WSLで使用してきた木製タワーの足場に望遠カメラを設置する案が浮上 Photo: WSL/Poullenot

パリ五輪でタヒチ・チョープーに新タワー計画 「波が消える!?」ローカルの反対に有名サーファーら賛同  

2024年パリ五輪のサーフィン競技会場タヒチ・チョープーで、新たなジャッジタワー建設に反対運動が起きている。これまでのWSLの試合で使用されてきた木製タワーではなく、リーフの上にコンクリートの土台を造り、アルミニウム製のタワーを新設する計画だ。

ローカルサーファーはSNSを通して、リーフへのダメージが、地元の漁業、生活に悪影響を与え、世界に類を見ない巨大ですばらしい波を消滅させかねないと訴えている。この動画はみるみる拡散し、国内外の有名サーファーもシェア。新タワー建設に反対する電子署名は約10万筆に達し、パリ五輪組織委員会やISAの反応が注目される。

「チョープー王子」がインスタ投稿

インスタグラムで、チョープーの新タワー問題をアップしたのは、「チョープーのプリンス」として知られる地元のビッグウェーバー、マタヒ・ドローレ。まずは、10月18日に投稿された動画での彼の発言を以下に紹介する。

新タワーにはトイレやエアコン

「やあ、みんな。ぼくは君たちの助けが必要だから、このビデオを作っている。昨日、波のすぐ正面に建てられようとしている新しいアルミニウムタワーに反対する抗議活動を行ったよ。

問題はシンプルさ。チョープーで五輪を開催するため、パリ五輪組織委員会は、既存のタワーを、コンクリート土台のアルミニウムタワーに変えたがっているんだ。ただエアコンやトイレが必要なだけで、この新しい建物は、リーフの大きな部分を破壊しようとしている。

パリ五輪のために計画中のアルミニウム製の新タワー(マタヒのインスタグラムより)

そのリスクは単純かつひどいものだよ。リーフの生態系の破壊は海全体の生物にストレスを与え、『シガテラ』というやつを蔓延させるんだ。シガテラはすべての魚に毒素をもたらす病。チョープーは自分でとった魚を食べ、それらを売って生計を立てる漁師の街なんだ。

波が消えてしまう!?

そして最後にこれも大事なことを言うと、この計画がぼくたちの波を変えてしまうかもしれない。最悪の場合、2、3年のうちに、波が消えてしまう可能性もある。過去15年間、WSLの試合では、現在のタワーが使われ、ジャッジや撮影、中継がされてきたんだ。(パリ五輪の)たった3日間のために、(新タワーの)影響とリスクは重大過ぎるよ。

これはパリ五輪組織委へのメッセージだ。彼らのウェブサイトを見たら、環境保護を約束しているじゃないか。それをリスペクトするつもりはあるの? どうかこのビデオをシェアしてほしい。そうすれば、このメッセージを広め、この問題を止めることができるから」

800万回再生でフィリペ、カリッサも「いいね!」

マタヒの動画は10月下旬時点で、約800万回再生され、コメントは約2500件寄せられている。「いいね!」は約12万人に上り、2023年ワールドチャンピオンで、パリ五輪出場が内定しているフィリペ・トレドとキャロライン・マークスに加え、カリッサ・ムーア、カイ・サラス、ロブ・マチャドら有名サーファーも名を連ねる。国内では、パリ五輪出場を決めた稲葉玲王や大原洋人らも「いいね!」で賛同を示している。

パリ五輪で既存の木製タワーの使用と新タワー建設阻止を求めるオンライン署名は、地元住民やチョープーを訪れるサーファーらのグループが10月17日に立ち上げ、すでに約10万筆を集める。

マタヒがインスタで紹介するサイト「SAVE TEAHUPO’O REEF」は、さらに詳しく、この問題を説明している。

「SAVE TEAHUPO’O REEF」のトップ画像

7億円かけてリーフに72本の穴

サイトによると、WSLの木製タワーは、毎年、同じ土台に建てられ、コンテストが終わると解体されていた。だが、計画中のアルミニウムタワーは、この土台は使わず、リーフにドリルで72個の穴を開けて造る。穴の長さは4メートルになるという。

また、新タワーの建設費用は、土台に823,054ユーロ(約1億3000万円)、海中のケーブル類の設置に494,960ユーロ(約7,860万円)、アルミニウム製タワーに358,965ユーロ(約2億1500万円)などで、計約443万ユーロ(約7億円)に上り、非常に高額なプロジェクトだ。

タワー内にはインターネットサーバー用のエアコンルームや、航空機と同じ仕様の水洗トイレを設置。電気ケーブル、光ファイバーケーブル、給水管、汚水管が、タワーから岸まで800メートルにわたって海中の環礁の上に伸びるという。

フランスのNGO「IFRECOR」は12年前の調査で、リーフの破壊が悲惨な結果を招く可能性があると警告。サンゴの破壊は、マタヒが言ったように、シガテラを増やすことで知られる。シガテラは神経組織に影響を与える危険な毒で、死んだサンゴの上で育つ藻類から発生するのだという。

チョープーの市庁舎にある「IFRECOR」のポスターはリーフの破壊が波の形を変えると警告している(「SAVE TEAHUPO’O REEF」のサイトより)

ポルトガルのサーフィンメディア「SURFER TODAY」は、この問題に絡み、チョープーの波の特徴を解説。ブレイクポイントのリーフはカミソリ並に尖っており、深さはわずか50センチで、とても浅い。ワイプアウトしたサーファーは、たくさんの擦り傷、切り傷で深刻なケガのリスクがある。

だが、このリーフがチョープーを特別な場所にしている。深いリーフが突然浅くなる場所にうねりがヒットすることで、ほぼ垂直で高い波と厚く巻いたリップが生まれ、世界的にヘビーで恐ろしいバレル波になっているのだ。このレフトの波は、ブレイクの瞬間に多量の水を巻き上げるため、ボトムは時に「海面より低い」という。リーフの破壊がチョープーの波を変化させる可能性は想像に難くない。

世界に誇るこのチョープーの波は、海底のリーフにヒットすることでブレイクする Photo: WSL / Kirstin

パリ五輪組織委は「レガシーになる」

パリ五輪組織委の公式サイトは、チョープーでのサーフィン競技について、「大会会場は島のすばらしい自然環境を守るためにデザインされている。波は沖で割れるので、このイベントは沿岸には影響を及ぼさない」などと説明。

加えて、「レガシー」の項目の中で、五輪のために設けられた小規模な施設、設備は大会後になくなるが、新しいジャッジタワーだけは残ると明言。「五輪後、大きなサーフイベントの開催を可能とするインフラとして、フランス領ポリネシアに利益をもたらすだろう」と、むしろ誇っているような状態だ。

「大統領にリーフを見に来てほしい」

パリ2024オリンピックのサーフィン競技は、男女のショートボードが7月27~30日の間に予定。選手の宿泊は、チョープーの街への負荷低減のため、沖合に停泊するクルーズ船が候補に挙がっている。

マタヒは23日もインスタグラムを更新し、新タワー建設予定地付近の海中を映した動画をアップ。美しいサンゴに、色とりどりの魚や貝が生息している。

新タワー建設予定地付近の海中の映像(マタヒのインスタグラムより)

マタヒは「(フランス領ポリネシアの)モエタイ・ブロテルソン大統領に来てもらって、一緒に海を泳ぎ、ここがどんなに浅く、健全なリーフと海の生態系から、私たちがどれほどの恵みを得ているか見せたい」と書き込んでいる。

(沢田千秋)

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