一宮町の海岸上空を飛ぶドローン(ブルーイノベーション提供)

「避難せよ」海上のサーファーに津波知らせるドローン導入!千葉県一宮町

日本有数のサーフタウンとして知られる千葉県一宮町が、海上のサーファーに津波を知らせ、避難を呼びかけるドローンを2機導入した。津波警報や注意報が出た際、自動で飛び立ち、約7.5kmの海岸線に沿って飛行。サイレンと音声で、サーファーに緊急事態を伝える。

20日に一宮町役場で開かれた完成記念式典で、馬淵昌也町長は「ドローンの導入によって、サーフタウンとして、ここで安心してお過ごしいただけるレベルが遥かに上昇することになり、大変喜ばしく思っている。いざという時、確実に皆様が避難をしていただけると期待したい」と述べた。

最大クラスの津波高は10.2m

町の長い海岸線を説明する馬淵町長 Photo:Chiaki Sawada

町の海岸は、もともとサーフィンに適した良い波に恵まれてきたが、2021年に東京五輪のサーフィン競技会場となってから、さらに知名度を上げ、年間約70万人が訪れるようになった。移住者も増え、沿岸部には3000~4000人が暮らす。

町によると、想定される最大クラスの津波は、高さ10.2mで、地震から33分後に到達する。これまで、津波警報や注意報発生時は、町内各所に設置された防災無線で避難を呼びかけていたが、風向きなどによっては、海にいるサーファーに聞こえづらいという難点があり、サーファーの避難をどう促すかが大きな課題だった。

初期費用は約4000万円

一宮町役場屋上のドローンポート Photo:Chiaki Sawada

そこで、今回、町は東京都文京区のドローン関連システム開発会社「ブルーイノベーション」と提携。町は約4,000万円でドローン2機とそれぞれのポートを導入した。同社のシステム使用料や維持管理に、年間約300万円のランニングコストがかかるという。

ブルーイノベーションの防災システム「BEP(Blue Earth Platform)ポート」は、複数のドローンを遠隔で制御し、上空から避難を呼びかけながら、映像を取得し状況把握も行う世界初のシステム。一宮町では、町役場と東浪見小学校の2か所にポートを設置。Jアラートが発令されると、自動でドローンが飛び立ち、5分以内に海岸に到着する。

20日のデモ飛行の様子。赤い〇がドローン Photo:Chiaki Sawada

海では、ヘッドランドの先端を結んだ辺りの上空約25mを飛行。2機の飛行経路はホテル一宮シーサイドオーツカ付近で分担され、それぞれのドローンは約15分間飛んだ後、充電のため、自動でポートへ帰着する。

飛行中は、サイレンとともに、警報、注意報によって「ただちに高台に避難せよ」「ただちに海岸から離れてください」と音声が流れる。風速15m以下で飛行可能。ドローンの大きさは幅約50cmで、サーファーたちは肉眼でも確認できる。

「仲間や観光客に伝えたい」

ブルーイノベーションによると、約100回の試験飛行をへて、運用開始に至ったという。20日の式典では、一宮町サーフィン業組合の鵜沢清永組合長のメッセージを門馬恵一さんが代読。「今回導入される津波広報システムは、まさに命を守るための仕組みです。しかし、システムがあるだけでは不十分です。このシステムの存在や大切さを地元の仲間たちや観光客の方たちに伝えていく役割を担っていきたい」と、地元サーファーとしての使命を述べた。

一宮町サーフィン業組合長のメッセージを代読する門馬さん Photo:Chiaki Sawada

また、プロサーファーを代表し、岩見天獅もメッセージを寄せた。「一宮は初心者から世界を目指すサーファーまで多くの人が訪れる“聖地”。波や風の音で警報が届きづらい海の上では危険をどう伝えるかが本当に大事です。ドローン津波避難広報システムは、『聞こえない』を『必ず届く』に変えてくれる取り組み。町民もビジターも同じタイミングで行動できるのはとても心強い」と、期待を寄せた。

一宮町の海岸でドローンを手にする熊田社長 Photo:Chiaki Sawada

ブルーイノベーションの熊田貴之社長は「南海トラフ巨大地震は25年以内に70~80%の確率で起こると言われる。BEPシステムは全国有数のサーフスポットで知られる一宮町にしっかりフィットする。自動で避難広報でき、被災状況がリアルタイムで把握でき、職員ではなくドローンがアナウンスすることで、職員の負担軽減と安全確保ができる」と紹介。「昨今、災害は激甚化、頻発化している。今回の防災システムは、地震や津波だけでなく、今後、豪雨による洪水、火山の災害、森林火災でも大きく貢献すると確信している」と話した。

(沢田千秋)

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