「岩盤型SeiSYo工法」における潜水突堤の設置イメージ。 Photo:国土交通省提供

「幅30mの砂浜をつくる」西湘海岸における潜水突堤の設置工事がスタート

「西湘海岸」とは神奈川県西部の海岸の総称。現在その西湘海岸にて、従来型の堤防とは異なる “潜水突堤” を設置する工事が進められている。

本プロジェクトは、侵食の問題が深刻化している大磯港~酒匂川の海岸に対し、新型の突堤を設置して砂浜の回復を図るもの。その第1基が、西湘バイパスの二宮I.C.付近にて、2020年から3年をかけて設置される予定。以降は効果検証をしながら、全6基の潜水突堤が設置される予定だ。

今回の養浜計画において、海岸の地形は今後どのように変化していくのか。
海岸の特性上、このエリアにおける「新たなサーフポイントの誕生」というのは現実的には難しそうな状況だが、現在進められているプロジェクトの概要と、新工法として期待を集める“岩盤型SeiSYo工法”について紹介したい。


Photo: 国土交通省提供

西湘海岸について

地元住民やサーファーの呼び名として「西湘エリア」と言えば、一般的に相模川より西側を指しているが、このエリアでのサーフィンは、サーフポイントで言う生コン(平塚漁港)~大磯海水浴場までが中心。大磯港を挟んで更に西側も長い海岸線が続いているが、この一帯はいわゆる“どん深”な地形であり、ほぼサーフィンはできない状況にある。

この西湘海岸一帯は砂礫を中心とした海岸で、酒匂川が主な土砂供給源となるが、近年は上流ダムなどの影響もあり酒匂川からの流出土砂量は 減少傾向。また一方で、西湘海岸は沖合い近くに海底谷があり、この谷へ海底の土砂が流出しているという特徴もある。
現在は酒匂川より供給される土砂量と、海底谷へ流出してしまう土砂とのバランスが取れなくなっており、海岸侵食が進んでいるといわれている。

事業の背景

相模湾には北西方向に伸びる海底谷がある。Photo: 国土交通省提供

西湘海岸が位置する相模湾は、北西に向かって湾奥部まで海底谷が迫っているという特徴を持つ。そして全国的に見ても「急峻な海底地形」であるため、南東方向の波(うねり)が発生した場合は、波高が高くなる傾向があり、その被害も深刻化している。

記憶に新しいところでは、2007年の台風9号の影響により砂浜が大きく侵食してしまったほか、西湘バイパスや付近の海岸線にも大きな被害が発生。その後も台風による高波の影響は続いており、さらなる侵食も見られている。

Photo:国土交通省提供 (THE SURF NEWS編成)

この2007年における台風9号の被災前は、西湘バイパスに沿って狭いながらも連続的なビーチがあり、釣りや海水浴などにも利用されていたが、被災後は砂浜が減少するばかりか、近隣住宅地への影響も懸念されている状況。

神奈川県による養浜事業も定期的に実施されているが、これまで砂浜の十分な回復には至っておらず、地域住民から安全への不安や、かつてのようにビーチを利用したいとの希望が強く求められているという。

事業の概要

Photo: 国土交通省提供

今回のプロジェクトは、小田原市・二宮町・大磯町にまたがる、酒匂川河口~大磯港の海岸が対象で、以下事業が進められている。

1. 高波浪時の海岸防御及び養浜材の流出抑制
2. 住宅地へ致命的なダメージを与えない対応策
3. 海底谷への砂礫流出抑制対策

中でも、今回事業では“最低限30m以上の幅と適度な勾配をもつ砂浜の実現” を目的として新たに考案された「岩盤型SeiSYo工法」が採用され、期待を集めている。

新工法「岩盤型SeiSYo工法」とは

Photo: 国土交通省提供

「岩盤型SeiSYo工法」とは、海岸に幅約10m、長さ約50mの潜水突堤を設置し砂浜の回復を図る新工法。従来の突堤とは異なり、平常時の漂砂の移動を妨げることなく、高波浪時の侵食を受けにくくするもの。

この潜水突堤は、同じ西湘海岸の中でも、岩盤が露出している葛川河口付近には砂がたまっていることをヒントに、海岸研究の第一人者である一般財団法人 土木研究センター なぎさ総合研究所長 宇多高明氏が考案したもの。

2019年度に工事用道路の建設を行い、2020年度から3年をかけ、西湘バイパスの二宮I.C.付近に最初の1基が設置される予定。その後、2基目の設置に3年、養浜に1年かかる見込みだが、以降も効果検証をしながら、全6基が建設される。

平常時に見られる東側への流れを妨げることなく、高波浪時に見られる西側への流れにも対応。前浜を構成する土砂の移動を抑制する。Photo: 国土交通省提供

新たなサーフポイント誕生の可能性はあるのか

サーフィンに適した地形とは「勾配の緩やかな砂浜」といえるが、その条件は砂浜を構成する底質の粒径により確定するもの。

今回の新工法を考案した宇多高明氏によると、一般的に遠浅で、サーフィンに適している砂浜と比較すると、西湘海岸の砂の粒径は大きいため急勾配の砂浜になってしまう傾向があり、これを人工的に変化させることはできないとのこと。

また、今回事業の目的は高波による侵食の抑制と海岸の保全が主であり、相模湾沖の海底地形なども含む西湘海岸の特徴を考慮すると、残念ながらサーフィンという視点で見る範囲では今後も大きな地形変化は難しそうな状態である。

ただし、これまで減少の一途をたどっていた砂浜が復活し、ビーチに人が集まりやすくなることで様々な状況が変化していく可能性はある。新たなサーフポイントの誕生までは期待できずとも、他のマリンスポーツやビーチアクティビティなどの利用も含め、また新たな展開があるかもしれない。

この画期的な事業に関心をもち、今後の動向に対しても引き続き注目したい。

(THE SURF NEWS編集部)

取材協力:国土交通省関東地方整備局 京浜河川事務所
http://www.ktr.mlit.go.jp/keihin/

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