パネリストの(左から)まいまいさん、大原沙莉さん、秋山莉江さん Photo:Chiaki Sawada

サーフィン保護区目指す千葉・一宮町で女性インフルエンサーが魅力と期待を語る会!

サーフィン界の世界遺産と言われる世界サーフィン保護区のアジア初認定を目指す千葉県一宮町で、地元の女性インフルエンサー3人による町の魅力と保護区への期待について語る会が開催された。

場所は閉店後のパタゴニア千葉・一宮。トークゲストは、ボディボードで2度、世界チャンピオンに輝いた大原沙莉さん、ライフスタイルクリエイターとしてSNS発信などを行う、まいまいですやんさん、家業の梨農家を継ぎ、地元よさこいダンスチームや消防団で活動する秋山莉江さん。

サーファーであったりなかったり、先祖代々暮らす住民だったり移住者だったりと、三者三様のバックグラウンドで多彩なトークが展開された。一方で、聴衆からは保護区への不安という率直な意見も飛び出すなど、集まった約50人は多様な意見を共有しながら、町の進むべき姿を模索した。

町が主催NGOに予備申請書を提出

冒頭、あいさつに立った一宮町の大場正彦副町長は、サーフィン保護区を主催するNGO「セーブ・ザ・ウェーブズ(STW)」に予備申請書を提出したと発表。STWから本申請への招待があれば、正式な申請書を出し、認定に向けた審査を受けることになるという。

トークを前に、パタゴニアのスタッフで、サーフィン保護区を推進するローカルコーディネーター廣瀬玲士さんが、保護区について説明した。

廣瀬さんの説明に耳を傾ける聴衆 Photo:Chiaki Sawada

廣瀬さんは「世界地図を広げて、著名なサーフスポットを並べた時、その8割以上が、とても重要な生物多様性ホットスポットと言われている場所。なので、サーフスポットが維持、再生されることは、そこの生態系、生き物にとってもすごくプラス」として、すでに認定された世界各地の例などから、保護区になることは地域の発展だけでなく、文化、歴史を次世代に引き継ぐ機運にもなると呼びかけた。

世界サーフィン保護区(World Surfing Reserves)
米カリフォルニア州に本部があるNGO「Save The Waves」が 立ち上げた。世界中の優れたサーフポイントやサーフエリアとその周辺環境、文化、経済や地域的要素を保護し、将来につなげることが目的。 認定には、波の質のほか、豊かな自然環境、海を含めた地域特有の歴史、文化やコミュニティの連携などがチェックされる。2009年以降、北米、中南米、欧州、豪州など14カ所が選ばれてきたが、アジアで認定された地域はまだない。

一宮町のサーフィン保護区認定に向けたパンフレット Photo:Chiaki Sawada

一宮の美食は「ナシ」と「梨」!

パネルトークの司会は、パタゴニアのスタッフで、ローカルコーディネーターの金氏駿介さん。「柔らかい雰囲気でやっていきたい」と、挙げた最初のテーマは「一宮町のおいしいもの」

まいまいさんは父の影響でサーフィンが好きになり、2021年に一宮町に移住。アルバイトとして働いてい町内のナシチャンプル店のオーナーと結婚した。「ナシチャンプルはインドネシア料理。ご飯とおかずを混ぜて食べる料理で、美味しくて衝撃を受けた。このナシチャンプルが一宮で大好きです!」とアピール。流れを受けて、梨農家の秋山さんも「私も梨」と笑いを誘い、「自慢じゃないですが、父と祖父が千葉県のコンテストで農林水産大臣賞を2度受賞していて、私が3回目を取れるかプレッシャーです」と笑顔。大原さんの回答は「隠れ家カフェ」。小さな町だが、知られざるカフェが続々とオープンしているという。

「子供がまっすぐ育つ町」

メインテーマである町の魅力として、3人全員が挙げたのは「まっすぐな子供たちと良好な子育て環境」だ。22年前、小学校に上がる時に移住して来た大原さんは、自身の経験も踏まえ「真面目に子供が育つ町。町の人が見守ってくれて悪さできない、みたいな。移住組の子もみんな挨拶できるし礼儀正しい。子供たちが変に擦れない感じが一宮の魅力と思う」と語った。

まいまいさんも「この町に移住してから子供がほしいと思うようになった。放課後、海に集まって浅瀬で遊ぶ子、サーフィンする子、泥まみれ、砂まみれになって素敵だなって。この町で子育てしたら、みんなで協力して育てる感じがすごくする」という。

平安時代から一宮町に続くという家系の秋山さんは、祭りで神輿を担ぐ伝統と文化を子供たちに経験させたいとして、「長い歴史に携わり、知り得ない2、3、4世代上の人とコミュニケーションをとる形にもなる」と、その素晴らしさを解説。また、「ずっと地元にいるので、逆に(町の)良さに気づけないところは多い」と、移住組の視点に新鮮さを感じた様子だった。

司会を務めた金氏駿介さん Photo:Chiaki Sawada

「波の保全はサーファーの使命」

町がサーフィン保護区を目指す理由は、サーフィンをきっかけとした町の発展と文化、歴史の継承だ。司会から次世代へ繋ぎたいものを尋ねられると、まいまいさんは「人の温かさ」と即答。東京から移住して心細かったころ、知らない自分にも手を差し伸べてくれる町民の優しさがずっと残るよう願う。

大原さんは世界の海で戦ってきた経験から「波の保全は大事」と明言。「子供のころは、波が胸サイズ以上あると、釣ケ崎海岸はチューブになるいい波になったけど、最近の異常気象で右側の堤防の先端が崩れ、変な潮の流れ、変な地形になって、なかなかいい波が立たなくなった」と憂う。

そして、「いい波が減ると、知らない人同士でバトルが始まり、海で練習することが仕事のプロサーファーも『うざい』とネットに書かれたりする。平和な海で楽しく波乗りするために、一宮の海を守るのはサーファーの使命」と語った。

サーフギアに囲まれたパタゴニアでのトークセッション Photo:Chiaki Sawada

サーフィン保護区で守る祭りやウミガメ

サーフィンをしない秋山さんは、「新しいものを作るのは、どちらかと言うと容易。昔からある古いことを繋いでいくのは難しい。このイベントやろうぜもいいけど、新しい人の意見も入れつつ昔からある行事やお祭りをしっかり守って繋げていきたい」と述べた。

また、保護区になった暁には「もっと自然を守ろうという意識を持つ人が増えるんじゃないかな」と、希望を口にしたのは、まいまいさん。「ウミガメやホタルも、普通じゃ知り得ないけど、世界的な認定によって、みんなで守ろうという動きが活性化されたらすごく嬉しい!」

金氏さんも「一宮町には素晴らしい里山があり、そこから川が流れて、流域に畑があって海にたどり着く。サーフィン保護区で自然を守ることで、町の文化、歴史も守られていくことになる」と期待した。

地元住民「サーファーのモラルが心配」

サーフィン保護区を心配する住民の声も Photo:Chiaki Sawada

一方で、聴衆からの質疑では保護区への懸念も。一宮町で有名な乗馬センターの大野さやかさんは「私も地元だけどサーフィンやってなくて、馬を通してサーファーを見てると、モラルがないと感じたり、配慮が足りないと思うことが結構ある」と切り出した。

「一宮に長く住んでるおじいちゃん、おばあちゃんたちも、一宮をサーフィン保護区にしようって聞いた時に、『ちょっと嫌』って思う人結構いるんじゃないかな。保護区になって、人がすごく流れ込んだ時、この一宮のめっちゃ素敵な環境を、このまま維持できるかな」。さらに、「ここにサーフショップのオーナーがいない。サーフィン保護区って言うからには、たぶんサーファーがめっちゃ来るのに、サーファーを指導していく立場の人がいない。サーファーを教育していく立場の人が魅力を伝える姿勢が見たい」と要望した。

金氏さんはサーフィン保護区に認定されたオーストラリア・ゴールドコーストを例に、「認定後、駐車場の増設や給水スポット、ゴミ箱を設置したり、より良い状態で海を楽しむルールも作られた。一宮町も、どういう形でサーフィン保護区に向かっていくのか、皆さんの貴重な意見を受け止めて活動していきたい」と締めくくった。

トークセッション後の記念撮影 Photo:Chiaki Sawada

会場には、サーフィン保護区申請に関心を寄せ、視察に来た宮崎市の担当者の姿も。トーク終了後は、秋山さん自慢の梨が振舞われ、ゲストトーカーの3人や大野さんら聴衆も一緒になり、町の未来について熱心に語り合った。

(沢田千秋)

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