ビーチを埋め尽くすギャラリーのほとんどはブラジリアンだった(sherman)

「ブラジルのサーフィン史に燦然と輝くワールドタイトル第1号、ガブリエル・メディーナ」-F+

波情報BCMの会員特典「BCM x F+ 2022年カレンダー」では2001年から2021年までのワールドチャンピオンを紹介。各月の採用写真について解説するF+つのだゆき編集長オリジナルコラム企画を、THE SURF NEWSでは特別に翌月公開します。今回は8月を飾ったガブリエル・メディーナについて。

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F+(エフプラス)

ブラジルのサーフィン史に燦然と輝くワールドタイトル第1号がこのガブリエル・メディーナの手に渡った瞬間、パイプラインにはブラジルのサーフシーンを飾ってきた多くの選手や、古くからの関係者や、サーフィン業界の重鎮たちや、とにかく今までのブラジルのサーフィンにかかわってきた人たちが勢ぞろいしていた。それは彼らが長いこと見てきた夢が現実になった瞬間だった。
もちろんガブ本人にとってもそうだけど、ブラジルのサーフィン界全体の大きな夢がかなった現場のテンションは、ただでさえにぎやかなブラジリアンを最高潮まで押し上げ、感極まって涙する人も多くいた。

2019年6月配布のF+034号の表紙を飾るガブ

ガブリエル・メディーナがデビューしたころのプロフィールの中で、ニックネームがthe chosen oneとなっているのを見たことがある。「選ばれし者」。まぁ、その時点でもジュニアで活躍したり、将来はCTなのかなぁ、という感じで注目はされていたけど、選ばれし者、ってニックネームすげーな、と思った記憶がある。
タイトルをとった時に、すぐにこれを思い出し、まさに「選ばれし者」だったんだな、と思った。

2010年16歳のガブ。この時のベルズで初めて見たんだろうか。私のアーカイブにはこれ以前のガブの写真は無い(snowy)
まだ華奢であどけない表情。そりゃね、16歳だから。でもリップカールの一押しキッズだった(snowy)

初めてガブを見たのはベルズビーチで、グロムサーチだったかワイルドカードのトライアルだったか、とにかく本戦とは別に行われる試合だった。ベルズの試合では潮の悪いときや風が入ったときなどの本戦のブレイクの時に、こういった試合をはさむ。よってたいていコンディションは最悪で、その時もしょうもない風が吹いているひどい波だったと思う。
名前は耳にしていたので、何となく見てはいたが、印象に残るサーフィンというよりは、若いのにずいぶんそつのない試合運びをする選手だな、と思ったのを記憶している。

2011年、QS4位でクオリファイ。この2011年という年はとても変則的なツアーの行われた年で、ニューヨークでの試合があった年。そしてその試合でボビー・マルチネスがツアーのシステム変更を批判してASPを除名処分された年。ほとんどの試合をケリーとオウエン・ライトが優勝争いをして、ASPサイドの計算間違いでケリーに一足早く優勝カップが渡ってしまった、というとんでもない事件があった年だ。
この年は前後半に分かれていて、今年のミッドシーズンカットのように、前半でCT落ちをする選手が出て、なおかつQSから前半の成績でCTに上がってくる、という入れ替えも行われた。その後半CT入り、という選手のひとりがガブだった。そしてこの年からいきなりエアーが高く評価され、カービングなどのオンレールサーフィンが急に過小評価されていた。エアーも今のようにディテールや出来ばえはそう見られることもなく、飛んで着地すればエクセレント、みたいな、今考えればとても納得のいかないジャッジだった。今でも思うけど、この年がなければ、テイラー・ノックスはまだツアーにいたかもしれない。このクライテリア変更の犠牲になった選手のひとりと言えると思う。

2011年ハワイの記者会見で。デビューイヤーで2勝していたので話題になっていた(snowy)

逆にこのクライテリア変更の恩恵を大きく受けたのがガブだ。何しろデビューイヤーのシーズン後半、2試合目のフランスで早くも初優勝をあげるのだ。その優勝に大きく貢献したのがエアーだった。結局2011年後半はもう1勝してランキング12位、そこから2012年7位、2013年14位、ジュニアチャンピオン、2014年ワールドタイトルと速いテンポで頂点に上り詰め、その後計3度のタイトル、2021年までどの年も3位以上という超人的な活躍を見せている。

2011年、後半のCTデビュー戦のトラッスルズ。彼の武器はエアーだった(snowy)
2011年、パイプ。パイプにしちゃ普通というか優しそうな波を選んでいた(snowy)

デビュー当初のガブは華奢で、エアーが売りの選手と言えた。最終戦のパイプとかは見ていて可哀そうだからやめてあげて、と感じてしまうぐらいついていけていないというか、来る波の中でも自分の扱える波だけに手を出すような、パイプはまだまだなんだな、という感じだった。

2013年パイプ。年々パイプ攻略が攻撃的に進化していく(snowy)
2014年、初のワールドタイトルをブラジルにもたらす(snowy)
優勝したジュリアン・ウイルソンと握手。この年はゴールドコースト、フィジー、タヒチと3勝、パイプで2位。どれだけバレル練習したのか、という感じの結果(snowy)

しかし、「選ばれし者」はそこからが違う。手が出なかったパイプも年々克服しているのが目に見えてわかるような進化を見せ、タイトルを取った2014年にはジュリアン・ウイルソンについで2位につけた。タイトル確定の時ラインナップにいたガブは、オーバーラッピングヒートの前半を捨ててビーチに戻り凱旋、そこからまたヒートに戻って後半で勝ち上がるという驚きの行動を見せたが、そのタイトルはブラジルのサーフィン史を大きく変える出来事だっただけに、その気持ちもわからなくはない。

2014年Jベイ。初タイトルの年で、このころになるとカーブにも磨きがかかる。CTに入ってから大きく進化したサーファーのひとりと言える(snowy)
2015年、オープニングのゴールドコーストの記者会見で。表情もチャンピオン、スターという感じに変わっている(snowy)
2015年ベルズ。世界中どこに行ってもこの騒ぎ。地元ブラジルでは気軽に外出もできなくなるような有名人になった(snowy)

とにかく若いころはコンスタンシーが大きな武器だった。どの会場のどんなコンディションでもそこそここなす、ザ・オールラウンダー。とはいえ出てきた当初のガブのサーフィンは、ある意味ブラジリアン特有の軽く早い、パタパタしたサーフィンで、私はそれをどうしても好きになれず、キミにカーブは無いのか、と思っていたけど、数年でカーブもバレルも身につけていく。デビューの頃、まさかこのキッズがタヒチ、パイプのエキスパートになるとは思いもしなかった。この対応能力というのは自己分析と練習のたまものだろう。

継父のチャーリー。彼なくしてガブのタイトルはなかった。彼のサーフィンを見る目、攻撃的な戦略あってこその結果だ。2013年(snowy)

エアーもカーブもバレルも、止まらずに年々レベルアップし、今や向かうところ敵なしかなと思う。きわどいポケットにハードヒット、エアーも高さやクオリティ重視、バレルでもなんでも波を攻める、という部分にジャッジの目が注がれるクライテリアになると、選手はケガと引き換えにどんどん攻めざるを得ない。今シーズンは昨年に比べればよりオンレールサーフィンが重視されていると思うけど、現在のガブにとってはオンレールだろうがオフレールだろうがなんでも来いだ。ビッグカーブ勝負、エアーゲーム、バレル勝負、そのどれにも世界最高峰のレベルで対応できる。CTの中でも数人と言えるトップレベルの選手に成長した。

2017年になるとバックドアの攻め方もハンパないレベルに。グーフィーフッターでこのバックドアに行けるって、あまりいない(snowy)
2018年のJベイ。2度目のタイトルを取る年になると、トップアクションもこの変化。どれだけ分厚くてでかいスプレー飛ばすんだ、という感じ(snowy)
2018年は2度目のタイトルとパイプ優勝のダブル受賞(snowy)

そのガブも28歳、12月には29歳になるアラサーになった。この先どうしたって怪我との付き合いが避けて通れない年齢だ。ケガさえなければ4度目5度目のタイトルは十分に考えられる。しかし、あの2014年のタイトル1回で、この先何十年もブラジルのサーフィン界に影響を与える大きな功績を残した。ブラジリアンサーファーでも世界の頂点に立てる、ガブが頂点に立ったから自分も行ける、それをブラジリアンサーファー全員に、絵空事ではなく現実のものとして認識させたというのは、想像以上に大きな功績と言える。ブラジリアンストーム、それは「選ばれし者」が起こした奇跡だった。

2021年マーガレットリバー。バレルだけでなく、オンレールもオフレールも同じようにどんどん進化を続けている(joli)
カレンダーのメインカットは2021マーガレットリバーでのライディング(joli)

カレンダーでは隠れているけど、こうして全体を見るとどれだけタイトなポケットに当てに来ているかがわかる。

サブカットは2014年、初タイトルの時のパイプでの授賞式。(snowy)

F+編集長つのだゆき

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