代表合宿で、バックサイドのリッピングを決める中塩佳那と海から上がった稲葉玲王 Photo:Chiaki Sawada

世界選手権へ「波乗りジャパン」公開練習!CS裏話も披露「日本のレベル証明したい」

南米エルサルバドルで9月に開かれるISAの World Surfing Games(世界サーフィン選手権)を控え、日本代表「波乗りジャパン」の公開練習が、千葉・釣ケ崎海岸(通称・志田下ポイント)で行われた。

男子は稲葉玲王、大原洋人、西慶司郎、女子は中塩佳那、松岡亜音が参加。CT選手の五十嵐カノア、コナー・オレアリーを欠いた布陣だが、選手たちは「日本のレベルを証明したい」と、高い士気を掲げた。

一宮町サーフィン業組合と一ノ宮玉前神社氏子青年会から送られた「波乗守」を手にする代表選手ら Photo:Chiaki Sawada

この日の波は、モモ~腰サイズのスモール。波数も少なく、選手たちは、会話しながらリラックスしたムードで波待ちし、男子選手は力がない波ながらも、スピードをつけてエアを連発。女子選手も、バーチカルなリップを何度も披露。仕上がりの良さをアピールした。

海から上がると、それぞれが、世界選手権への意気込みや最近の試合の舞台裏、選手間の仲の良さ、赤い髪色の秘密など、大いに語った。

なお、代表選手のうち、男子の伊東李安琉、女子代表の都筑有夢路、都築虹帆は欠席した。

稲葉玲王

「小波の練習が大波で生きる」

―世界選手権への準備は?

ばっちりだと思いますね。久しぶりに1ヶ月以上、練習できる時間が取れて、トレーニングも今まで以上にできていると思うんで、準備は万端です。エルサルバドルは2回目。前回、あそこでオリンピック代表を決めたんで印象はいい。波もすごく良い波で、割とサイズある波が多いんで、自分としても好きな波だし、楽しみです。今ずっと小波の練習をしてるんですけど、小さい波の方が自分で体を動かさないといけないんで、その分すごく体が動いてくる。波がでかくなった時にもそれが勝手に生きてくるんで、良い時間になってる。逆にでかい波の後、小波でやる方がきつい。

―タヒチでのパリ五輪から1年。

あれはなんかちょっと夢のような時間だったなって感じです。未だにちょっと現実感ないというか。でも、ああいう環境でも自分を出せたっていうのは、自信にもなったんで、もう一回あの場で戦いたいなっていう思いは強くなりました。

「個人的に今までで一番のチーム」

―男子代表のチームワークは?

いいんじゃないですかね。みんな仲良いし、ほぼ毎日顔を合わせるメンバーなんで、大体ここ(志田下)に来れば誰かしらいる。今までの日本チームの中でも一番いいんじゃないかなって個人的には思います。ずっと小さい頃から一緒にやってきたメンバーなんで、それはすごいいい点かな。

―パリ五輪代表チームメイトのコナーがJ-Bayで優勝。

もうほんと感動しましたね。コナーは、自分がちっちゃい頃からオーストラリアとかで一緒にやってて、お兄ちゃんみたいな感じ。長いCT生活の中で初優勝。ここで取るかって感じで、めちゃくちゃ感動しました。同じグーフィーフッターなんで、コナーのサーフィンはすごく勉強してる。

―世界選手権の目標は。

個人で金メダルを取るっていうのと、全員で、チームでメダル取るっていうのを目標として頑張りたいです。

大原洋人

「ボードを去年より、はるかに大きくした」

―調整状況は

調子はいいです。日本の波とは全く違う波なんで、体だけは、いつでもベストな状況で、自分のパフォーマンスが出せる状態をしっかり作って、あとはあっちでサーフボードの最終調整かな。前回行った時が2021年? 4年前の記憶を掘り起こしながら、できたらいいなと思ってますね。

―CSは最初の2戦は振るわずUSオープンで3位。

今年は去年1年間乗ってたサーフボードよりも、はるかに大きくした。第1戦のオーストラリアで負けたヒートは、両足の太ももとかふくらはぎがつっちゃって、ライディングを続けられなかった。過度の疲労が原因で、そこは強化したけど、第2戦の南アフリカの時は、負けたヒートの時、やるべきことを明確にできてなかった。何に集中していいか、試合中にわからなくなって。チョイスする波もアバウトになってた。

USオープンの時は、どういう波でどういう演技をするかっていうのが明確で、それだけにフォーカスして試合を進められた。ただ淡々と仕事をこなす、みたいな。気持ちのアップダウンも全然なくて、平常心を保ち続けて、波に乗って、やるべきことやって、点数が出て、勝ち上がってるみたいな感じだった。

―現在のCSランキングは11位。ハワイ・パイプラインでの試合も控える中、(10位以内の)CT入りへの手応えは。

今年は7戦中カウントされる試合が5戦。優勝したいし、1回ぐらいファイナル行って、CTに入る準備はもうできてるっていうのを表したい。パイプは怖い部分はたくさんありますけど、もう4年ぐらいハワイ行ってないんで、1ヶ月ぐらいの練習を最低でもしないと。それでも、ほんと上手な人にはたぶんかなわない。人生で一番良い波に乗りにいくっていうよりは、必ず勝てるヒートをする準備はしたいなって思いますね。

「俺と玲王と慶司郎で金メダル取れる」

―カノアもコナーもいない代表チームで経験者として引っ張る存在。

NSAのサポートで、CSにもコーチなりカメラマンなりを派遣してくれて、日本チームも一丸となっている。USオープンは特に、世界戦みたいな、1ヒート誰か入ったらみんなでビーチまで応援しに行ってサポートするみたいなスタイルが確立されてた。何度か世界戦行かせてもらってるし、今までの経験もあるから、一選手としても、みんなを外から見て、今良い傾向じゃないなってなったら、なるべくみんなに声かけたいなっていうのは思いますね。

―世界選手権の目標は金メダル。

もちろん自分の金メダルもそうだけど、団体で金メダル取りたい。カノアとコナーがいなくて、「日本チーム、ヤツらいなくて大丈夫か」みたいな感じで思ってるファンもいるかもしんないから。俺自身も玲王と慶司郎とだったら全然余裕で金メダル取れるって思うし。でも、それは俺らがベストを尽くせば、の話。みんなで協力してベストを尽くして、カノアとコナーがいなくたって、日本人のレベルこれだけ上がってるっていうのは証明したいなっていうのはありますね。

西慶司郎

「試合を楽しむと笑顔が出る」

―エルサルバドルへの手応えは?

自分的になかなかいい仕上がり。去年は挑戦者側だったんですけど、今年は確実に取りにいくっていう気持ちで臨んでて。それがUSオープンでしっかり形になったなっていうのを実感できた。ここからがまた新しい自分にとっての戦い。

世界選手権はアンダー18の最後の年に1回だけ出させてもらったんですけど、怪我して途中棄権。それ以来9年ぶり2回目の出場。日本チャンピオン2回取れたっていう実力も自信として持って、去年から世界を回らせてもらってて、しっかりスコアも実力も認めてもらってるんで、そこは自信を持ってやる。まあ緊張は、たぶんついて回ると思うんですけど、緊張との向き合い方も、ここ数年の試合の感覚で、かなり自分的にいい向き合い方ができてるなって思ってるんで、そこで頑張りたいなと思います。

―試合中の笑顔が印象的。

基本的には自然に出てますね。やっぱり、試合は好きなので、楽しむっていう気持ちを忘れずに。サーフィンが好きで、その延長線上で試合に出てるっていうのを意識してやってるんで。緊張ももちろんするんですけど、マイナスな部分も楽しみながらやりたいなってすごく思ってるんで、なるべく表情が硬くならないように。こわばってる時にも、あえて笑うっていうのは意識してやってます。

「試合中は毎日自分で染める」

―赤い髪の毛で試合に出るのはなぜ。

赤色は高校生、18の時、気合を入れるために赤色にした試合で優勝してISAの世界選手権に行けた。願掛けで2021年のグランドチャンピオンになった年も、まだ全然自分の名前とかも、コアなサーファーにしか知れ渡ってなかったんですけど、とりあえず赤色にしてサーフィンして、試合に勝つっていう。まずは見た目から有名になって、そっから名前を覚えてもらって、いろんなとこでサーフィンしてるときに応援してますって声かけてもらえることが多くなったんで。海外でも覚えててくれるんで、赤色にして試合に出るようにしてる。海外メディアだったりアナウンサーだったり、選手からも、認知はかなりされるようになったんで、やってよかったな。

―世界選手権も赤色で?

今回のエルサルバドルも、バッチリ赤でいきたいです。自分で染めてます。すぐ取れちゃうんで、試合がある時はもう毎日、宿舎で染めてる。海水とか紫外線で傷むんで、すぐ色が抜けて。何回も染めてメダルが近づけば(笑)

代表チームのコーチもテントからパフォーマンスを見守った Photo:Chiaki Sawada

中塩佳那

「ボードを変えサーフィンを変える」

―エルサルバドルの世界戦への意気込みは

シニアの世界選手権は初めてなので、すごいワクワクしてますし、エルサルバドルは1回ジュニアの時に行って、すごく良い波で、メダル取れなかったんですけど、ファイナルの前まで行けて、いい思い出があるので、すごく楽しみです。

―CSの3戦、思うような結果が出せていない。

まだ3戦、もう3戦やって、あんまり自分のサーフィンが出し切れてないなっていうのがあるので。1年目で結果出すっていうのはすごい難しいことなのかなって考えながらやってるので、ポルトガル、ブラジルって続く中で、やっぱ自分のサーフィンとか色々変えていかなきゃいけないなって思ってます。いろんな板をオーダーしてトライしてみたり。ボードが変わればサーフィンも変わってくるので、そこから調整していきたいなと思ってます。(松田)詩野ちゃんもJSに乗ってからサーフィンの質だったり色々変わってるなっていうのを思ってたので。自分もそういう板にちょっとトライして。いつも乗ってた板が調子良かったら、元に戻すっていう選択肢も全然ありなので。

「ケイティのようなサーフィンを」

―今日の板は?

今日は、クリス・ボーストっていうケイティ・シマーズが乗ってるボード。USオープンの時にピックしてもらって。それを乗ってます。自分もケイティのようなサーフィンがしたい。レール使いながらサーフィンするところが自分に似てるなって前から思ってたので。日本人は小柄だけど、やっぱサーフィンはでかく見せていかないといけないので。そのためには、そういうライディングをできる板がないとやっぱできないなって思ってるので。

―ISAとWSLのジャッジの違い。

ジュニア当時は、WSLはレールワークだったり、大人のサーフィンをしないと点数がつかないっていうイメージだったんですけど、ISA行ったら、ボトムターン使ってリップしてカーブしてっていうよりかは、上だけでリップ抜けしてたり、リップしてカーブして、最後フィニッシュ入れたら点数出るみたいなイメージ。WSLの方がちゃんとボトムターンして、ちゃんとリップしてっていうのをしないと、点数が繋がらないなって、当時は思ってました。だからサーフィン変えてました。

―今回の世界選手権では?

シニアなので、自分のサーフィンは変えずに、自分のサーフィンのまま行きたいなって思います。

松岡亜音

「自分の意見を言うようになった」

―2023年、ISAワールドジュニアで金メダル。今回シニアで初参戦。

サーフィンって個人競技だけど、ISAってなると日本代表、団体競技でみんなで、侍魂というか、一つの気持ちで取り組むので、いつもの試合とは全然違うなって。ジュニアからシニアになって、今回は補欠ですけど、いつでも準備はできてるので、何かあったらいけるようにしてます。

―これまでのサーフィン人生は順調か。

うーん、ここ2年ぐらい、CS回り始めて、去年とか特に「つらいな」って思うことも多くて。負けが続いたりとか。今回のUSオープンぐらいで、ちょっと気持ちが切り替えられたかなって感じで。重荷が外れたというか。

―何があった?

お父さんと常にちっちゃい頃からマンツーマンでやってきて、試合終わった後も、お父さんが熱くなるから、わあっと言うけど、そうじゃなくて、上がってきたら自分が先に言うようにして。負けても勝っても、今のはどうだったとか。練習の時から。そうしたら、自分の意見が出てきたというか。お父さんからもサーフィン教わってたし、いろんなコーチと出会って、いいところをもらって試してきたんですけど、自分からの発案というか、そういうのが芽生えたら、ちょっと変わったかなって。負けたけど楽しくて、それを考えられるのが。自立というか、思考が大人になったかなって思いました。

「メイヘム本社でパイプ用の板オーダー」

―CSのパイプライン戦に向けて

USオープンの後、メイヘムの本社に行って、パイプ用のボードをオーダーした。真ん中に重みがあって、普通の海で入るボードよりも、レールが薄い、ウィップラッシュというモデル。パイプはターンがないから、すごいロッカーのあるピンテール。今までは、お任せで作ってきたんですけど、今のCT選手のメイヘム使ってる人のボードを見させてもらって、参考にして、話し合って作れたから、すごい楽しみです。

―怖くはないですか?

うーん、楽しみですね。CTに入んないと、パイプのイベント出られないから、CSで30分間も貸し切れるっていうのが、本当に楽しみです。女子はそんなに大きいコンディションではないかもだし、良くないコンディションかもしれないけど、ほんと楽しみです。

大手企業が「波乗りジャパン」のスポンサーに名を連ねる Photo:Chiaki Sawada

World Surfing Gamesは、9月5~14日の日程で開催される。

(沢田千秋)

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