資源エネルギー庁 メディア説明会 4月16日配布資料より

【福島原発処理水の海洋放出を考える】安全性やサーフィンへの影響は?

既に報道されている通り、政府は東京電力・福島第一原子力発電所で増え続ける放射性物質を含む処理水について、海洋放出による処分を行うとする方針を4月13日に決定した。約2年後をめどに放出を始められるよう、政府は東電に設備の設置などを求めていくという。

この決定に対し、漁業関係者や福島のサーフィン関係者からは反対意見も出ているが、日本の海岸環境の保護を目的としているサーフライダーファウンデーションジャパンは、「原発処理水の海洋放出に対して反対声明を出しません」との立場を表明している。

経済産業省・資源エネルギー庁は4月16日にメディア説明会を開催し、その実施概要や経緯、安全性などについて説明。THE SURF NEWSからの質問に対し、「福島第一原発の南北1.5kmを超えれば通常の海水と同程度の濃度になり、海水浴やマリンスポーツは問題なく行える」とも回答した。

今回の『福島原発処理水の海洋放出を考える』では主に4月16日の説明会内容をまとめ、続編では各方面の意見を紹介し、それぞれどのような経緯や理由で主張をしているのかを読み解いていきたい。

▼目次
・満杯間近の貯蔵タンクと廃炉への取り組み
・海洋放出されるのはどんな「水」か
・除去できないトリチウムとその安全性
・南北1.5kmを超えればサーフィンも問題ない

満杯間近の貯蔵タンクと廃炉への取り組み

現在、福島第一原発の原子炉では溶け落ちた核燃料の冷却水が発生し続けていることと、雨水や地下水などが建屋内の放射性物質に触れることで、1日140トンのペースで放射性物質を含む汚染水が発生している。

この汚染水を浄化処理したものを、福島第一原発敷地内のタンクに貯蔵しているが、既にタンクは1000基以上設置されていて、約137万トンの容量のうちすでに9割に水が入っている。来年秋以降にはタンクが満杯になる見通しだが、今後の廃炉作業を進めるために様々な施設の建設スペースが必要なことから、これ以上タンクを増設する余地は少ないとの見解を、国や東電は示している。

ALPS小委員会では5つの方法を検討し、前例や実績から「海洋放出」と「水蒸気放出」の2案が現実的と判断し、なかでも設備の取り扱いやモニタリングが容易な「海洋放出」がより確実な方法であるとして採用。この検討結果について、国際原子力機関(IAEA)は「科学的な分析に基づくもの」と評価しているという。

出典:資源エネルギー庁(4月16日メディア説明会配布資料より抜粋)

海洋放出されるのはどんな水か

今回海洋放出されるのは、汚染水を多核種除去設備(ALPS)等で処理した「ALPS処理水」と呼ばれるもの。セシウム134/ストロンチウム90/コバルト60/ヨウ素/炭素14等など大半の放射性物質は規制基準値以下まで浄化できるものの、「トリチウム(三重水素)」は取り除くことが難しく、ALPS処理水の中に残ってしまう。

放射性物質を多く含む「汚染水」を浄化処理したものが「ALPS処理水」となる 出典:資源エネルギー庁(4月16日メディア説明会配布資料)

トリチウムの規制基準値は6万Bq(ベクレル)/L。福島第一原発の汚染水には平均約73万Bq/L含まれており、全体で約860兆Bqのトリチウム量が溜まっているとされる。

今回の放出に当たっては、これを基準値の1/40以下かつWHOの飲料水基準の1/7となる1500Bq/Lまで薄めて、毎年22兆Bqずつ、一定の年数(単純計算で40年前後)をかけて放出処分をする。東京電力は、福島第一原発の南北1.5㎞を超えると通常の海水と同程度のトリチウム濃度になるとシミュレーションしている。

なお、各国が定めるトリチウム濃度は大きく「飲料水」向けの基準と、直ちに飲用するわけではない「排水」向けの基準があり、国によりその基準値も大きく異なる。今回排出される1500Bq/Lは、オーストラリアやWHOの飲料水基準と、アメリカやEUの飲料水基準値の中間にあたるようだ。

▼各国のトリチウム濃度の規制基準値(参考:synodos.jp

飲料水基準排水基準
EU100Bq/L
アメリカ740Bq/L37,000Bq/L
WHO10,000Bq/L
オーストラリア76,103Bq/L
日本規制値なし60,000Bq/L
福島第一原発 海洋放出1500Bq/L

除去できないトリチウムとは?

トリチウムは、日本語では「三重水素」と呼ばれる放射性物質で重たい水素の一種。単体で存在するのではなく、「トリチウム水」として水の一部として存在するため、水から分離して取り除くのが難しいのが特徴だ。

トリチウムは、宇宙から地球へ降りそそいでいる「宇宙線」と呼ばれる放射線などによって、自然界でも常に発生している。そのため、川や海、雨水や水道水、大気中の水蒸気にも含まれており、人体内にも数10ベクレルほどの微量のトリチウムが存在している。

そのため、政府は以下の理由などから安全性には問題ないとの見解を示している。

・トリチウムは生物濃縮はされない

「マウスが約1.4億ベクレル/Lの濃度のトリチウム水を飲み続けてもがん発症率は自然発症率範囲内」という実験結果を提示。過去には「近隣の原子力施設の排水が原因で、二枚貝やヒラメの体内では海水に比べて数千倍のトリチウム濃縮が確認された」との海外研究結果もあるものの、同じ研究者が再度分析し、原因は別の化学工場から排出された高濃度トリチウムが原因だったと指摘している。

・世界各国の原子力施設でもトリチウム原因の環境影響は確認されていない

世界中の原子力施設においてもトリチウムは発生。トリチウム以外の放射性物質について可能な限り浄化した上で、各国の規制基準に沿って放出しているが、トリチウムが原因の周辺環境への影響は確認されていない。

トリチウム放出量
日本・福島第一原発(2010年)約3.7兆Bq/年
日本・福島第一原発(今回の海洋放出)約22兆Bq/年
韓国・月上原発(2016年)約143兆Bq/年
フランス・ラ・アーグ再処理施設約1.1京Bq/年
〈参考〉日本に降る雨(年間)約220兆Bq/年

「海水浴やマリンスポーツは問題なく行える」

資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室長は、4月16日のメディア説明会で、THE SURF NEWSからの質問に対し以下のように回答した。

資源エネルギー庁 原子力発電所事故収束対応室 奥田室長(4月16日メディア説明会の様子)

Q. 処理水が放出されたあと、トリチウムは最終的にどうなるのか?沈殿したり、海流に乗り広まる可能性はあるのか?

A. トリチウムは海水中に放出されたあとは、拡散して、今海水中にあるトリチウムと混ざり合うことで、現在のトリチウム濃度と殆ど変わらなくなる。これまでもそのような内容をシミュレーションで検証してきた。

海水中に含まれているのは0.5〜1ベクレル。南北1.5kmベクレルの範囲となるため、その先は拡散をしていき、通常の海水と変わらない状態になる。海水に入っているトリチウムについては蒸発し、雨となって降ってくる。自然界に存在する水に溶け込んでいくと考えている。

Q. 福島〜茨城近辺の海岸で、マリンスポーツや海水浴は問題なく行えるのか?

A. 先の理由から、福島第一原子力発電所の南北1〜1.5kmを超えると、普通の海と変わらない状況になる。そのため、海水浴のエリア、サーフィンのエリアでは、問題なくこれまで通り活動できると考えている。

※5/7補足追記
処理水はトリチウム濃度1500Bq/Lまで薄めて放出されるため、南北1.5km以内であっても通常の海水よりはトリチウム濃度が多少濃くなるものの、WHO飲料水基準と比べても濃度は十分に低くなる。

出典:資源エネルギー庁(4月16日メディア説明会配布資料)

Q. 海外にはトリチウム分離施設が存在し、日本でもこれらの技術を開発すべきとの主張もあるが導入検討はしたのか?

A. カナダ型・重水炉で分離技術が使われている例はあるが、それはトリチウムの発生量が(日本より)かなり多い。分離対象が4000億〜1兆3000億ベクレルとかなり濃度が高い場合にはその技術は有効だが、現在の日本のように濃度が低く大量にある状態の場合は既存技術の適用は難しい。新たな技術動向を注視し、今後実用化可能な技術があれば積極的に取り入れていく


(THE SURF NEWS編集部)

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