Copyright ©2021Morning of The Earth LLC Albert Falzon

映画『モーニングオブジアース』デジタルリマスター版を観て

文・李リョウ

ノスタルジックというよりもオルタナティブ


今からちょっと昔になるけれど、バリのクタにある裏通りを歩くとDVDやCDを売るブートレグの店がずらりと並んでいたころがあった。海賊盤は安価だけれどラベルが紙だったりして粗悪品極まりなかった。でも最新のヒット曲なんかもすぐにコピーして売られ、店先でそれが大音響で流れていたりしたことを思い出す。いまはどうなっているんだろうね。

クタにステイしたときは、サーフィンをしたあとなんかに、どんな海賊盤があるのか冷やかしで店内をぶらついたものだった。するとどの店にも共通した定番というか売れ筋というかヘビロテ的に売れていく作品が三つあることを知った。

まずイギリスのレゲエバンドUB40のベストアルバム。これはぼくも愛聴している。なんど聴いても飽きないから旅にはもってこいだ。クリッシー・ハインドがデュエットで参加している曲も入っている。

それから「トム・カレン&ケリー・スレーターバイオグラフィー」この映像はサーファーズジャーナル監修でアイラ・オッパーが製作したドキュメンタリー。たしか2002年ごろにリリースされている。トムもまだ若く、良い時期に作られた作品で見応えがある。サーフトラベラーの多いバリだからこのジャケットが目に止まれば、誰だって手を伸ばすだろう。

そして最後が映画『モーニングオブジアース』だ。そのDVDを発見したときに、なぜこの古い映画が売られているのかという驚きがまずあった。「この映画知ってる?」と、テイラー・スティールの『モーメンタム』を物色しているオーストラリアの友人にそのジャケットを示すと、親指を立ててこう答えた。「もちろんだよ、オージーサーファーのバイブルだ」

映画『モーニングオブジアース』は豪トラックス誌のアルビー・ファルゾンによって半世紀も昔に作られたサーフィン映画だ。しかし21世紀になった現在でも、これはオーストラリアでバイブルのような存在感を放っている。つまりこれは世代を越えて受け継がれる普遍的なサーフムービーだ。「この映画は観ておいたほうがいいぞ」なんて先輩サーファーから薦められる。そんな映画と思っていいだろう。

さて、バイブル的な映画といえば、アメリカの名作『エンドレスサマー』を思い浮かべるサーファーが日本では多いと思う。だが、比較するのもナンセンスかもしれないが、『モーニングオブジアース』はショートボード革命以後に作られた作品で、ヒッピームーブメントやサイケデリックなど、60年代カルチャーの残り香がぷんぷんした、いわばアンダーグラウンドな色が濃いのもこの映画の特徴といっていい。だからバイブルといっても「エンドレス…」とは時代背景などさまざまな点で違いがある。

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わたしは(筆者)は、20代のときにこの映画『モーニングオブジアース』を観たことがある。すでに新作ではなかったし、当時は映画『フリーライド』が時代を席巻していて、この映画にはいささか古臭さを感じてしまった。ショーンやラビット、MRという御三家に舞い上がっていた当時のサーファーの多くは、この映画にわたしと同じようような印象を抱いただろうと思う。

しかし、あれから40余年が経過して、この作品をあらためて観賞すると、新鮮な感動をおぼえて我ながらに驚いた。20代のころには気づかなかったこの映画の魅力を理解するようになっていた。と言っても、それは過去を懐かしむノスタルジックなものではないとはっきり断っておく、「昔はよかったな…」などという感傷的なものではなく、いわばオルタナティブな新しい感性でこの映画を観ている自分にハッとしたのだ。

さて、この映画はデジタル化される前のオリジナルから、ナレーションも字幕もストーリーもない、登場するサーファーはなにも語らない。彼らはツリーハウスに住み、野山に自生したリンゴを狩り、畑のキャベツに齧りつき、裏庭でサンディングをし、ノーリーシュでパドルアウトする。「ここはどこで…」「この人は誰で…」という解説は無く、クレジットも流れない。

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文字や語りが無いから、映像からの「黙示的なメッセージ」に観客はしっかりと集中することができる。地球という楽園に太陽が昇り、人々が海へパドルアウトする。そして1日が終わり、ふたたび朝がくる。そんなサーフパラダイスの日常をキャプチャーしたのがこの映画だ。かつて米サーファー誌は「毒ヘビのいないエデンの園」とこの映画を評したが、言い得て妙だと思う。

21世紀になり、サーフカルチャーも多様性を迎え、サーファーも個々のスタイルを自由に追求できるようになった。そんなオルタナティブな現代だからこそ、この映画は評価されるべきで、やっと時代がこの映画に追いついたのかもしれないと感じる。だから、感性の高いニュースクーラーのハートもしっかりとつかむことができるはずと確信している。

仲間を集めて上映パーティーを開きたくなる、そんな映画に久しぶりに出会った。いや再会したという表現が正しいのだけれど、でもしみったれたノスタルジックな思いではなく、オルタナティブなサーファーとして観るならばこの映画は誰にとっても「新作」の映画と呼んでもいいかもしれない。


追伸

『サーフィン賛歌』という名がふさわしい写真集
50周年を記念した本『MORNING OF THE EARTH』

この映画のデジタルリマスターを記念して、写真集が発売されている。デジタルで処理した映画の貴重なフッテージを印刷原稿として、高品質な紙に印刷されている。イタリアで印刷されたそのクオリティーはまるで水彩の画集のように美しい。

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この写真集には、この映画の重要なシーンがほぼ全て掲載されているだけでなく、監督のアルビー・ファルゾンのインタビューや、この映画製作時のエピソードもある。おそらく再版は無いと思うから、コレクターズアイテムとしても貴重な本であることは間違いない。

ちなみに、この写真集を購入するとVimeoでこの映画を観賞できるURLとパスワードが付録としてついてくる。

(李リョウ)

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