From Lauren L. Hill. She Surf, gestalten, 2020

インド初の女性プロサーファー、イシタ・マラビヤ「文化や階級の壁を越えて」

世界を変える女性アスリートのストーリーを展開する「Olympic Channel」の新シリーズ「Her Game」。その6人のうちの1人にフィーチャーされているのは、インド初の女性プロサーファー、イシタ・マラビヤ。ロキシーのブランドアンバサダーでもあり、女性サーフィンの歴史とカルチャーを祝うローレン・ヒルの著書「She Surf」でもピックアップされている彼女は、インドにおけるサーフィン業界の強力な人物だ。

Olympic Channelに掲載されたイシタの特集記事を抜粋して紹介する。


サーフィンとインドは必ずしも結び付くものではないが、その流れはゆっくりと変わってきている。

インドの国民的スポーツと言えばクリケットで、アブヒナフ・バインドラが過去唯一のオリンピック個人金メダリストだが、イシタ・マラビヤが新しい境地を開いている。

イシタは29歳のインド初女性プロサーファー。インドという国が持つ長い海岸線と10億人を超える人口を組み合わせると、巨大なマーケットとなる可能性を秘めている。

これまで複数の有名ブランドや慈善団体が彼女とパートナーシップ契約を結んだ。彼女の影響力の高まりは、Forbesが毎年発行している影響力のある30歳未満の30人をリストアップした「30 Under 30」の2019年アジア・スポーツ・スターとして、大坂なおみらとともに選ばれていることでも伺える。

文化の壁を乗り越えて

イシタがサーフィンを始めたきっかけは、2007年にインドを訪問していたドイツ人留学生だった。彼とアシュラム(僧院)に行ったとき、そこの信者はカリフォルニアから来たサーファーたちで、イシタの家から1時間のポイントでサーフィンをしていることを知った。その話のあとすぐに一緒にサーフィンをしていたという。

同じ年、彼女はパートナーと共にインド初のサーフスクールのひとつ「The Shaka Surf Club」をインド南西部カルナタカ州コディ・ベングレ・ビーチに設立。この地に移り住み、フルタイムでサーフィンにコミットするようになった。

インドには、親は子にスポーツよりも教育を優先させるという文化的な背景があり、それが日焼けした肌に対する偏見とも相まって、当初イシタは両親の反対にあった。しかし、サーフィンがどれほどの幸せを娘に与えているのかを目の当たりにしてからは全面的に応援するようになり、母親にサーフィンを教えるまでになったという。

イシタの使命

イシタの人生における野心は、メダルや称賛を勝ち取ることではないようだ。実際、競技サーフィンよりも単純に波乗りを楽しむこと、そして健康的なライフスタイルを促すことを好むようだ。

彼女の使命は、スポーツを通じて地域社会をまとめ、スポーツにおける男女平等を高めることと、海の安全に関する意識を高めることだという。

もし私がずっとムンバイで暮らしていたら、漁師や彼らの子供たちと過ごす機会は訪れなかったと思います。サーフィンの素晴らしいところは、そういう人達とも平等に繋がれるところです。

漁師の子供たちは劣等感を持っていました。自分達は呪われているから大都市ではなく海のそばに住んでいるのだと思い込んでいたのです。私たちは彼らに、海がどれだけ素朴で美しい場所なのか、そして彼ら自身がその価値を理解して誇りに思うべきかを知って欲しい。身分や階級による分断を乗り越えて、これまでで最もクールな村にしたかったのです。


イシタの見据える未来とは

彼女は競技としてのサーフィンより、そのライフスタイルを好んでいる。目下の目標は、ポジティブなライフスタイルを広めることと、彼女のクラブ「The Shaka Surf Club」と、その他に彼女が行っているビジネス「Camp Namaloha」(ナマロハ=ナマステ+アロハ)の発展だ。

現在、イシタの村では男女を問わず、地元の子供たちが無料でサーフィンレッスンを受けられるようになっている。他にもブレイクダンスやヨガ、スケートボード、アート、演劇なども教えており、地元の公立学校と連携して定期的にビーチクリーンも行っている。

また、彼女はライフガードでもあるのだが、人々が海を余暇の場所と見なすことに消極的である理由としてインドでの溺死者の数を指摘しており、海とより良く付き合う方法を伝える教育の必要性を説いている。

イシタがサーフィンを始めた2007年頃は、インド人プロサーファーはわずか13人程度だったというが、現在インド国内では約200人ほどが競技サーフィンをしていると推定される。彼女はインドでサーフィンというスポーツが成長するのを見届けただけでなく、サーフィンを知った漁業コミュニティにおいて、海に対する接し方の変化をリアルタイムに目撃している人物なのだ。

少し前になるが、7年前に公開された「A Rising Tide」は、イシタを含むインド人サーファーたちがQuiksilver Indiaと共同で製作した短編ドキュメンタリーだ。インド人のパイオニアサーファーが多く登場するが、異なるそれぞれのバックグラウンドからサーフィンとの出会いや海との深いつながりを笑顔で語る、とても謙虚でピュアなストーリーを楽しむことができるので、ぜひご覧いただきたい。

(THE SURF NEWS編集部)

参考:India’s surfing revolution starts with Ishita Malaviya|Olympic Channel

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