たかがサーフィン、されどサーフィン。40年間、1日も欠かさずに波に乗り続けた男がいた。その名はデール・ウェブスター。今年の8月9日、76年の生涯を終え、彼は伝説のサーファーとなった。新聞ニューヨークタイムスも取り上げた彼の記録は、11度の世界チャンピオンに輝いたケリー・スレーターも驚愕させた。彼のそのユニークかつ偉大な記録を振り返ってみよう。
始まりは偶然の出来事から
デール・ウェブスターは1948年にカリフォルニア州アルハンブラで生まれ、13歳でサーフィンを始めた。彼にとって大きな転機となったのは、ハンティントンビーチで行われた全米選手権で、近代サーフィンの父デューク・カハナモクと握手をしたことだった。彼はその瞬間の感激を「太陽の光が液体のように、私に降り注いだ」と表現している。
その後、1973年に北カリフォルニアのソノマに移住。彼の偉大な記録は1975年9月、偶然の出来事からスタートした。
「ニュージーランドスウェルと呼ばれる南からの大きな波がブレイクして、毎日サーフィンしたんだ。日に日に波が良くなって、なんと85日間も続けてサーフィンをしてしまった。そしたら友人が『100日連続に挑戦してみなよ』って言ったんだ。やってみたら地元の新聞が取材に来て、その記事が後押しになって1年間続けるという目標になった。それが始まりだった」
こうして始まった彼の挑戦は、なんと14,641日間にわたる前人未到の記録へとつながることになる。その更新中にも、彼はさまざまなメディアに取り上げられ、ダナ・ブラウン監督の「ステップ・イン・トゥー・ザリキッド」にも出演を果たす。
ビール片手のこのポーズで、彼が何をしているかが分かる。ウェイブスターはノリノリ!
哲学と困難、そして愛された存在
デールはサーフィンをするとき自分に「3本の波を乗り切る」というルールを課した。それは彼が崇拝するドリアン・パスコウィッツとフィル・エドワーズの教えから来ていると、生前に彼は語っている。
「医者であるドリアン・パスコウィッツの、健康に関する教えに大きな影響を受けた。彼曰く、世界一のサーファーになるには、フィル・エドワーズより1本多く波に乗ればいい、つまり継続こそ重要だとね。フィル・エドワーズは、フィンがビーチの砂に当たるまで乗り続けなければ『波に乗った』とは言えないと考えていた。だから私は、ビーチまで乗り切るというやり方でサーフィンをするようにしたんだ」
これは日々の小さな積み重ねこそが偉大さにつながる、という彼の哲学にもなった。しかし、情熱を持って毎日サーフィンと言っても、北カリフォルニアの海となると決して楽なものではなかった。ソノマは、年間を通して水温は10度前後、冬には5度近くまで下がることもあり、ホホジロザメが生息する厳しい環境としても知られている。彼は腎臓結石や甲状腺を患い、最愛の妻を癌で亡くした日にもモチベーションを奮い立たせて海へ向かうという、計り知れない苦難を乗り越えていた。記録のために遠くへ旅行することも叶わず、常に海の近くにいなければならかった。
だが、やがて彼はソノマの海には欠かせない存在となり、地元のサーファーからは「ラインナップの定番」や「毎日デール(Daily Dale)」、そして「毎日ウェーブスター(Daily Wavester)」といった愛称で親しまれるようになる。ちなみに、彼の娘マーゴも幼稚園から高校まで皆勤を達成し、地域初の記録を打ち立てている。

デール・ウェブスター photo by henneganbroters
記録の終わりと、彼が遺した言葉
ウェブスター氏の連続サーフィン記録は、2015年10月5日、66歳でついに途絶えた。腎臓結石による手術が必要となったためだ。それでも彼は当時、米サーファー誌に「2015年9月3日まではサーフィンを続ける」と宣言したことで、読者を失望させたくないと手術を延期していたのだった。
この大記録を達成するまでの動機については、彼はいろいろなことを語っている。例えば、ウェットスーツの保証を得るための条件を誤解していたことや、他のサーファーのサーフィンの最長記録を連続サーフィン日数と勘違いしていたこと、さらに、30日の月の周期を40年と誤って認識し、目標にしていたことなど、いくつかの動機を語っているが、どれもおそらく質問をはぐらかす、サーファー流のジョークだったかもしれない。最も重要なのは、動機が何であれ一度始めたことはやり遂げようとした彼の強い意志と、それを裏付ける偉大な記録だ。
40年間、合計35本のボードと28枚のウェットスーツを使い続けた彼は、最後にはキャンベルブラザーズのボンザーを気に入って使っていたようだ。周囲の仲間にも良いサーフィンをしていると評価されたと、彼自身も語っている。
あるインタビューで、大記録達成から学んだことをについて彼はこう言っている。
「サーフィンは挑戦です。ときには雑誌のような完璧な波を探求することもあるでしょう。でも、海に行ったらそこにある波を受け入れて乗らなければならないのです。チューブにはならなくても、ウェットスーツに着替えてパドルアウトする。その行いが素晴らしいんです」
大記録達成直後、彼は多くの仲間に囲まれて祝福のパーティーを開催した。記念のTシャツはたちまち売り切れたという。もし仲間に祝福されなかったら、記録が途絶えたことに悲しみを感じただろうとしみじみ語っている。
その後もデール・ウェブスター氏は大好きなサーフィンを続けたが、2025年8月25日、静かに息を引き取り天国へと召された。彼の功績はギネス世界記録に認定され、おそらく誰にも破られることなく永遠に語り継がれていくだろう。
(李リョウ)
I would also like to thank Brad Hennegan and Jim Nevill for providing us with their wonderful footage.
引用文献:References
https://www.surfer.com/news/everyday-dale-ends-his-streak
by Ashtyn Douglas-Rosa
https://www.surfer.com/news/dale-webster-surfed-14642-days-straight-dies
by Jake Howard
Wikipedia ; https://en.wikipedia.org/wiki/Dale_Webster