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イスラエル初のCT選手、アナット・レリオールとは?

先日終了したばかりのCS最終戦『Bioglan Newcastle SURFEST』でウィメンズのクオリファイ、最後の枠に入ったイスラエル出身のアナット・レリオール。

中東初、イスラエル初のCT選手としてもそうだが、母国が抱える大きな問題を理由に彼女を特別視する動きもある。
また、CS1年目でクオリファイを果たしたこともあり、謎に包まれている部分も多い。

今回は海外メディアStabが行なった最新インタビューを元にアナット・レリオールのこれまでの歩み、母国イスラエルでのサーフィン事情、そして、CTクオリファイの挑戦について紹介する。

アナット・レリオール プロフィール

(五輪には2大会連続で出場)
PHOTO: ISA/Pablo Franco

2000年4月29日生まれ
イスラエル・テルアビブ出身
身長162cm
体重52kg

5歳の時に妹のノアと地中海でサーフィンを始める。

2014年からWSLのプロジュニアとQSを回り始め、2018年はヨーロッパリージョナルのプロジュニアランキング2位。
2019年にフランスで開催された1,500『Deeply Pro Anglet』で初優勝を果たす。
2019年に宮崎で開催されたISAのWSGでヨーロッパ女子の最上位となり、東京五輪の出場資格を獲得した。
東京五輪は17位。
パリ五輪にも出場して9位になった。

2025/2026CSはポルトガルでの3位が最高位。パイプラインで4位に入り、最終戦の結果でクオリファイが確定した。

誹謗中傷について

PHOTO: © WSL/Darren Anderson

ご存知の通り、イスラエルは戦争中。

中東戦争にアメリカまで参戦したため、21世紀も「戦争の世紀」になってしまったと言われている。

「私はイスラエルの知事ではない。私は現在起きているいかなる戦争に対しても責任はない。私が責任を負うべき人々は、私の家族、自分自身であり、それ以上のものではない」

しかし、イスラエル出身というだけで、個人を攻撃する人々も多く、東京五輪以降、オリンピックに出場した全てのイスラエル人はオンライン上の誹謗中傷に対処するためのトレーニングを受けているそうだ。

現に今シーズンのCSの最中にも『フリー・パレスチナ』『人殺しの赤ん坊』など、多くの誹謗中傷があったと彼女は話している。
また、彼女自身も兵役を経験しており、それを批判するコメントもあったそうだ。

例えば、戦争に参戦したアメリカの選手に同じような誹謗中傷は行われるだろうか?
例えば、アメリカ人のグリフィン・コラピントに対して誹謗中傷は行われるだろうか?

答えはノーだろう。

イスラエル出身というだけで、ユダヤ人が抱えるダブルスタンダード(他の国の出身者には求められない政治的・道徳的責任)が加わり、排他的にさせているのだ。

「私はサーフィンに関連する人物。戦争に関連する人物ではない。若いイスラエル人はイスラエル国防軍に全員兵役する。人々は実戦を想像するだろうけど、実際に私がやったことはコーヒーを出し、床を掃除した。それが基本的に私のしたこと。私が自国を支持するのは、自国の人々を信じているからであり、統治を支持しているからではない。そして、スポーツに政治が入り込む余地はないと心から信じている」

アラブ諸国全体のアンバサダー

PHOTO: © WSL/Tony Heff

アナットが今回クオリファイを果たし、2週間後のベルズでイスラエルを代表して世界の大舞台でサーフィンすることは、他国の人々からは想像もできないほど大きな影響力を与える可能性がある。

サーフィンを通し、イスラエル、いや、アラブ諸国全体のアンバサダーとして平和を訴えることが可能になる。

「サーフィンが架け橋となり、アラブ諸国全体のサーファーが母国で何を経験しているのか、実際どれほど多くのものを共有しているかを知った。それは素晴らしいことよ。サーフィンの中に反ユダヤ主義や政治的立場が入り込む余地はない」

イスラエルでのサーフィン事情

世界中でサーフィンを経験し、初めてQSに出場したのをきっかけにフランスをトレーニングの拠点にしているとはいえ、普段はイスラエル・テルアビブにいるアナット。

地中海でサーフィン可能になるのは、年間120日間ほどで、ほとんどがフロリダのように小さく質の悪い波。
決してコンスタントに波がある場所ではない。

また、2023年10月7日に始まった戦争で推定30,000発のミサイルがイスラエルに向けて発射。
ミサイルの警報で海から上がらなければいけないことが「日常」でもあり、少し前にはウェーブプールにミサイルの破片が落下して穴が空いたとのこと…。

他国では考えられないサーフィン事情だけではなく、戦争で家族や知り合いが亡くなることも珍しくないと話している。

「痛みに比較などないわ。イスラエル人は一人残らず、この戦争で誰かを亡くしているか、知り合いの誰かを亡くしている。それが私たちの現実なの。私たちは回復力がある。そこには、スポーツ界の多くの人々が一般的に理解していないような、ある種の温かさや、生の実感というものがあるのだと私は思う」

生死の境にある生の実感に裏打ちされた、彼女のその強靭な精神性こそが、1年にしてCTクオリファイを果たす原動力となったと思える。

「サーフィンの先にも人生があるということを、私は知っている。病気ではなく、戦争によって愛する人を亡くすのがどのような気分か、私は知っている。それは決して良い気分ではない。他の選手を見ていると、ヒートに負けただけで世界の終わりのように感じているけど、私はそれが世界の終わりではないと知っているわ。ガザで捕らえられ、拷問を受けている人々のことをいつでも考えることができる。彼らのことを考えれば、『自分はまだ良い人生を送れているじゃないか』と思えるし、進み続けることができる」

ルーキーイヤーの目標と計画

(経験が少ないパイプラインで4位に入ったアナット)
PHOTO: © WSL/Mike Ito

最後にルーキーイヤーの目標と計画を尋ねると、まだ遠征の手配をしている段階で、とりあえずは脱落しないことが目標だと話していたアナット。

「これまであまり経験がなかったので、ポイントブレイクに凄い興味があるわ。私の強みは間違いなくバックサイドで、誰もがそう言うけど、特に大きなバレルではフロントサイドでも驚かせることができると思う。まだ誰も見たことがないものを見せたい。本来の波を滑っている、私の姿をね。CSも良かったけど、CTとは別物だわ」

CTにはイスラエルから世界の反対側を飛んできたパートナーが同行。

コーチはポルトガルのテレサ・ボンヴァロなどのコーチも務めるマヌエル・フレイレ・ガメイロだが、彼は幼い子供がいるため、シーズン中はリモートでのサポートがメインとなり、イベント毎に他のコーチを雇う計画もあるそうだ。

「2、3回は9ポイントを出したい。そうなれば最高。もっと出せれば、あるいはパーフェクト10とか。人生で一度も10ポイントを取ったことがないので、そうなれば嬉しいわ」

Stab Interview: Israel’s First CT Surfer
https://stabmag.com/features/stab-interview-israels-first-ct-surfer/

(黒本人志)

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