労具合など細心の注意を払うことも必要だし、自分の感覚にこだわって海水を口に含んだり、肌で海水を感じたり、海水の色を見たり、周囲を見渡して現状を把握するようにしているそうだ。

これらの積み重ねが一堂に会したのが2020年2月11日に開催された『Nazare Tow Surfing Challenge』

その日、人生最大の波に乗り、イベントの優勝に加えて「RIDE OF THE YEAR」にノミネートされたのだ。

対比する彼女の小ささを見ればその山のような波がどれだけ大きかったかが想像出来る。
あり得ないスピードで滑らかな弧を描いた彼女の後ろではまるで’雪崩’のような白い塊が押し寄せている。
一度はその塊の中で視界から消えるものの、まだボードに乗りながら恍惚とした表情を浮かべていた…。

「人生には時々分岐点があり、その度に自分は何がしたいのか?と自問自答するの。自分の心の奥底にあるものは何なのか?とね。今は本当に大きな波に乗りたいと思っている。常に大きな波、良い波に乗りたいと思っているし、もっと上のレベルの波を望んでいるわ」
ジャスティン・デュポン

WSLのビッグウェーブアワード「RIDE OF THE YEAR」の受賞者は来週にも決定する。

『Red Bull BIGWAVE AWARDS』全ノミネート

(空海)

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