ロングボーダー必見!ウィングナット主演『Wingnut’s Art of Longboarding』が20年以上の歳月を経て無料公開中

“いつも笑顔とともにサーフし続ける、全てのサーファーたちに”
というウィングナットの素敵な言葉から始まる『Wingnut’s Art of Longboarding』

1997年に発表されたこの作品はロングボーダーのバイブル的なハウツウ・ビデオで、20年以上の歳月を経ても色褪せない。
あまりにも好評で続編が3まで発売されている。

『Wingnut’s Art of Longboarding』を制作したのは映像プロデューザーの他、現在はザ・サーファーズ・ジャーナル日本版の編集長を務めている井澤聡朗氏と音楽プロデューサーで現在はラジオDJでも有名なジョージ・カックル氏。

作品のナビゲーターを務めるのは名作『エンドレス・サマーII』で主役を務めたウィングナットだ。
最初はジョエル・チューダーという話もあったそうだが、ウィングナットとのコネクションがあったジョージ・カックル氏が声をかけてすぐに話がまとまったそうだ。

冒頭にお伝えした言葉を始め、ウィングナットのナビゲートがとにかく素晴らしく、明確。
ボード・フィン選び、ライディングはテイクオフからノーズライド、チューブライドまでウィングナットを始めとしたトップサーファーによる映像付きでわかりやすく説明してくれる。

その『Wingnut’s Art of Longboarding』の3作品がジョージ・カックル氏のYouTubeチャンネル「ジョージ・カックルのLazy Days」で現在無料公開されている。
一度も見たことがない人はもちろん、VHS時代に見たことがあるという方はぜひこの年末年始にでもゆっくりと視聴して欲しい。

特にパート1のハウツウはベテランサーファーでも目から鱗が落ちるだろう。

ちなみにトップロガーの瀬筒雄太氏も自身のnoteで『Wingnut’s Art of Longboarding』を絶賛している。

なお、この記事の最後には井澤聡朗氏に直接聞いた『Wingnut’s Art of Longboarding』の裏話や撮影秘話などがあるので、ぜひ作品を見終わった後に読んで欲しい。

ロングボードの全てが詰まったパート1

ハウツウ・ビデオというとどうしても’教材的で真面目くさった’イメージがあるが、この『Wingnut’s Art of Longboarding』でウィングナットが教えるハウツウはまるで違う。

それは後で井澤聡朗氏の話に出てくるように、ウィングナットが「筋金入りのロングボーディング偏愛者」であり、彼自身が最高のロングボーダーだからだろう。
彼がユニークなキャラクターであることも大きく、サーフムービーを見ながら上達のTipsが自然に頭に入ってくる感じだ。
また、舞台となったサンタクルーズは波が完璧なだけに見ていて楽しく、基本的にロングボードの動きは20年以上前でも変わらないので、古い作品という違和感はまるでない。

パート1には日本から木下デヴィッド氏、ショーロクこと宮内謙至氏が参加している。

パート2はサーフトリップのハウツウ編

パート1の2年後に発売された『Wingnut’s Art of Longboarding 2』はサーフトリップのハウツウ編。
舞台はウィングナットがエンドレス・サマーIIで旅をして以来、足繁く通っているコスタリカ。

この旅には日本からは吉川祐二氏が参加。
レジェンドのマーク・マーティンソンも登場する。

コスタリカでのサーフィンシーンも素晴らしいが、サーフトリップのハウツウ編だけにパート1とは違う旅のTipsが溢れている。

パート3はカリフォルニアとハワイのサーファーのスタイルの違い

最後に紹介するパート3はカリフォルニアとハワイのサーファーのスタイルの違いにフィーチャーしている。

最初に訪れる宮崎・千葉ではカリフォルニアのサーファーがビーチブレイクでクラシックスタイルを披露。
細川哲夫氏、河村正美氏、森園茂生氏も登場する。
当時、世界でも最先端だったウェーブプールのオーシャンドームでのセッションも収録。
まさか20年でこれだけウェーブプールが進化するとは想像もしなかっただろう。

ハワイにはウィングナットが当時15歳のアレックス・ノストを引き連れてきた。
その非凡な才能で初めてのハワイだとは思えないほど自由にフローしていた。
ご存知の通り、20年以上経った今、アレックスはカリフォルニアを代表するスタイルマスターの座を確立している。

もちろん、ハワイでもウィングナットのハウツウはあり、波の読み方、フェイドターンなどノースショアのサイズがある波でのロングボードのTipsが満載だ。

ハワイのサーファーは波自体が違うことでノーズライドよりもターンとバレルが主体。
ハワイアンがサーフィンを初めてまず習うのは、危険を回避するためにターンをして波を抜けることだそうだ。

パート3のハイライトは最後に登場するジョエル・チューダーだろう。
ウィングナットの前でノーズライドの秘訣を教えてくれる。
20年以上前でもジョエルはジョエルなので、彼のファンはこのパートだけ見ても十分過ぎる価値がある。

“このビデオからひとつ学べるとしたら、海への愛。サーフィンスピリット。そして、楽しみがハワイアンの証である事を持ってかえってほしい。彼らは他の誰よりも楽しみを分かち合う精神に溢れています。もし、このビデオからホームスポットで分かち合うラインナップや、シークレットスポットを分かち合う。そんな事を学んでくれたのなら僕はハッピーです。なぜならそれはスポーツとしてのサーフィン、芸術としてのサーフィンを愛する事を意味するから。ハワイの人々は自分達の楽しみをあえて僕達にも分け与えてくれました。友人とすべての楽しみをシェアする。自分の子供と近所の子供とできるだけ多くの人とシェアする。なぜなら多くの人が海に入ればより楽しくハッピーにフレンドリーに生きられるから”
ウィングナット


井澤聡朗氏に聞く『Wingnut’s Art of Longboarding』

作品の見どころと注目すべき視点はどこですか?

ウィングナットは50年代から現代に至るサーフィンの歴史に精通した本物のサーフィンオタクです。
ショートボードとコンペ中心だった70年代〜80年代をロングボードにこだわる「変人」として生き抜いた筋金入りのロングボーディング偏愛者でした。

そんなウィングナットが伝授するライディングの技術は非常に論理的で、教えるアクションすべてに「理由」が隠されています。
それは重くて長い板を無理矢理動かしていた50年代からのサーフィンとサーフボードの発展の歴史に裏づけられた含蓄ある「理由」です。
だから、ただ動きを真似るだけではなく、その「理由」に耳を傾けるともっと納得度が上がると思います。

なぜ、このタイミングでYouTube公開に踏み切ったのですか?

今はすでにYoutubeサイドで閉め出したようですが、実は何年か前に著作権者の僕らに無許可でアメリカの誰かが『Wingnut’s Art of Longboarding』の1をアップしていて、それが30万ビューくらい再生されてたんです…。
で、これをやらない手はないなという理由がひとつ。

あとは、ジョージのYoutubeチャンネルの登録者数を増やすという目的がひとつ。
ふたつの理由で公開を決断しました。
お陰様で、ふたつの目的には効果があったようです。

オープニングトーク以外の制作裏話や、ウィングナット、その他登場人物の記憶残っているセリフ等。選曲についてもこだわったポイントなどあれば教えてください

このビデオを制作するきっかけは、七里ヶ浜でボーッと海を見てたら「数年前まではひとりもいなかったロングボーダーが、今やほとんどじゃん」ということに気づいたことです。

前年、セキノ兄弟が作ったハウツウビデオを手伝った経緯があって、それが1万本以上売れてたことを知っていた僕は、これはぜひやろう!と決断して、カリフォルニアの本物のサーファーでやったらこれは売れるぞ!と目論んだわけです。

パート1に関しては、とにかくあんなに当たるとは思っていなかったので、予算をギリギリに削減して安いモーテルの1室にスタッフ2人が泊まるという慎ましい体制でやっていました。
ハンティントンにあるロバート・オーガストの工場でボードの製造工程を撮影するのに、サンタクルーズから片道800kmは優に越える距離を日帰りで往復したことは、その中でもすごく思い出に残っている荒行です。

あと、ウィングナットの後輩のジェイ・モリアリティが出演してくれたのもイイ思い出です。
当時19歳だった彼は、とても好青年で毎日サンタクルーズ界隈を回って撮影を手伝ってくれてました。
街中に例のマーベリックスでのアイアンクロスのポスターが貼られていて、すでにローカルヒーローではあったのですが、気さくに僕らに接してくれました。
確か4年後かな?彼が他界するのは…。

3では、ジョエルのレクチャーコーナーがあるんですが、あのウィングナットでさえ神童ジョエルに気を遣っているのが微笑ましかったです。
ジョエルは気まぐれで、いつも気づくと僕らのカメラの前でサーフしているといった感じだったんですが、そのジョエルも先輩マーク・マーティンソンには頭が上がらない感じで、「お前、仕事なんだからちゃんと来いよ!」と怒られると、次の日から集合時間にちゃんと顔を出すようになったのも面白かったですね。

音楽は当時タワーレコードの社長だったキース・カフーンがいろいろと紹介してくれました。
あとは、サンフランシスコのインディーズレーベルでかき集めたって感じかな。
楽曲を決めないと編集が出来ないので、選曲はすべて僕がやっています。
当時は、まだコンピュータで編集するのは主流ではなかったので、8mmビデオの編集機を家に持ちこんでキュルキュル転がしながら編集してました。

今後制作のご予定がありますか?

新作の予定は今のところありません。
「ジョージ・カックルのLazy Days」もコロナ禍を越えて、これから多彩なゲストも登場しますので、ぜひよろしくお願いします。

冒頭のウィングナットの言葉は素晴らしいですね

パート1のオープニングのウィングナットのコメントは、ロケ最終日の最後の最後に究極のワンテイクで撮られたカットです。
サーフィンの本質を突いた彼の神がかったコメントも、そのコメント終わりでピタリと止まる手動のズームインも、リハなしの本番一発で決めたものです。
カット!の声を掛けた時に鳥肌が立ったのを憶えてます。
ジョージは車でグースカ寝てましたが(笑)


(黒本人志)

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