Photo by Terry O’Grady; Cactus77

波旅の掟「ソウルフルに行くべし」

ディープな波旅なら、あえて遠回りを選択し、さらに遠くへ

シリーズ「サーフトリップのすすめ」No. 13

「バリは、もうあきた。カリフォルニアもゴールドコーストにもなんども行った」という贅沢な悩みのあなた。もしくは、「一生の思い出になるようなサーフトリップをしてみたい」とか「周囲を気にせずに、のんびりサーフィンを楽しんでみたい」とかとか「キャンピングカーで大砂漠を走破するサーフィンサファリをしてみたい」とかとかとか「バックパッカーのように行き当たりばったりで旅をしてみたい。その先にパーフェクトウェイブが待っていたら最高だと思う」そんなあなたの切実な願いを叶えるために、二つのディスティネーションをご提案したいと思う。これであなたも『ソウルサーファー』の仲間入り。


その1:カクタス
(南オーストラリアの地の果て)

『カクタス』は、オーストラリアの広大な砂漠のど真ん中にあるサーフブレイクだが、1960年代にはすでにサーフされていたというから驚きだ。誰が発見したのかは分からないが、地の果てのようなところにサボテン(カクタスの意)という名のパーフェクトウェイブがあるらしいぞと、サーファーの口コミでその噂が広がった。けれどもあまりにも遠すぎて、ほとんどのサーファーはそこへ向かうのをためらった。オーストラリアはそこまで行かなくても良い波が近くにいっぱいあるからね。

『Cactus77』テリーオグラディが製作したこの映画は70年代当時の様子がわかる

遠隔地にあることで、伝説化したこのサーフポイントは、やがてソウル系のサーファーたちが目指す場所となり、たどりついた連中は漂流物などでバラックを建て、ヒッピーのコミューンのような集団が形成されていき、やがて地元民との対立や環境悪化など、さまざまな事件が起こる。サーファーズジャーナル日本版22-4(3-4)には、このサーフポイント「カクタス」の歴史が紹介されていて、かなりおもしろい。

その記事によれば、ジョン・ウィッチグというサーフィン映画の監督が、ウェイン・リンチをそこで撮影し映画『エボリューション』でそのフッテージを使ったようだ。ジョン・ウィッチグは、このカクタスを気に入って地主から土地を買い、環境を整備しようとがんばった時期もあったようだ。というのも、そこがホームレスの溜まり場のようになってしまっていたからだ。

ソウルフルなサーフポイント、レフト&ライトが一年中ブレイクしいてます。ここに行ったらたいしたもんです。Surfer’s Journal22-4(日本版3-4) より

やがて時代は変わり、サーファーがインドネシアへ質の良い波を求めて行くようになると、カクタスを目指すサーファーは減り、ほぼ忘れられたサーフポイントと化してしまった。しかし近年になってキャンプ地として整備され、健全なサーファーがキャンピングカーで訪れるようになった。キャンパーたちが集まると自然と連帯感も芽生え、釣った魚をシェアしたり夜はキャンプファイアーで盛り上がったりするという。

満天の星空の下で眠り、朝はパーフェクトブレイクの海の前で目を覚ますのだからイメージするだけで鳥肌ものだ。ちなみにカクタスは波だけでなく、フィッシングも最高のようだ。

さて、このカクタスは、西のパースや、東のメルボルンをはさんでほぼ真ん中にあるから、車だとどちらからでも3日くらいは掛かるようだ。もっとも近い都市はアデレードだが、そこからでも1000km弱はあるから、カクタスはまさに陸の孤島だ。それゆえに、サーファーが少なくて波は乗り放題ということにもなるけれどね。

GoogleMapに作画。ゴールドコースト他、どの都市からでも気が遠くなるほど遠い

アクセスの難度 ★★★

とりえずはアデレードまで飛行機で向かい、そこでレンタカーか中古車を購入するという選択しかないだろう。
もしオーストラリアに住んでいる友達がいて…車を持っていて…となると話は変わってくるけど、ゴールドコーストから出発なんて計画だと星は四つになる。とにかく車で向かうしか方法はないだろうし、キャンプを考慮すると、キャンピングカーがベストだろうな。ネットで調べてみたらアデレードでキャンピングカーが借りられそうだ。ハイエースのハイルーフが1週間で1000ドル~1500ドル。国道からカクタスに続く道は未舗装になるようだが、2WDでも問題はないようだ。

ハザード(危険度)★★

サーフィン中には、鮫に注意した方がいいようだ。大型の鮫が釣り上げられた報告があり、70年代には鮫に襲われて死亡事故が報告されている。人里離れたサーフポイントだから、怪我や病気にどう対応するかは考えておいた方がいい。どうやらローカルサーファー(ヒッピーかもしれない)もいてSNSで波の写真が拡散することに神経をとがらせているということだから、『波旅の掟』を読んでリスペクトの気持ちは忘れないようにしたい。

宿泊 ★★

電気はおろか飲み水も無いから、完璧なキャンプの準備は必要だ。砂漠だから日中は暑くても夜になると気温は急激に下がるだろう。防寒具や寝具もしっかりと準備すること。ちなみに生活必需品を売る小さな店が2時間だけ営業しているらしいが、あてにしない方がいいだろう。一番ちかくのスーパーマーケットまでは車で3時間かかるらしい。

波 ★★★★

冬(日本の夏)がベストシーズンだが、波は一年中あると思って良い。むしろ波が大きすぎる心配をした方がいいようだ。サーフポイントはカクタスの他にも7つほどあるから混雑とは無縁だ。だが水温は冷たく12℃から14℃というから、セミドライとブーツは必要だろう。気温は、夏は17℃から25℃、冬は7℃から19℃。

ここはカクタスを中心に多くのサーフポイントがひしめいている
https://www.gosurf.info/en/viaggi/cactus-south-australia-2/

その2:ニアス島、スマトラ、インドネシア
(ソウルフルなルートで、極上のライトハンダーへ)

サーファーならば「ニアス」という名を一度は耳にしたことがあるだろう。スマトラの沖にあるこの島には、パワフルなパーフェクトライトがブレイクするラグンディ湾がある。インドネシアの数あるサーフポイントの中で、レフトハンダーの最高峰がジャワのG-ランドだとすれば、ライトハンダーのそれはニアス島のラグンディの波だと言われるほどだ。1975年にレジェンド、ピーター・トロイによって発見されて以来、世界中のサーファーがまるで聖地巡礼のようにここを訪れている。

さて、この島に渡るには大きく分けて二つのルートがある。空路と海路だ。ここではあまり知られていないソウルフルな海路のルートを紹介したい。

世界中のメディアに紹介されているニアスの波、サーファーならば一度は訪れてみたいはず
https://www.coastmagazine.co.uk surfer: David Warren photo; Jason Childs

日本のサーファーのほとんどは、サーフ系旅行会社が開拓した便利な空路を使う。それは、メダンから飛行機でニアスのグニングシトリまで飛び、車で南下するというルートだ。しかし日本ではあまり知られていないが、船でニアスへ渡るもう一つのルートがある。バスでメダンから港町シボルガまで行き、そこからフェリーで、ニアスの港テルクダラムに向かうというルートだ。これは、時間は掛かるが地元の人が使う交通手段だから安い。オージーやヨーロッパのバックパッカーはこのルートを使う人が多い。筆者はメダンへ戻るときにこのルートを使ったことがある。ヘビーだった思い出もあるものの、むしろこのルートでニアスに再挑戦したいという気持ちがいまも強い。

もう少しこのルートを説明しよう。まず日本から飛行機でジャカルタへ飛ぶ、そこから国内線でメダンに向かう。メダンに着いたらバスターミナルまで行き、トバ湖行きか、シボルガ行きのバスに乗る。その日にバスがなければ翌日まで待つ。

このバスは、必ずトバ湖を経由するので、そこで一泊するという選択もある。ここは標高が高いので涼しく、湖で獲れる魚が美味いと、あるサーファーから聞いたことがある。さて、オーストラリアの不良サーファーは、トバ湖でマリファナを買うこともあるようだ。しかしインドネシアでマリファナの所持は重罪で、死刑になることもあるから絶対に手を出さないようにしたい。

さて、シボルガの港に着いたら、ニアスのテルクダラム行きのフェリーを探す。インドネシアは島国だから島々をフェリーで行き交うというのが日常だ。グニングシトリ行きの船は、ほぼ毎日出港しているが、目指すテルクダラム行きの船は少ないので注意したい。テルクダラム行きならばラグンディ湾はすぐそこだが、グニングシトリだと車をチャーターして3時間以上は掛かる。フェリーに乗船している時間はアバウトで1日弱とみていいだろう。さて、テルクダラムに着いたら車をチャーターしてラグンディ湾へ向かう、値段は交渉しだい。フェリーに他のサーファーが乗船していれば、同乗して割り勘にするという方法もある。

メダンへ飛びそこからインド洋に出てフェリーに乗る、3日でニアスに着けたら奇跡かも?
グーグルマップに作画

アクセスの難度 ★★★★

このルートは時間が読めない。メダンに着いてから3~6日くらいはかかると考えていいだろう。日本のような交通事情とは全く異なるからだ。特にメダンからシボルガ行きのバスや、テルクダラムへ渡るフェリーの出航にタイミング良く合わせられるかがキーポイントとなる。もし外すと1日もしくは数日の足止めをくらう可能性もある。トバ湖でも一泊するかもしれない。長旅は移動していれば我慢できるが、同じ場所でやることもなく待つというのはキツイものだ。でも「そういう旅」だと覚悟の上で選択するルートだし、日本に帰ってきてから思い出すとなぜか楽しい出来事に昇華しているはずだから大丈夫だ。

ハザード(危険度)★★★

このルートは時間はかかるが、危険度は低いと思う。バスやフェリーで盗難があるかもしれない。しかしニアスに着いてから注意すべきことがある。暑さと紫外線、またマラリアにも注意したい。モスキートネットは持参したほうが良いかもしれない。さらにラグンディー湾には、生活排水が流れ込んでいるので、鼻腔や耳の感染にも注意した方がいいだろう。リーフによる怪我の危険もある。

宿泊 ★★

サーフブレイクに沿ってロスメンがずらりと並んでいる。その二階が宿泊施設で、食事はロスメンが作ってくれる。宿泊費は交渉次第だが、バリよりも安く新鮮な魚介類が毎日食べられる。

波 ★★★★

ラグンディー湾の波は、サーフィンするための理想的なライトハンダーと言っても過言ではない。インド洋からのスウェルが、まるで鞭(むち)のように遠心力をつけながら湾に入ってくるために、パワーもさることながら「トルクのある波」という表現が正しいだろう。地震によってリーフが隆起し以前よりもシャローになってバレルも大きくなった。ラグンディーの波が小さければ、ヒナコ島に行くというオプションもある。サイズは2~3倍はある。


まとめ
(空腹こそが最高のソース)

サーフトリップは『波』がすべてか?異論の余地はない。しかし良い波だけで『旅』が楽しくなるとは思えない。筆者も『波』を求めていろいろな旅を経験した。波だけがすべてだった。でもいま振り返ってみると、人との出会いや、困難に遭遇したことなどが記憶として懐かしく、旅は『波』だけではないと痛感している。だから、あえてソウルフルに遠回りを選択するのもありだと思う。さまざまな困難を乗り越えたさきに『パーフェクトブレイク』が待っていたら、その感動は一生ものだ。

(李リョウ)

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