日本の貨物船がモーリシャス沖で座礁、燃料を流出 Photo©Greenpeace

モーリシャスで座礁した日本の貨物船から重油が流出、環境非常事態宣言へ

7月25日にインド洋の島国モーリシャスで日本の会社が所有する貨物船が座礁し、燃料が流出していることを受けモーリシャスのジャグナット大統領は7日、環境非常事態を宣言した。モーリシャスの漁業、観光業及び世界的に貴重な生態系への甚大な影響が懸念される。

7月25日、商船三井がチャーターしていた全長約300メートルの大型ばら積み貨物船「WAKASHIO(わかしお)」がモーリシャス島南東部のポワント・デスニー付近でサンゴ礁に座礁した。乗組員は避難したが、座礁により船体に亀裂が入り、重油約1000トンが流出したとされている。
船内のタンクに残っていた約3000トンの燃料を取り出すのに成功し2次流出は防いだが、すでに流出した燃料の回収・清掃作業が急務だ。

ジャグナット大統領は、モーリシャスには「座礁した船を引き揚げる技術や専門知識がない」とし、国際社会に支援を求めている。モーリシャスのフランス大使館が汚染防止装置を近くのレユニオン島から輸送すると表明し、日本も6名のチームを派遣している。

規模は小さくとも、影響は計り知れない

1997年に日本海で起きたナホトカ号の座礁では6200トンの重油が流出。2010年にメキシコ湾で起こったディープ・ウォーター・ホライゾンの事故では約40万トンの原油が、2018年の東シナ海タンカー事故では約11万トンの軽質油が流出した。それに比べて今回の事故は規模的に大きくないが、その影響は甚大なものになる恐れがある。

モーリシャスでは観光業が非常に盛んで昨年約1690億円の経済効果があった。世界的に有名なサンゴ礁でのダイビングやイルカウォッチング、カイトサーフィンなどを楽しもうと、年間約140万人もの旅行者が訪れ、その数は国の人口よりも多い。既に新型コロナウィルスの影響で低迷している観光業が更なる打撃を受けると懸念されている。

船が座礁したポワント・デスニーには国際的に重要とされている湿地があり、近くに海洋保護区に指定されている貴重な生態系もある。モーリシャスに残っている世界有数の健康なサンゴ礁や海草藻場、マングローブなどはまれにみる豊かな生態系を育んでいる。

流出した燃料はすでに海岸に打ちあがっているところもある Photo©Greenpeace

国際環境団体グリーンピースが声明を出し、「数千種もの生物が汚染された海で溺れ、モーリシャスの経済や食料安全保障、健康に悲惨な結果をもたらす恐れがある」としている。海面に漂う黒い油以外にも海水に溶け込む化合物や海底に沈む沈殿物もあり、生態系全体に長期的な影響を与えるだろう。

事故を受けてモーリシャスのスディーア・モドゥー漁業相は「このような大惨事に見舞われたのは初めてで、この問題に対処するには装備が不十分だ」と述べた。

ボランティアが藁などで流出した燃料が広がるのを食い止めようと出動している Photo©Greenpeace

島の貴重な自然を自分たちで守ろうと、現地ボランティアが集まって大きな袋に藁を詰めて燃料が広がるのを食い止めようとしたり、すでに海岸に打ちあがった重油の清掃を始めている。現地の環境団体Eco-sudもクラウドファンディングを立ち上げ、資金をラグーンの保護や清掃、環境影響のアセスメントなどに充てるとしている。

隣のレユニオン島ほど有名ではないが、モーリシャスではサーフィンもでき、また美しい海を目当てに訪れる観光客や、それで生計を立てている人がいるのは変わらない。そして、サンゴ礁やマングローブはさまざまな生き物の住み家や産卵場所を提供し、海全体の生態系の中で重要な役割を担っている。

世界的に有名なサーフポイントを誇るリユニオン島はモーリシャスからわずか200キロ Photo: WSL / AQUASHOT

座礁の原因について徐々に証言なども出てきているもののまだ明らかになっていなく、真相究明に船長や船の所有者が現地当局の調査に協力している。今回の事故の対応について、小さな国の国境にとどまらず世界が協力し、今後同じような事故が起こらないように対策を講じていく必要があるだろう。

ケン ロウズ

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