東京・南青山でインタビューに応じた五十嵐カノア Photo:Chiaki Sawada

五十嵐カノア「侍のメンタルで挑む」CTと五輪制覇!単独インタビューで熱弁

日本を代表するトップサーファー、五十嵐カノア(28)が世界最高峰のチャンピオンシップツアー(CT)参戦11年目を迎える。カリフォルニアの神童として18歳でCT入りを果たし、「ピークに近づいてきた」と、虎視眈々と悲願のワールドチャンピオン(総合ランキング1位)を見据える。

同時に、米国から日本に籍を移して8年間、日本代表として活躍し、名実ともに日本サーフィンを引っ張って来た。今年9月、愛知県田原市で開かれるアジア競技大会では、世界で最初の2028年ロサンゼルス五輪切符を狙う。

今シーズンのCT開幕戦を目前に、五十嵐はレクサスのイベントで3月下旬に来日。東京・南青山の「INTERSECT BY LEXUS TOKYO」で、THE SURF NEWSの単独インタビューに応じ、CT参戦10年でたどり着いた境地、一生消えないという五輪の悔しさ、日本人としての侍スピリットなど、熱く語った。

五十嵐カノア
 1997年10月1日、米国へ移住した日本人の両親のもとで生まれ、3歳から米カリフォルニア州ハンティントンビーチでサーフィンを始める。すぐに頭角を現し、14歳の時、史上最年少で『USA Championship U-18』優勝。2013年からQS(クオリファイ・シリーズ)を回り、2016年、18歳でCTに参戦した。2017、2018年には「US Open」を2連覇。2019年にはCT初優勝を果たす。
 新型コロナウイルス禍で延期され2021年開催となった東京五輪では、日本代表として銀メダルを獲得した。2024年パリ五輪はベスト16(9位タイ)。
 英語、日本語のほかに、スペイン語、ポルトガル語、フランス語の5カ国語が堪能。高校は2年飛び級の15歳で卒業し、2023年から米ハーバード大学大学院であるハーバード・ビジネス・スクールで学んだ。
 身長180㎝、体重78㎏。レギュラースタンス。契約サーフボードはJS。主なスポンサーは、クイックシルバー、レクサス、レッドブルなど。

王者の資質は「勝てる自信」

Photo:THE SURF NEWS

「ワールドチャンピオンになるサーファーと、CTにいるだけのサーファーの違いは、勝てる自信。誰にでも勝つというメンタルだと思う」

この日、アースカラーのジャケットに白いTシャツ、薄いブルージーンズ姿で現れた五十嵐。一昨年、千葉県一宮町で会った時よりも、物腰や雰囲気が柔らかで、体だけでなく、心も大きくなったように見える。

「自分のタイムラインとしては、24、25歳ぐらいからCTに入って27歳ぐらいから本当にワールドタイトルにアタックするっていう目標だった。もちろん、ずっとワールドチャンピオンになりたいと思ってたけど、実際に準備、作戦ができてきたのがこの3年ぐらい。ピークに近づいてきた。フィジカルだけじゃなくメンタルも繋がってきた。これまで自分はそのメンタルがなかった。最近、『あー、なるほど、これが足りなかったのか』って分かってきた。ちょっと今までとは違う自信。その週、世界で一番のサーファーだという自信」

2023年7月、Corona J-bay Pro Photo:WSL/Alan Van Gysen

全身から醸し出される余裕の正体は、この「自信」のようだ。自分が想定していたよりも若くしてCTに入り、夢中で走ってきた20代前半は、世界王者になるための気持ちが整っていなかったという。

CT最高位は2022年の5位

18歳でCT入りし、4年目からは総合ランキングで一桁台をキープ。最高位は2022年の5位で、カリフォルニア州トラッセルズでのファイナル5は、1回戦でイタロ・フェレイラに破れ、ワールドタイトルに届かなかった。その後、2年間は二桁台に低迷。2025年は最終戦までファイナル5入りが見えていたが、惜しくも7位でフィニッシュした。昨シーズンは準優勝が2回で、優勝は2019年以来、遠ざかっている。

<CT10年間の成績>

年間ランク主な戦績
201620位Billabong Pipe Masters 2位
201717位MEO Rip Curl Pro Portugal 3位
Billabong Pipe Masters 3位
201810位Corona Open J-Bay 3位
Surf Ranch Pro 3位
2019 6位Corona Bali Protected 優勝
MEO Rip Curl Pro Portugal 3位
2020 6位新型コロナ禍でツアー中止
2021 8位Jeep Surf Ranch Pro 3位
2022 5位Hurley Pro Sunset Beach 2位
Corona Open J-Bay 3位
202314位Corona Open J-Bay 3位
202417位Hurley Pro Sunset Beach 2位
2025 7位Rip Curl Pro Bells Beach 2位
Bonsoy Gold Coast Pro 3位
Lexus Trestles Pro 2位

4月1日、オーストラリア・ベルズビーチで開幕する今シーズンのCTフォーマットは、これまでと大きく異なる。ファイナル5が廃止され、レギュラーシーズン全9戦終了時の24位以内がポストシーズンの全3戦に進む。ポイントが1.5倍になる最終戦のパイプマスターズを含め、ポストシーズンで8位以内に入っていれば、有利なシードで各試合を進められる。ワールドタイトルを手中に収めるには、常に上位をキープする安定した強さが不可欠だ。

「一貫して100%を出す」

Photo:THE SURF NEWS

今回、手に入れた自信は勝利につながっていくのか。

「負けるのはスポーツ選手では当たり前のことで、15年負け続けた中で1回世界チャンピオンになるだけで十分。この新しい自信があるから、いきなり全部優勝するわけでもない。ただ、自分のパフォーマンスを毎回毎回、1ヒート1ヒート、100%出せるか。これまで、いい結果も出してきたけど、毎回毎回100%出せたかって自分に聞いたら、出せてないと思う。例えば去年だったら、100%見せられたのは5回ぐらいしかなくて。それが悔しい、まだある、まだまだあるって気づいたのが今回のオフシーズン。1年間、consistentに(首尾一貫して)100%を出すことが今年の目標」

2025年4月、Rip Curl Pro Bells Beach Photo:WSL/Ed Sloane

本気でCTのワールドタイトルを獲りに行く今年、優勝すれば、世界最速で五輪切符を獲得するアジア大会がCTの合間に組み込まれており、スケジュール的にはタイトだ。モチベーションの切り替え、ジャッジの違いなど、調整には困難もありそうだが、「やることは変わらない」と意に介さない。

「ワールドタイトルを獲りたい、オリンピックの枠を獲りたい、両方とも大事で、同じ努力、同じ気持ちで臨む。たとえばCTがなくてもアジア大会だけでも、同じ準備をする。CTの試合中はそこの波ばかりを考えて、終わればすぐその日に、頭を切り替えて、自然にアジア大会に入っていく」

「日本のファンはエネルギー」

Photo:Chiaki Sawada

日本サーフィン連盟(NSA)の関係者は、アジア大会での五輪出場枠の獲得へ向け、五十嵐に大きな期待を寄せる一方、CTとの両立を心配するが、五十嵐にとって、CTの合間に日本に来ることは、むしろパワーの源になるという。

「日本の空港に着いた瞬間、ファンのエネルギーで自分もワクワクしてくるし、日本のファンの前でイベントやるのは本当に楽しみで、プライド持ってやってる。いいパフォーマンスに繋がってくると思う。忙しいけど、CTの真ん中にアジア大会が入るのはありがたい。中途半端なオフシーズンとかだとリズムが崩れちゃう感じ。実際に一回一回の大会が本当に好きで。どこ行っても、何のイベントでも、プレッシャーを探してる感じ。緊張感が好き。ファンのサポートとか大切なものがあれば、それがエネルギーに変わる。そのままのリズムで行きたい。来週からシーズンに入ったら、12月までもう止まりたくない」

「東京の傷は一生忘れない」

2021年7月、東京五輪の決勝終了後、膝から崩れ落ちた五十嵐カノア Photo: THE SURF NEWS / Kenji Iida

五十嵐にとって、CTと同じぐらい重要な五輪。2021年、千葉県一宮町の釣ケ崎海岸で開かれた東京五輪の決勝でイタロ・フェレイラに破れ、砂浜で突っ伏していた姿を覚えている人は多いだろう。5年経った今、あの時の心境はどのように変化しているのか。

「優勝に本当に近かった気持ちはもう一生忘れない。やっぱりアスリートって、一回一回本当にすごい努力して、100%のエネルギー入れてるから、崩れると一生忘れない傷みたいなのが残る。もし、次、ロサンゼルスのオリンピックで優勝しても、東京の傷を忘れるわけでもない。パリのオリンピックで優勝しなかったから深くなったものでもない。それぞれ別で。悔しさはエネルギー、モチベーションにもなるし、ありがたい。もしロサンゼルスで金メダル獲ったら、この傷が力になったおかげだと思う」

2024年7月、パリ五輪 Photo: ISA/Pablo Jimenez

五十嵐の実力は、日本のサーファーのトップレベルである上に、あの悔しさを糧に日本代表として五輪に出たいという意識は、誰よりも高い。今年のアジア大会での優勝がロス五輪出場枠につながると、NSAに一報を入れたのは五十嵐だったという。

「アスリートが目標を立てる時、世界チャンピオンになる、オリンピックで金メダル獲るために、じゃあ、何をやらないといけないか。自分の準備もだけど、実際に枠を獲らないとチャンスがない。じゃあ、枠を獲るために何をしないといけないか。そういう感じで調べ始めて。ルールが決まっていないと、どこにどうエネルギーを入れないといけないのか分からない。1年間ぐらい、いろいろ聞いていたので、周りの人もすぐにインフォメーションをくれた」

2025年5月、Bonsoy Gold Coast Pro Photo:WSL/Beatriz Ryder

目標達成への計画性や信念の強さは一流の証と言える。ただ、意外にも、アジア大会優勝がもたらす全競技で初めての五輪代表という名声については、周囲が期待するほど、興味はないようだ。

「早めに枠が獲れれば準備しやすい。早めにオリンピック枠さえ獲れればいいから、初の出場権というモチベーションは違うかな。ニュース性よりも、本当にもうオリンピック枠を決めたい」

「相手を倒すのではなく自分に勝つ」のが侍

Photo:Chiaki Sawada

誰にも負けない自信、常に100%のパフォーマンスを出す胆力、悔しさへの感謝、目標完遂のためのプロ意識。五十嵐との会話では、メンタルの強さが際立つ。世界と戦う強靭な精神力の源を尋ねると、「侍」というワードが飛び出した。

「メンタルトレーニングって人によって違うと思うし、自分は今のところ、侍の本を読んでる。侍って日本人としてのプライドを持ってて、一番メンタルが強い、アスリートじゃないけど、人間だと思う。相手を倒すっていうより、自分に勝つのが、本当のメンタル・ストレングス(精神の強さ)。侍を勉強して、同じ感じ方、考え方で日本人としてのプライドを持って、世界のワールドツアーに持っていきたい」

Photo:Chiaki Sawada

侍について勉強しているのか、再度尋ねると、照れくさそうに微笑んだ。

「一生勉強したい。最初は、侍がどういう人か知りたくて、ちょっとしたストーリーとかはだいたい分かってたけど、実際に侍の考え方とかライフスタイルとか、ちょっとずつ、ゆっくり勉強してきて。日本人として当たり前のことだと思うし。自分も日本人として、アメリカに住んでるけど、ルーツは日本人として、自分のヒストリーをよく知りたくて。知れば知るほど、サーフィンに結びつける。もちろんサーフィンとかアスリートだけじゃなくて、侍のメンタルは人間として、本当に学ぶことが多いから。少しでも毎日勉強できればいいな。その勉強をサーフィンでimplement(実行)すれば、たぶん、結果に繋がると思うし、日本人の血が入ってるからこそ、自分の中でもpassion(情熱)になるし。最近はすごい勉強してます」

今年、いずれの大会もコーチは、スネークことジェイク・パターソンに託すという。CT参戦10年を経て、28歳の五十嵐は完成形を迎えたのか。

「まだ、4、5年目の気持ち」

Photo:Chiaki Sawada

「10年は10年だけど、頭の中では違う。自分の予想よりも本当に早めにCTに入っちゃったのは、感謝だけど、ちょっとタイミングがずれた感じ。だから10年だけど、実際はまだ4年目か5年目ぐらいの気持ち。10代からCT入ってると、もう子供、子供で。『あ、オーストラリアってこんなとこなんだ』『あ、ブラジルってこういう言葉なんだ、こういう食べ物食べてるんだ』っていうのが、21歳、22歳まで、ずっとそんな感じで。実際に優勝しようっていうのは本当に最近。もう今年なんて、オーストラリアは仕事のために行く感じだから。それがまた、前までのCTと違う感じで。ちょっと面白い。自分も成長してるなって。もう遊びじゃなくて本当に優勝するために行く。新しい感覚。頭の中ではCTはスタートしたばかり」

若くして経験を積んだ侍サーファーが、新参者の気概でワールドタイトルに挑む。

(沢田千秋)

取材協力:INTERSECT BY LEXUS – TOKYO
https://lexus.jp/brand/intersect/tokyo/

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