Photo by Nisei Yamagishi

春のサーフィンは危険がいっぱい

シリーズ「おいらはサーファーの味方」No. 58

「もう暖かい」と、かん違いしないで怪我の予防を心がけよう


桜が咲く季節!春はやはり気分が上がる。サーフィンも重装備のウェットスーツから解放され、気温も気持ちも急上昇。とはいっても、北日本はタイムラグがある、もう少しの辛抱です。

さて、暖かい陽気に誘われて、そろそろサーフィンを再開しようか、なんて思っている人も多いだろう。もちろん、寒い冬にもめげずサーフィンを続けてきたサーファーは、季節の変化を敏感に感じとっているはず。もうブーツはいらないかな〜と迷っているかもしれない。

しかし春の海には危険がいっぱい。だからブーツを脱ぐのはちょっと待てと筆者は言いたい。サーフィンで怪我をするのは、「冬よりもむしろ春が多い」からだ。暖かくなってきたのに「怪我?」と思うかもしれない。そう春の陽気に錯覚して思わぬトラブルを引き起こしてしまう。まずはこのコラムで、春の海を理解してからサーフィンにでかけよう。

海水温は1~2ヶ月のタイムラグ

さて、なぜ春のサーフィンが危険なのか?その理由は『海は、まだ冬のまま』だからだ。つまり海の水が、まだ冬の冷たさを引きずっているってことだ。その冷水が怪我を引き起こす。大気と違って、海水は温まりにくい性質がある。そして温まってしまうと今度は冷めにくい。秋を思い出してくれ、夏に温められた海水がなかなか冷えないから、関東より南ならば12月になってもブーツはいらない。しかし春が訪れて、気温が上がっても冬に冷やされた海水はそのままで、ときにはフルスーツが夏の直前まで必要となるシーズンもある。

この気温と海水温のタイムラグは1〜2ヶ月はあると思っていい。下のグラフは2020年の日本近海の海水温のグラフだ。2月より4月の方が、海水がわずかだけど冷たいことが分かる。そして水がしっかりと温かくなるのは8月に入ってからだ。気温だけを考えれば、6月ならば、晴れた日はもう夏のように暑いだろう。でも水温はやっと西日本で温まりだしたかな?ということがこのグラフでもわかる。

海水温は1~2ヶ月のタイムラグがあるから、春が一番水が冷たい

だから春になって、暖かい陽気に誘われてブーツを脱いだりすると思わぬ怪我をしてしまう。3mmジャーフルにしたら風邪ひいたなんてことも起きやすい。もちろん原因は冷たい海水温で、ときには真冬よりも水温が低いこともあるということを忘れないようにしよう。(気温が高いことにより、体感として海水がより冷たく感じるということもある)

さて、冷たい海水によってとくに起きやすい怪我が二つある。それは「肉離れ」と「靭帯損傷」だ。この二つは一度やってしまうと完治に1ヶ月以上かかってしまうことがあるから、注意したい。

肉離れ(にくばなれ)

肉離れとは「筋肉の断裂」だ。筋肉が伸びたり縮んだりしたときに筋が耐えられなくなって切れてしまう。陸の上でストレッチしないでダッシュしたり、または高所から飛び降りて下肢に負担を掛けたりすると起きやすい。普段スポーツをしていない人が、急に過激な運動をするときも起きる可能性が高い。くりかえすけど筋肉が伸縮に耐え切れなくなって破綻するわけだ。

サーフィンの場合は「ふくらはぎ」にこの肉離れを起こすケースがよくある。その引き金となるのが冷たい海の水だ。冬はブーツを履いていて保護されているが、春になってブーツを脱いだときに、ふくらはぎなどが冷えてしまい、黄色信号が点灯する。そして思わぬときに「ブチッ」とやってしまう。どんな状態で肉離れを起こしやすいかというと、例えば、水深の浅いインサイドでサーフボードがスタックし、飛び降りてしまったときなどだ。この肉離れの症状は、まず筋肉をバットで叩かれたような衝撃が起こり、何が起こったのか最初は分からないが、足に力が入らなくなり、次に激痛がやってきて歩行困難となる。

野球のバットに叩かれたようなショックが「肉離れ」のサイン、完治までには少なくとも1~2ヶ月は掛かる。
©RiRyo

もし肉離れを起こしてしまったら、自力で歩こうとせず、人に助けを求めるか、流木やサーフボードを杖の代わりにして足に負荷をかけないように歩き、すみやかに病院で治療を受けよう。

靭帯損傷(じんたいそんしょう)

靭帯は骨の関節がグラグラしないように支えてくれる筋と思っていい。靭帯に負荷がかかり伸びきってしまったバネのように戻らなくなるのが靭帯損傷だ。さらに負荷が強いと靭帯が切れてしまうこともある。サッカーなどでは急激な方向転換でこれが起きるときがある。ラグビーではタックルされてその負荷で靭帯を損傷したりする。この靭帯は、サーフィンでもよく痛めてしまう部位として知られていて、ベテランサーファーになると、この怪我を経験している人は多い。その部位は膝にある前十字靭帯だ。

「走ったりタックルしないサーフィンなのに、なぜ靭帯を怪我してしまうんだろう?」と疑問に思う人もいるかもしれない。しかしこの怪我はサーフィンでよく起きる、しかも春に起きやすい。その原因は、海水温とサーフボードに塗られたワックス、そして素足にある。

事故のシチュエーションは、サーファーが、ポップアップしてボードに立ったときに、ワックスが滑り、身体を支えようとして膝の靭帯に負荷を掛けて損傷してしまうのだ。しかもサーフィンは「横乗り」だから膝の関節にとっては「苦手な方向」へ負荷が掛かるのも大きな要因となっている。

「つまり、滑らなければいいんだな」と思う人がいるかもしれない。でも春の冷たい海は甘く見ない方がいい。例えばブーツはグリップ力が高い、でも春になってブーツを脱ぐと素足で滑りやすくなる。それが分かっていても足の感覚はまだブーツを履いたままだし、体が分泌する油分が足の裏には付いていてこれも滑りやすい。油分は海に入ってもしばらくは落ちない。さらにワックスのグリップ力も冷たい水温によって低下している。

ブーツのグリップ力に慣れた感覚では、素足は滑りやすい、前方に滑った足を抑えようとして膝関節に無理な負担が掛かってしまう 

靭帯を損傷したときは膝から「プチッ」と響いたような感覚が伝わってくる。それからは膝を少し動かすだけで激痛が走り歩行は困難になる。靭帯を損傷してしまったときは、肉離れと同じように、無理して自力で歩こうとせず。人に助けを求めるか、流木やサーフボードを杖の代わりにして傷に負荷をかけないようにして、すみやかに病院で治療を受けよう。

サーファーはブーツが嫌いだ。そういう人は、ブーツがひっかかってグッドセットを逃したことがあるはず。でもブーツは体温を維持し、筋肉などの硬直を抑えてくれる役目もある。だから春になって陽気が暖かくなっても海水温はまだ冷たいということは忘れずに、ブーツを脱ぐ時期を慎重に見極めて、危険な春の海をのり越えよう。

(李リョウ)

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