シリーズ「おいらはサーファーの味方」No. 60
スモールウェイブサーフィンに潜む落とし穴
「スピード」を生む「初速」
「小波は苦手」「サイズが無いと楽しめない」そう感じているショートボーダーは少なくありません。例えば腰以下のスモールウェイブでは、思うように加速できず、すぐに失速。リップもカットバックもままならず、ズルズルと失速気味で終わってしまう…。その原因は、単純明快に「スピード」が足りないからです。
サーフィンは、まさにスピードが命。小波でもしっかりと加速できれば、ライディングは劇的に変わります。小波のわずかなパワーを最大限に引き出し、いかにして推進力(スピード)につなげるか。それには、テイクオフ時の「初速」の質を徹底的に上げることが重要です。

小波の初速を根こそぎ奪う「シーソー現象」とは?
小波の「初速」を阻む最大の原因、それが『シーソー現象』です。テイクオフ直後、ボードに立ち上がろうとするときに、この現象が起こります。重心が後ろに移動することで、まるでシーソーのようにノーズ(先端)が浮き上がり、テール(後端)が沈み込んでしまう事が主な原因です。この上下動が大きな抵抗(ブレーキ)となり、せっかくの加速を台無しにしてしまいます。これはロングボードでもショートボードでも起こります。
ボード上に立ってからも、シーソー現象を起因とする減速は続きます。重心が高くなると同時に、バランスを足裏だけで取らなければならないので、サーフボードが360度の方向に揺れてしまい、加速しようとするサーフボードの妨げになっているのです。
「ポップアップは早いほうがいい」という定説にも、小波では落とし穴があります。ボードが十分なプレーニング(揚力)を得る前に勢いよく「ドスン」とボードに立ち上がると、その衝撃とボードの「たわみ」が瞬間的なブレーキとなってしまうのです。
(ポップアップ:サーフボードに立ちあがる一連の動作)
このシーソー現象が初速をどれほど妨げているか、簡単に体感できる方法があります。 小波のときに、ボディボードのように腹ばい(プローン)のままで波に乗ってみてください。驚くほどボードが加速するはずです。次に、いつも通りにポップアップして波に乗ってみましょう。立ち上がった瞬間にボードが失速し、スタックしたように感じられたら、それがシーソー現象の影響に他なりません。

シーソー現象を克服する3つのポイント
では、どうすればシーソー現象を軽減できるのでしょうか?それには、意識の変革、ポップアップの改善、そしてサーフボードの見直しという三つの視点から、劇的に改善することができます。
1. 常識を疑え:「立つことを遅らせる」という意識の変革
「ポップアップを意識して遅らせる」というと、多くのサーファーが驚くかもしれません。しかし小波では、急いで立ち上がろうとしないことが極めて重要です。
テイクオフで、ボードがプレーニングし初速を「十分」に得たと感じてから、クイックかつスムースにポップアップしましょう。加速すればするほど、プレーニング効果によってボードは安定します。この「安定したタイミング」を見極めて立ち上がることが、失速を防ぐための鍵となります。しかしポップアップを遅らせると言っても、多くの場合そのタイムラグはコンマ数秒です。
(注:ボードが加速している状態から立ち上がると、体が引っ張られるような強い感覚、いわゆる「加速G」を感じるときがあります。この状態で立つには少しの慣れが必要です)
2. 勘(かん)に頼るな:ポップアップの「手と足の位置」
ポップアップの際、手と足の位置をできるだけボードの中心線に寄せるように意識しましょう。手は胸の横、前足はみぞおちのあたりに素早く運ぶイメージです。
定まった位置に手と足を置けるようになれば、それだけでバランスとスタンスの改善につながります。さらに、重心をボードの中心に保つことで、ノーズの浮き上がりやテイルの沈み込みを最小限に抑えられます。
また「ドシン」と勢いよく立ち上がるのではなく、「猫のように、静かにかつ素早く」ポップアップすることを心がけましょう。ポップアップは自宅の床で繰り返し練習可能です。今日から実践してみてください。

3. プレーニング効率の改善:ボードの「幅」を活かす
シーソー現象を軽減するには、ボード選びも効果的です。その目安は「長さ」ではなく「幅」です。現在使っているボードよりも、アウトラインが広いボードを選ぶのが有効なのです。特にテイル幅が広いボードは、プレーニングが早く小波攻略に適しています。レトロフィッシュやミニシモンズのスペックも参考になるでしょう。
ショップのスタッフやシェイパーに相談するときは、「波を捕まえやすく、安定して早く滑り出すボードが欲しい」と伝えてみると良いでしょう。

まとめ;小波攻略に不可欠な「分解と精査」
ポップアップによる減速は、ロングでもショートでも発生します。特にパワーの無い小波では、そこに攻略の鍵があります。また、テイクオフは一瞬です。コンマ数秒の間にさまざまな要因が起こります。一つ一つ考えている時間は無いからこそ、サーファーは考えるよりも先に身体が反射するように経験を積み重ねます。
しかし、シーソー現象を軽減し、小波のわずかなパワーを最大限に引き出すには、その反射的な動作をあえて見つめ直す必要があります。
いまいちど、自分自身のテイクオフやポップアップの動作を「分解」し「精査」してみてください。そこに初速を妨げていた意外な欠点や癖が見つかるかもしれません。
この「分解と精査」が、楽しめなかった小波を、得意なフィールドにする決定的な鍵となるでしょう。
サーファー:松下諒大(@ryotamatsushita)JPSA公認プロサーファー
取材協力:HrsTV2010(https://www.youtube.com/@hrssurf)
(李リョウ)





















