世界サーフィン保護区に指定されているオーストラリアのゴールドコースト Photo: WSL/Kirstin Scholtz

【サーフィンを未来につなげる】世界サーフィン保護区とSTOKEエコ認証

新型コロナウィルスの影響はさておき、近年サーフィンの発展と普及が地球の隅々まで届いている。サーファーは混雑を避け自分だけの波を求めて探検し、無人のポイントもいずれは世に知らて混雑してくる、の繰り返しで特にインドネシアやフィリピンなどではサーフィンを軸に目まぐるしい開発が進んでいる。その開発によって地域経済への刺激がある一方、特に開発途上国では伝統文化や環境への悪影響、偏った経済成長等、懸念点も多くある。開発がうまくいかないと環境破壊や地域社会の不調和につながる恐れもある。

サーフィンの喜びを将来につなげるよう、サーフポイントの保護や持続可能な開発を目的とした活動が少しずつ広まっている。今日はそのなかでも「世界サーフィン保護」と「STOKE」を紹介しよう。


サーフィン版UNESCO「世界サーフィン保護区」

2009年にNGO「Save The Waves」がISA(国際サーフィン連盟)などの協力を得て立ち上げたWSR(World Surfing Reserve; 世界サーフィン保護区)は世界中の優れたサーフポイントやサーフエリアとその周辺環境、文化、経済や地域的要素を保護し、将来につなげることを目的としている。言ってみれば、世界遺産を認定している国連機関UNESCOのサーフィン版のようなものだ。

現在までにカリフォルニアのマリブをはじめ、ゴールドコーストやポルトガルのエリセイラなど10ヶ所が認定されている。サーフエリアの良いところを認証することでそれを守ろうという意識が高まり、サーフィンの社会への貢献が目に見える形になる。サーファーだけではなく、社会全体が得する仕組みだ。

10ヶ所目のWSRとなったヌーサ Photo: WSL/Tom Bennett

WSR認定までの流れ

2009年に世界中のサーフィン団体にWSRの立候補地を呼び掛けたところ、34か国から150のサーフポイントがノミネートされた。厳しい選定プロセスを経て現在までに10ヶ所が認定に至っている。申請があった場所に対してWSRのInternational executive committee(国際実行委員会)とVision council(構想協議会)が様々な条件を審査し、認定の可否を決める。認定に至るまでと、認定後も引き続きWSRとして運営していくため、申請段階から地域の支持と参加も不可欠。

審査ポイント

・サーフポイントの質(波の質や1年の内サーフィン可能な日数、サーフィン大会の開催歴、など)
・サーフィンの歴史と文化の発展(その国においてサーフィンの文化上重要な場所であるか、サーフィンの歴史上の地位、など)
・環境(重要な生態系があるのか、不意な開発から守るべきものがあるか、自然もしくは人為的な要因でサーフポイントの消滅が心配されているか、など)
・地域住民の支持(地域住民の支持があるか、中心になって計画を進める人物がいるか、長期的に運営できるか、運営できる資金があるか、など)

WSR認定サーフエリア(2020年9月現在)

・米国 マリブ
・米国 サンタクルーズ
・オーストラリア マンリー
・オーストラリア ゴールドコースト
・オーストラリア ヌーサ
・ポルトガル エリセイラ
・ペルー ワンチャコ
・メキシコ バイーア・トドス・サントス
・チリ プンタ・デ・ロボス
・ブラジル グアルダ・ド・エンバウー

日本の一部エリアでもサーフィン保護区の構想はあるが、現在のところ認定には至っていない。


STOKEで持続可能なサーフ・ツーリズム

STOKE(Sustainable Tourism and Outdoor Kit for Evaluation; 持続可能な観光及びアウトドアの評価キット)はWSRより小規模でサーフィン関連の観光施設、サーフツアー、宿泊施設やイベント等に対して与えられる認証。エコツーリズムが広がるなか、サーフィンやスキーの観光関連に特化した世界初のサステナビリティ認証である。

珊瑚の保護、伝統文化の理解や地域への支援などでフィジーのタバルア島がSTOKEのサステナブル認証で高い評価を受けている Photo: WSL/Ed Sloane

サーファーもエコ思考

今年のStabmagの調査によると、読者の約8割が持続可能な認証を受けている宿泊施設に泊まれるなら10%以上のプレミアムを払ってもよいと考えているそうだ。安さと波の質だけでなく、環境や地域への影響も考慮しているエコ思考がサーファーにも徐々に根付いているようだ。

コロナの影響で観光業が低迷しているなか、サーフリゾートが数少ないお客さんを呼ぶためには持続可能な認証を受けることは有利だろう。また、お客さんがいない時期を利用して、業界の持続可能な将来を考え、認定に向けて作業を進む良好な機会となっている。

その流れを手助けするのがSTOKE。サーフツアーやサーフキャンプ、リゾートやスクールなどの持続可能な取り組みを評価し、向上させ、認証する。そして、それらの認証を受けた場所のストーリーを広めることが目的だ。フィジーのタバルア島やメンタワイのウェーブパーク等10の施設がすでに認定済み。動きが広がればそのロゴマークが多くのリゾート等のHPで見かけるようになるかもしれない。

サーフィン地域への利点は?

サーフポイントは気候変動、海面上昇などの影響を受けやすいため、ポイントや周りの地域、文化、生態を守ることは重要な課題である。エコツーリズムの普及もあり、観光においても意識のエコシフトは既に始まっていることからも、お客さんを呼ぶツールになり、商売の持続性につながる。運営を見直すことでより効率的な手段を取り入れ、従業員のモチベーションや地域との関係作りにもつながる。

STOKEの認定プロセス

オンラインでQ&A形式で90もの項目において自社の取り組みを評価し現状の実態を把握する。次に目標を設定し、項目ごとに提供されている資料や他の事例などを参考に取り組みを計画。認証に向けた作業の写真や領収書などの証拠を元にSTOKEで審査をして、その地域の第三者機関が実際に現場を訪れ、検証する。

基準を満たした場合は承認し、取り組みの内容やその評価、再認証のための課題などをまとめたプロフィールが作成され、宣伝用にSTOKEのロゴが使えるようになる。

海洋生態系を支える珊瑚を守るのも一つの大事なアクション Photo: K. Rhodes

3段階のエコ認証

STOKEの認証には3段階あり、取り組みの内容を総合的に評価して与えられている。

CERTIFIED:総合スコア70~79%。基本的な基準を満たし、持続可能な運営体制が整っている。
SUSTAINABLE:総合スコア80~89%。全項目で基準を上回り、より持続可能な運営への取り組みも行っている。
BEST PRACTICE:総合スコア90~100%。全項目において最良の持続可能な運営を実践しつつ、更なる向上を計画している。

具体的な取り組みとは

特に飲食分野は気候、環境、社会経済に対する影響が大きい。地域の食材を優先し、使い捨てプラスチックを減らすだけでも環境や経済への良いインパクトがある。地元で入手できない食材はなるべくオーガニックや減農薬のもの、海産物は持続可能な形で漁獲されたMSC認証のもの、生産者も正当な賃金を得られるフェアトレードのもの、ヤシ油の製品を使うなら森林伐採をしない持続可能な作り方をしているものを使うことも有効だ。

飲食以外に、珊瑚がある海域ではアンカーを使わずに固定のブイを設置する、地元の伝統文化の支援や保護につながるよう地域社会と連携することや、ソーラーパネルの設置や再生エネルギーの購入などできることがたくさんある。

フィリピンのHarana Surf Resortでは地域への教育支援、植林活動やカーボンオフセットを実施している。 Photo: Provided

グリーンウォッシングにならないために

環境配慮をしているようで「エコ」や「オーガニック」など表面的な謳い文句だけで、実態が伴わないエコ認証もある。これは「グリーンウォッシング」と言い、いわばエコ詐欺の一種。こんなようなことがないように、STOKEでは90以上の審査項目を設け、その項目や基準の透明性を保ち、第三者機関による初期審査と定期的な報告で達成度を評価する。3年おきに再審査をして、認証が継続される。長いプロセスではあるが、事業者に過度な負担にならないように適宜サポートしているという。

WSRにしてもSTOKEにしても、認定のために多くの人の協力と努力が必要だが、サーフィンの持続可能な将来のために大切な取り組みである。そして一般サーファーも持続可能な旅行先や施設を選ぶようになればこのような取り組みもさらに広まるだろう。

ケン ロウズ

World Surfing Reserves: www.savethewaves.org

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