© Vasiliy Yablokov / Greenpeace

ロシア東部カムチャッカ半島で海洋生物大量死、サーファーにも健康被害

9月下旬、ロシア東部カムチャッカ半島のサーファーが海の変色や異臭に気づき、海上がりに目の痛みや吐き気を訴え始めた。同じころ、海岸にはアザラシやタコ、ウニなどを含む海洋生物の死骸が大量に打ち上げられているのを複数のソースから報告された。異変に気付いたサーファーが当局に報告し、海水を調べたところ基準値を超えるフェノールと石油製品が検出され、調査に入った環境団体グリーンピースは「生態学的災害だ」と警告。当局や観光保護団体が原因究明を急いでいるなか、複数の仮説が広まっている。

海洋生物の大量死

カムチャッカ半島では嵐の後に海洋生物が浜に打ちあがることは少なくないらしいが、今回は今までにない数と種類の死骸が漂着している。

被害状況を確認するためアバチャ湾の海底を調査した研究者イヴァン・ウサトブによると、「10~15メートルの水深では95%の生物が死んでいた」という。同行した水中写真家のアレクサンダー・コロボックも環境災害を報告、「生態系は著しく損なわれ、自然界ではすべてがつながっているため影響は長期にわたるだろう」と警告した。

調査班は死因究明のため、採取した検体を冷凍し、検査機関に送った。ロシア科学アカデミーのウラジミール・ラコブ博士は、「この辺りでは、台風のあと新鮮なホタテやホッキガイを拾って食べるのはよくあること。しかし、今回は針のないウニなど半分分解されたような瀕死の状態の生物が打ち上げられた。つまり、その多くは海底で被害に遭い、打ち上げられた段階ではすでに衰弱または死んでいたのではないか」とみている。

10月4日にグリーンピースのロシア支部が派遣した調査隊は、汚染物質と思われる変色した海水のプルームを複数確認して、その内の一つが海岸線を南下していたと報告。
9日には、ロシアの極東連邦総合大学も、カムチャツカ半島沿いに40キロの油膜が形成され、千島列島に向かって徐々に南下していることを報告した。

サーファー複数名が角膜化学熱傷と診断

カムチャツカのハラクティルスキービーチにあるサーフキャンプのアントン・モロゾフさんはSNSで体調の異変を報告している。角膜の濁り、目の渇き、痛み、そして膜が張ったような感覚。さらに喉の痛みを感じ、海水もドロドロして、苦い味がしたと言う。検査の結果、角膜化学熱傷と診断された人が8名いるそうだ。

汚染源はまだ特定できず

カムチャツカ政府は現段階で、海洋汚染の原因として3つの可能性があると言う。1つは有毒物質の流出。2つ目は有毒な藻類の大量発生など自然現象によるもの。そして3つ目の説は、火山現象による地震活動によるものだ。

上空から汚染物質と思われる変色したプルームを確認した © Matvey Paramoshin / Greenpeace

カムチャッカ地方のソロドフ知事は10月5日、カムチャツカ半島沖の海域が有毒な化学物質で汚染されている可能性があると公表し、すぐに行われた水質検査では基準値を超えるフェノールと石油製品が検出されたという。

地元住民の間では近くの軍事基地からのロケット燃料の流出、あるいは近の別の施設からの有毒物質の流出が原因だという仮説が広がっている。海から約10キロのところにあるラディギノ・ロケット発射場では多くの有毒なロケット燃料が貯蔵されていて、8月には演習を行っていたそうだ。

また、コゼルスキー有毒物質演習場では、9月上旬に近くを流れるハラクティルカ川の水が突然変色したことが報告されていて、今回の海洋生物大量死との関係が疑われる。この施設に関しては、2018年に埋め立てられている約108トンの殺虫剤などの有毒物質を覆う被膜が一部表出したと報告されている。

流出源としては特定できないものの、危険物の管理体制に疑問が残る。また、埋蔵されている化学物質の詳しい内容は公開されていないが、少なくともヒ素20トンと大量の水銀が保管されているという情報もある。ソロドフ知事は2ヶ所の軍事施設で調査を指示した。

© Elena Safronova / Greenpeace

一方、AFP通信によれば、ロシア科学アカデミーの副会長は12日に記者会見を開き、無脊椎動物に影響する毒素を作る微小藻類のギムノディニウム(Gymnodinium)の濃度が高かったとする調査結果を報告。「人為的な環境汚染ではなく、有害な藻が作る毒素が原因である」との見解を示した。

カムチャッカはまだサーフィンの歴史が浅く、しばらく混雑することはないだろう。

観光客に人気なカムチャッカ半島は大自然と活火山の他、広大なロシアの中で有数のサーフポイントを誇る。そんな地域でありながらも一貫性のある環境モニタリング体制が整っていないことが問題だと、ソロドフ知事が認めた。環境汚染には国境はなく、日本近海への影響も懸念されるなか、早急な原因究明と対策を願う。

ケン・ロウズ

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