女性サーフィンの歴史とカルチャーを祝う「She Surf: The Rise of Female Surfing」

「女性は現在、サーファーの20〜30%を占めていて、その数は増え続けています。」と語るのは、プロサーファーでありジャーナリスト兼エコフェミニストの顔を持つローレン・ヒル。

女性サーフィンの台頭やそのルーツと進歩を振り返ることができる彼女の新書『She Surf – The Rise of Female Surfing』が先月世界で発売された。

From Lauren L. Hill. She Surf, gestalten, 2020

ローレンは過去10年間、エコフェミニストの視線からサーフカルチャーを積極的に発信し、「The Church of the Open Sky」「Bella Vita」「Beyond the Surface」といったサーフムービーにも出演してきた。
2017年には、いわゆるサーフガールのメディアイメージから遠く離れた、女性がよく直面する水着の不具合やVラインのシェービング問題などを面白おかしく描いたショートフィルム『Pear Shaped』をリリースし、多くの共感を得た。

そして現在ローレンは、女性サーフィンの台頭を振り返りながら、ウォーターウーマンとは何を意味するのかを問いかけている。256ページに渡り、26人の女性への独占インタビューを収録。

本書では、ハワイやポリネシアなど歴史的なルーツを掘り下げ、ウィメンズプロサーフィンの奔りとして男女賞金平等化に向けて戦った1960年代の女性たちを紹介。さらに、90年代のスター達がどのようにウィメンズプロサーフィンを確立し、男女平等への道のりを辿って行ったかを明らかにする。
また、サーフボードデザインのコレクションを提示し、そこからボードデザインにおける女性の役割を考察。

そして、最終章「Irreversible Bikini」ではメディアに作られたサーフガールのイメージのように、露出度が高く決して安定性があるとは言えないビキニを着ることでサーフィンの技術だけではなく「セクシーであること」を常に求められる女性サーファーにとってのサーフィン・性・アパレルの複雑な関係を描いている。

1966年のワールドチャンピオン、ジョイス・ホフマン。コンペの世界で60年代に最も活躍した女性サーファーだ。From Lauren L. Hill. She Surf, gestalten, 2020

ローレンは本書の執筆にあたり以下のようなコメントを残している。

「メディアが女性サーファーを扱うとき、彼女たちのスキルではなくライフスタイルやその美しさにばかりフォーカスしますが、私はそんな本を作りたくはなかったのです。」

「女性のサーフィンの歴史をまとめた情報がなく、そして流行りのサーフメディアも女性に関するものが少ないので、女性のサーファーの長く豊富な歴史を私たち女性が語ることで、今日のサーフカルチャーの実現に貢献した先駆者たちにも敬意を表したかったのです。」

「ウィメンズサーファーがサーフィン雑誌の表紙に載ることはめったにありません。ワールドチャンピオンであってもです。私が一番最近みた推計では、アメリカのサーファーの30パーセントを女性が占めていました。それをフェアに扱った場合、1年間で3~4回は女性サーファーがカバーを飾るはずだと思います。」

インタビューは、ステファニー・ギルモア、クロエ・カルモン、ベサニー・ハミルトン、ペイジ・アルムスに加え、日本からは瀬筒良子が登場。さらに、サーフィンと密接な関係にある専門分野で活躍するデザイナー、アーティスト、写真家、活動家、冒険家も含まれている。

タヒチ・モロッコ・カナダなど、あまり知られていないサーフスポットの紹介を含む、200枚以上の美しく力強い写真も魅力的な一冊だ。


7度ワールドタイトルを獲得した、女王ステファニー・ギルモア。2007年にCT入りを果たし、ルーキーイヤーに世界タイトルを獲得した初めてのサーファー。
From Lauren L. Hill. She Surf, gestalten, 2020

説明不要なサーフィン界の女王ステファニー・ギルモアは、「貪欲なコンペティターでありながら圧倒的なスタイルマスターとしての顔も持ち、サーフィンのスポーツ性と芸術性の橋渡し役」として描かれている。

日本を代表する女性ロングボーダーの一人「リョーベイ」こと瀬筒良子。
From Lauren L. Hill. She Surf, gestalten, 2020

2015年、バリのチャングーで開催されたロングボードイベント「Deus Ladies’ Log Fest 9 Foot & Single」に、カシア・ミドーやリア・ドーソンなど世界の名立たる女性ロングボーダーに肩を並べて招待された瀬筒良子。本書のなかでは、日本でのサーフィン文化、コミュニティ、環境や気づきについて語っている。

イランのスポーツウーマンのパイオニア的存在の女性たち
From Lauren L. Hill. She Surf, gestalten, 2020

宗教上の理由や衣服の問題などから、西洋やアジアにおける女性以上にスポーツの参加が制限されていたムスリム女性。イランのイースキー・ブリットンは、ムスリム女性専用ウエットスーツ「Seasuit」をローンチした。文化的な誤解やジェンダー不平等の解決のために様々な活動している。

東アフリカ沖のインド洋に浮かぶ「エデンの園」セーシェル。サーフィン文化の醸成はまだ始まったばかりだ。
From Lauren L. Hill. She Surf, gestalten, 2020

ローレンは、特に初心者の女性が「She Surf」に触れることによって、サーフィンをより身近なものとして感じられたり、ルーツや功績とより深くつながるきっかけになることを期待しているそうだ。

「今後はさらに、コアサーフィンカルチャーに属さない肌の色やセクシュアリティのサーファー、そして波乗りの文化がまだ根付いていないビーチからサーファーが増えていけば、また新しいサーフィンというスポーツとアートが生まれます。それは本当にエキサイティングなことです。」
ローレン・ヒル

『She Surf』はgestalten.comから購入できる。

(THE SURF NEWS編集部)

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