Image: CBS 8 San Diego(YouTube)

【後編】ケリー・スレーターがサーフランチ誕生の真相を語る

「サーフランチの最初のアイディアはドーナツ型だった」
「建設当初の仮称は養魚池だった」
など前編ではカメラの前でサーフランチ誕生に至るまでのストーリーや、施設の役割などの話が中心だったが、後編は更に深掘りして「サーフランチ(KS Waveco)」の詳しい技術の話題に触れている。
その他、開発のベースとなったかもしれない子供時代のエピソードや、サーフランチに関わってから密接な関係となったサンディエゴで現在行なっている支援の話もしている。

これは単発のプロジェクトではないと思う。この波は世界で唯一のものではなく、ケリーのサーフランチの波は他の場所にもある。現在どこにあるのか、そしてこれからどこに設置される予定なのか教えて。

この技術は「KS Waveco」と呼ばれている。

そして、最近正式にオープンしたアブダビにも別の施設を作った。
実際には約1年前から準備が整い、昨年の11月に初めてサーフィンをした。その数ヶ月前にはすでに準備が進んでいたよ。

現在はテキサス州オースティンにも新たに施設を建設中で、そこはプライベートメンバーシップクラブの一部になる。
さらに、そこでは別の技術を使った2番目の波も作る予定なんだ。

この技術はあくまで目的を達成するための手段に過ぎない。私たちは本当に良い波を作りたいだけで、その方法の一つという訳さ。
それぞれの施設には異なる目的がある。

私たちの波は非常に長くて完璧な波。
沢山の波を次々と乗るのではなく、ロングライドを楽しめるんだ。

他のウェーブプールの多くはショートライドで、例えば10〜15秒くらいの長さだけど、その代わりに多くの波に乗れる。
ただし、波のエネルギーは少し低いので、目的が異なる。

ここや他の技術で作れる様々な波について教えて。そして、なぜその波が幅広い層に対応できるのか、その理由も教えて。

技術によって、実際に想像できるものなら何でも作れると言える。

しかし、私たちの技術はその点で少し限られていると言えるかもしれないね。
私たちの技術は、機械から波に大量のエネルギーを伝えることに重点を置いている。
完璧なスウェルを作り、それを特定の角度と速度で走らせることで、波のブレイクの仕方をある程度変えることができる。
例えば、腰の高さくらいの小さな波を作ることもできるし、フェイスで7.5ftの大きな波も作ることができるんだ。

その中間のサイズの波も作ることができる。
波のスピードは水深や波を走らせる速さに応じて変わり、これにより、波の高さを変えることができる。
海の中でリーフや異なる砂底、ポイントブレイクなどがあるように波はそれらの海底とさまざまな方法で相互作用するのさ。

例えば、ビーチから1/4マイル(約400m)離れたところに浅いリーフがあるとする。
そのリーフが波を僅かにブレイクさせたり、スウェルの向きを変えたりすることがある。
スウェルがビーチに到達する頃には、異なる角度から来て、それぞれが異なる角度で交差する。
そうすると、いわゆる『ウェッジ』ができるのさ。つまり、鋭く尖ったピークになる。
それが異なる方向にブレイクするか、ライトかレフトのどちらかが良い波になることがある。
私たちの波は、もっと完璧なポイントブレイクの波を目指していんだ。

他のウェーブプールは1〜2マニューバーの短い波で、様々なプールがある。
最終的には想像力次第で、どれだけ優れたデザインができるかにかかっているよね。
今、この段階ではソフトウェアを使って作業しているから、デザインの腕次第でかなりの幅が出てくるんだ。

この波は多くのサーフィンをしてきた人たちの想像が描いたそのものであるとも言える。あなたにとってもそうなの?学校のフォルダーに完璧な波を描いたような子供だった?

もちろんだよ。
自分はフロリダ出身で、フロリダで育った。
波は小さくて、ほとんど良い波に出会うことはなかったんだ。

子供の頃、素晴らしい波を思い描くために、凄く想像力を使っていた。
もちろん、学校のノートに書いて先生に怒られることもあったけど、それもその一部だった。

『いつか波を作るんだ』というアイディアを持って育ったわけではないけど、子供の頃にいくつかのエピソードがある。

例えば、オーランドの『Wet and Wild』に行って、小さな波でボディサーフィンをしていた。
小さな波のポールがあって、波はせいぜいこれくらいの大きさだった。ボディボードを使って、壁際にあるエネルギーの強いところを探して、その小さなウェッジでサーフィンしているつもりで楽しんだよ。

あとは子供の頃、ボートの後ろでロープを使ってウェイクサーフィンを良くやっていたことも影響していると思う。
夏は波が小さいので、地元ではそういったことを沢山やっていたんだ。

それらの経験がすべて、自分の頭の中にアイデアを与えていたんだと思う。
そして、いつか人工的に波を作るという可能性を育んでいたんだろうね。
その時はまだ気付いてなかったけど。

先ほど言ったように、実際にこれに取り組み始めたのは2005年頃で、それまでの33年間はこのような波を作ることについてあまり考えていなかった。
でも、こうした波を作れる可能性に気付いた時、ツアーに参加しているプロたちに見せたのをはっきりと覚えている。
小さな波を作る動画をいくつか見せたんだ。

ウェーブプールのテスト施設で作った小さな波の動画を見せた時、彼らは『本当に実現できたら凄いことになる。信じられない』と反応してくれた。
その反応が、自分がこの道を本格的に進むための大きな確信となったのさ。

そして、『これを作ったら、どんなものになるのだろう』と想像を膨らませ始めたよ。
今、それがまさに実現している。

聞いた話によると、これを完璧にしたいという思いがあって、あなたは6ヶ月かかろうが、6年かかろうが、どれだけ時間がかかっても構わない。公開するなら完璧にしてからだと言ったそうだね。それはサーファーとしてのこだわりが影響していたの?中途半端なものを作りたくなかったという意味で。

ええ、確かにそうだね。

実は初期の段階で数人のパートナーが、まだ準備が整う前に公開するよう求めてきたことがあった。
でも、明確にまだその段階に至っていないと伝えたのさ。

早まって公開することで、未来の可能性を台無しにするリスクを冒したくなかったんだ。

私たちは公開する前に波が完璧であることに自信を持てるようにしたかった。
完璧というのは、人それぞれで定義が異なるかもしれないけど、私たちが作れる限りの最高品質の波を目指したよ。

“波を作る”とか“波を建設する”というのは、ちょっと奇妙な響きかもしれないけど、実際にはいくつかの要素を組み合わせることでそれを実現している。

例えば、波を発生させるフォイル(水中の機械装置)がある。
これは水深が特定の深さであることや、フォイルが動く角度や速度も重要なんだ。
それに加えて、最も重要な要素の一つが“海底の形状”だね。
私たちの取り組みの大部分は、この海底の形状を設計することに注力している。

波がどのくらい急に深い水域から盛り上がるのか、どの水深で波が割れるのかといった要素が、波の基本的なデザインを形作る。
一つ一つはそれほど難しくないけど、どれか一つでも間違えると、将来的に大きな問題を引き起こしてしまう可能性がある。
だから、慎重に設計する必要があった。

ケリー・スレーターが取り組む一つの特徴は、サーフィン界への還元を常に意識していることだと思う。サーフィン界や一般の人々へ還元することについて、最近は何をしている?ウェーブプール以外ではサンディエゴで何をしているの?最近、サンディエゴで会ったよね。

もし有名になって、その有名さを何も良いことに使わなかったら、それって無駄になるよね。
あまり自分を褒めるつもりはないけど、自分にとって大切な色々なテーマに注目を集めようとしてるんだ。
例えば、誰かが経験した素晴らしい話とか、私が知らない人でもそういうのをシェアしたりね。

あと、実際に取り組んでいるプロジェクトとしては、最近チャリティのゴルフ大会を開催したんだ。
もう何年か連続でやっているんだけど、「Brother Benno’s」っていう団体のためにね。
これはサンディエゴのオーシャンサイドエリアにある団体で、ホームレス支援をしているんだよ。

ホームレスの人たちに食べ物を届けたり、支援を提供したり、街から出る手助けをしたり。
もし問題があれば、アルコールや薬物を断つ手助けもしているんだ。
実際、ここ数年で数十万ドルを集めて、その団体に寄付してきたんだよ。
友達がその団体で一緒に働いていて、年に何回か釣りに行ったり、色々な活動をしているんだ。
そのプログラムを経て立ち直った人たちが今度は自分の時間を返すために、他の人たちに支援をしているんだ。

これは素晴らしい草の根のコミュニティプロジェクトなんだ。
僕はまだ2年くらいしか関わっていないけど、それでも本当に素晴らしいプロジェクトで、こういう活動に参加できてすごく誇りに思っているよ。

(空海)

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