【奄美大島等に漂着した物体は?】鹿児島大学環境保全研究室・宇野誠一准教授インタビュー(2/16追記)

2018/02/16追記(1)↓
2018/02/16追記(2)↓

東シナ海で衝突・沈没したタンカー事故との関連が懸念されている、奄美大島等に黒い油が漂着している問題で、化学物質の環境汚染を専門に研究する鹿児島大学水産学部の宇野誠一准教授にお話を聞いた。

奄美大島などに漂着した物体は何?

[THE SURF NEWS編集部、以下TSN]第十管区海上保安部から、奄美大島等に漂着したのは「C重油または原油相当のもの(軽質原油コンデンセートは検出なし)」と発表がありました。コンデンセートが漂着する可能性は、本当にないのでしょうか?

[宇野准教授]海上保安庁も(沈没地点から)300km離れたところにコンデンセートがたどり着く可能性は極めて低いと発表しているとおり、コンデンセートの大半は漂着する前に揮発すると考えています。

漂着物はなぜ黒くて粘質なの?重油の風化って?

[TSN]今回沈没したタンカーの重油が各島に漂着したのではと疑われていますが、重油はどのようにしてあの黒い油状物質になるのでしょうか?

[宇野准教授]重油は、初めは茶褐色で、天ぷら油のような粘度をしています。ガソリンほどサラサラはしていません。そこから海を漂流するうちに風化していき、粘性が高く、黒っぽいものが残ります。

[TSN]重油の風化とは、具体的にどのような現象でしょうか。

[宇野准教授]まず、大前提として、重油や原油といった油は、数百もの化学物質によってできています。それぞれの化学物質は、分子量の小さい(軽い)ものから、分子量の多い(重い)ものまで、様々です。

分子量の小さい物質は、一般的に揮発しやすい・水に溶けやすいといった特徴があります。
分子量の大きい物質は、粘性があったり・濃い色をしていたりする傾向があります。

そのため、重油が漂流して風化していく過程で、まず分子量の小さい物質が揮発していき、分子量の大きい物質つまり粘性が高く、黒っぽいものが残ります。そこに、海上を漂流している粘着性物質や汚れなどが付着し、海中を浮遊して、砂浜などにたどり着きます。

今回、各海岸に漂着した物質は、タールやアスファルトのような粘性の高いものが残っていると考えます。このようにタール化してしまうと、水に溶けにくいという性質もあります。

[TSN]なるほど。茶褐色の液体から、徐々に黒い物体に変化していくのですね。

[宇野准教授]あくまでも例としてなのですが、重油が風化していく1つのパターンとして、タイの石油流出事故のときに、現地に調査に行った写真を紹介します。

海岸を漂う重油です。流出直後には現場にこのような茶褐色のものが広がったと思われます。(宇野誠一准教授提供、撮影地タイ)

重油が、球状になっていく1つの要因として、写真のような物質が徐々に付着することが考えられます。恐らく海に良く人ならばこんなのを目にしたことがあるはずです。(宇野誠一准教授提供、撮影地タイ)

油に上記のような物質が徐々に絡みついていって、少しずつ大きくなっていく・・・というのが、黒い油状物質が出来上がるまでの1つのパターンとして考えられます。(宇野誠一准教授提供、撮影地タイ)

漂着した油は有害?環境・魚への影響は?

[TSN]燃料油が黒い油状物質になる過程がイメージできました。ところで、各島に漂着している物体は有害なのでしょうか?環境への影響を懸念する声も多く聞こえてきます。

[宇野准教授]重油には、毒性の強いといわれる「多環芳香族炭化水素(PAH)」が含まれますが、体内に取り込まれる量次第で、有害レベルは変わります。

[TSN]PAHとはどんな物質でしょうか。

[宇野准教授]アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)は、PAHのうち生物に影響を及ぼす可能性がある16種を公表していますが、なかでも2環から6環までを有害性の判断基準としてよく使用します。n環とは、ベンゼン環の結合数を示しますが、2~3環の分子量が少ないものは、多少水に溶けるが分解しやすく、急性毒性が強いという特徴があります。4~6環の分子量の多いものは、残留しやすく(分解されにくく)慢性毒性が強い傾向があります。

[TSN]漂着した物体には、どちらの物質が含まれているのでしょうか。

[宇野准教授]風化していく過程で、これらの成分比は変化していきます。分子量が少ない物質は分解されやすいため、今回漂着しているは、分子量の重いものだと考えています。

[TSN]つまり、“慢性毒性”がある物質ですね。海洋生物への影響はあるのでしょうか。

[宇野准教授]通常、水中生物はえら呼吸で、これらの物質を体内に取り込みます。ただ、漂着しているような物体は、かなり粘性が高く水に溶けづらい状態です。また、4環以上の分子量の多い物質は、魚は殆ど吸収できないことも研究から分かっています。

ただし、背骨の無い動物(カキ、ムール貝、アサリ、ハマグリなどの貝類)であまり動かない生物は、一時的に影響がある可能性があります。

[TSN]奄美大島では、5月からモズク漁がはじまるようですが、海藻類へも影響はあるのでしょうか。

[宇野准教授]油の付着により一時的に枯れる可能性がありますが、有害物質による影響というよりは、呼吸ができなくなることが原因と考えられます。昨日、奄美大島でアオウミガメが死亡したと報道されましたが、これも(有害物質が原因ではなく)窒息死とのことでした。

人体への影響は?海に入って平気?

[TSN]奄美大島などにもサーフスポットがあるのですが、海に入っても大丈夫なのでしょうか。

[宇野准教授]慢性毒性のあるものでも、長期間かなりの量を摂取しないと、人体への影響は出にくいと考えます。

サーフィンなどで海に入ったとしても、人の口に油状物質が入りこむ可能性は極めて低いと考えます。また、有害物質の濾過機能について、人体と魚は似たような性能を持っており、口から取り込んだ場合は、分解されやすく体内にあまり蓄積されないことがわかっています。

気になる人は、海にはいったら、よくうがいをしてください。実際に油が漂着している海岸は、しばらく様子を見たほうがよいかもしれません。

回収作業のときに注意することは?

[TSN]8日、鹿児島県は回収作業のマニュアルを公表しました。ボランティアなどの公式募集は、まだこれからのようですが、作業時に気をつけるべきことはありますか。

[宇野准教授]漂着物と砂との分離がうまくできないと、処理がより困難になるため、回収作業は人の手で行うことになると思います。除去作業に携わる人は、活性炭マスクや手袋を装着するのが望ましいですが、万一素手についてしまったとしても、石鹸で落とし、大量の水で洗い流せば問題ありません。

[TSN(2/16追記)]1997年に日本海で起きたナホトカ号重油流出事故のときは、油の臭いがきつかったと言われています。一方、奄美大島等に漂着している油からはそこまで強い臭いは感じないとの声もあり、回収作業マニュアルにも活性炭マスクの記載はありません。活性炭マスクを装着した場合、どのような効果が期待できるのでしょうか。

[宇野准教授(2/16追記)]今回の奄美の様子を見る限り、ナホトカのときに比べ風化が進んだものが漂着しているようです。それが、そこまで臭いがきつくない一因かもしれません。

また、きちっと鼻のところでフィットする活性炭マスクは臭いの軽減だけでなく、油の中の成分が揮発している場合、確実に体内に取り込む量を減らすことが出来ます。活性炭の吸着能力でそれが期待できます。

ただ、適当な間隔で休憩を取ったり、交代制で回収作業を進める方が、効率的だし現実的かもしれません。

海や砂浜に残った油はどうなる?(2/16追記)

[TSN]人が回収しきれなかった油状漂着物は、最終的にどうなるのでしょうか。

また、編集部が別途行った取材で、ナホトカ号の時は人が回収しきれなかった油も3~6ヶ月で海岸から無くなった、という体験談を聞きました。今回はどのくらいの期間で油が無くなると予想されますか。

[宇野准教授]奄美周辺の気候を考えると、高い気温で少しずつ揮発する成分も僅かにあるし、強い日差しで分解されたり、雨に当たって表面が削られて海に流れたり、嵐にあってちりぢりになったり、波が来て海に戻したりして、徐々に小さくなっていくと予想されます。特に、強い日差しは分解に強く寄与します。化学物質は、光のなかでも特に紫外線が当たると分解されやすくなります。

最終的には岩場などに残った油の場所には黒い痕跡は残るかもしれませんが、砂浜ではそれもかなり少ないと思います。要はさらに風化が進みます。
あくまでも一般的な話ですが、風化が進むと、その毒性はどんどん小さくなります。

次に、油がなくなる期間についてですが、漂着した場所にもよるものの、ナホトカ号の時に比べ漂着量もかなり少ないようなので、全体的には当時より短い期間で無くなる可能性が高いと考えます。

[TSN]ありがとうございました。初めは得体が知れないと思っていた漂着物の、正体が見えてきました。まだまだ油断できる状況ではありませんが、教えていただいたことを念頭に、引き続き調査・取材をしていきたいと思います。

THE SURF NEWS編集部では、本件に関して調査・取材した内容を、以下の記事で随時更新しています。
東シナ海タンカー事故、日本沿岸部への影響は?超軽質原油コンデンセートとは?

■宇野誠一准教授プロフィール

鹿児島大学水産学部 附属海洋資源環境教育研究センター 環境保全学研究室で、化学物質の環境汚染や、水生生物に対する毒性影響を専門に研究。
鹿児島大学水産学部 海洋センター 環境保全研究室ホームページ

 

▼関連動画:奄美大島 宇検村・枝手久島から大和村の様子奄美大島漂着油情報提供)

※油塊が特に多い部分を撮影したものであり、奄美大島全体がこのような状況ではない。

COVER PHOTO:奄美大島漂着油情報提供

(THE SURF NEWS編集部)

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